595.アベル君と消えた教師。
595.アベル君と消えた教師。
「分かりました。皆様、申し訳ございませんでした。確かに不用意な発言でしたね。どうも私の中の知識欲が暴走し始めると、止めることが出来ないようです。性格的に破綻しているのでしょうか?」
ルシア嬢は、素直に自分の非を認め謝罪をした。
ADHDなのかな?
精神科医でもないから、診断のしようがないけど。
俺はオスカーに目配せをする。
お前がまとめろ。
俺の役目は終わったのだと。
「ああ、謝罪を私は受け入れるよ。今までこの手の話題を私自身が避けていたこともあって、今日、いろいろ聞けたのは良かったのかもしれない。後の判断材料になるだろう。」
オスカーはそう言い終えると、小さくため息を吐いた。
この場でこんな言い争いになるとは思わなかったからな。
主に俺とルシア嬢がだが。
「で、僕を呼んだ理由を話せよ。」
俺は本来の話題をオスカーに振った。
「それは私たちが聞いていてもよいお話?」
オリビィが小首をひねりながら聞いてきた。
「別に構わん。聞かれても大したことはない。」
オスカーが端的にオリビィへ答えた。
「教官の一人が辞めたな。アベル、何か知っているか?」
その話かよ。
俺に聞くよりグスタフさんに聞けよ。
お前になら、グスタフさんは素直に口を割るだろうさ。
「俺じゃなく、校長に聞けばいいだろう?」
俺の顔にはさぞ面倒臭いと書いてあったのだろう、それを見たオスカーは、若干苦笑いをしながら、
「その校長室で、お前は何をやっていたんだ?」
などと聞いて来た。
「内務大臣と校長に呼ばれて国の仕事をやっていた。」
正直且つ端的に俺は答える。
「カレッド伯爵か。それで、その国の仕事とは?」
しつこい!
「だから校長に聞けって。」
「なぜ素直に話さない。」
なおもオスカーは諦めない。
「面倒臭いからだよ。」
だから俺は正直に答えた。
「あら、なぜ旦那様がお国の仕事などなさっているのです?」
今気が付いたというように、オリビィがほんそれを俺に聞く。
だから俺も、
「僕もそれを知りたいよ。だから、グスタフ軍務大臣閣下かカレッド内務大臣閣下に聞いてくれ。」
と、俺自身の線引きに従い、要人二人の名前で対応した。
「しかし私たちの目の前にいるのは貴様だ、アベル。」
なおもオスカーの野郎は食い下がってくる。
いい加減にしろ!
この場で寝るぞ!
「だからなんだよ。俺は疲れてんだよ。もうさ、寝不足だし体力的にもヘトヘトなの。勘弁しろって。」
「それは、一晩五回もやればお疲れでしょうね。あら、失言。」
ミカ嬢がわざとらしく口を押える。
俺は彼女をジロリと見ると、逆方向へ瞳を泳がせ、知らんぷりを彼女は決め込んだ。
「それはお疲れだろう。わかる。」
そりゃわかるだろうな。
ライラ女史も獣人だし、無くなったと言ってもヒートの残滓は残っているはずだ。
ローズもそれだし。
「が、それとこれとは別だ。」
などとオスカーが宣うので、俺は珍しくキレた。
「ああ、しつこい!疲れてんだって言ってんだろうが!しかも僕より正確な情報を与えてくれる人の名も出してんのに!帰る!不愉快だ!!」
「そうですよ、お兄様。旦那様は明らかにお疲れなのに、ちょっとしつこ過ぎじゃないですか?退職なさった教官のことなら、明日でもことが足りるでしょうに。」
オリビィが慌てて俺のフォローに入るが、俺は既に椅子から立ち、入口へ向かわんとしていた。
「その教官が今朝、死んだそうだ。」
オスカーのその言葉に俺の足が止まった。
そして、俺はオスカーに向き直り聞いた。
「教官という役職が死んだって意味か?」
と、俺は聞き、オスカーはそれに答える。
「いや、人として、生き物として死んだんだ。」
「聞こうか。」
俺はまた椅子に座りなおし、疲労でガチガチになった首を押さえたのだった。
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本作は長編となっています。
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