592.アベル君とアベルの立ち位置学校編。
592.アベル君とアベルの立ち位置学校編。
授業が終わり、騎士学団幹部会室に来ているのだ。
別に俺は用事が無かったが、オスカーに呼び出された。
疲れてるんだつーの。
修練?
そっちは面倒臭かったから、三人でバトルロワイヤルしてやった。
パオロもレオも、しっかり腕を上げてきやがって、うかうかしてらんないなっていうのが感想。
そんだけ?
うん、そんだけ。
そこでも俺は疲れて、ボーっとしていた。
そこへ、
「旦那様!」
花に溜まった朝露が弾けるような爽やかな声が聞こえた。
オリビィである。
疲れているんだよなぁ。
俺は首だけオリビィに向け、
「やあ。」
とだけ、言った。
「如何なさったのです?お顔の色が優れませんが。」
さすが王族。
顔が酷いとか言わないのがいいね。
「あら、ホント酷い顔。どうなさったのです?アベル先輩。」
そう言ったのはオリビィの後から入って来た、ミカ嬢である。
「うん、僕の顔は酷いよね。」
「そういう意味ではございません。わかっていて仰ってますよね?」
そう言ってミカ嬢は俺を睨む。
疲れてんだっての!
「昨日から色々あってさ。今朝まで眠ることが出来なくて、さっきまでパオロたちと剣術の稽古もしていてね。疲れているんだよ。」
嘘ではない。
内容はオブラートに包んであるだけ。
五回以上ローズに要求されたとか、たとえパオロであっても言えないもの。
「え?五回以上!?」
オリビィが驚愕の声を出した。
あれ?なんで?
「ん?なに?」
「アベル先輩、疲れているのはわかりましたが、思っていることが口から出ていましたよ。」
ミカ嬢が俺の反応を見て呆れた顔で言った。
「ああ、そう。まあ、ホントだからね。」
俺は何もかもが面倒くさくなったので、全肯定で押すことにした。
「いつもなんですか?」
今までの二人とは違う声が俺に話しかける。
ルシア嬢だ。
「何が?」
「いつも五回以上なんですか?」
「興味あるの?」
ルシア嬢の質問に、俺は質問で返した。
「まあ、お行儀の悪い。質問を質問で返す物ではありませんよ。先輩。」
そうルシア嬢は言うが、その目は好奇心で光っている。
「そうだ、今の僕は行儀悪いよ。何せヘトヘトだ。とっくに帰ってベッドで寝たいのに、オスカーの奴に呼ばれてここに居たら君ら三人に詰められる。なんなんだ?一体。」
「逆切れしないで下さい。」
俺の物言いに、ミカ嬢がピシャリと叩く。
「ああ、そうだね。君らに当たるのは間違いだ。だから少し放っておいてくれないか?」
俺は心底不機嫌そうに言った。
「旦那様、申し訳ありません。そんなつもりで近づいたのではないのです。昨日、一回も顔を見ることが叶わずにいたので、先ほどご尊顔を拝見して、気持ちが高ぶってしまったのです。」
オリビィが心底寂しそうな顔をして宣った。
「オリビィに言ったわけじゃないよ。」
俺はオリビィにそう言って、その後ろにいた二人を睨んだ。
「はい、はい、こちらが言い過ぎでした。ごめんなさい、アベル先輩。」
全然態度がゴメンしていないミカ嬢と、
「でも、一晩で本当に五回も出来るものなんですか?本の中の話ではないのでしょうか?」
などと、ブツブツ独り言を言っている、ルシア嬢。
「ルシアさんは処女じゃないのかい?よくそんなことが分かるね。」
俺は思わず口にしてしまう。
イラついていたからね。
仕方ないね。
で、済まない雰囲気が周りにはあった。
オリビィは目を剥いて驚き、ミカ嬢は顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべていた。
そして、ルシア嬢は平然と、
「処女ですけど。」
と、言い放った。
「ああ、そう。耳年増ってわけね。」
もう糾弾したけりゃ糾弾しろ。
全部ぶっ壊すぞ。
そこまで考えていた。
「先輩!!」
俺の思ったとおり、ミカ嬢が金切り声を上げたその時、
「そうです。耳年増です。本の中だけが私の世界でした。本国の城の中で大切に育てられました。それは本当にありがたい事だと思っています。しかし大切にされ過ぎて、城より先の世界を知りませんでした。それが今、こうして隣国の学校にいる。嬉しいのです。羽ばたいていると感じるのです。知りたい!どんなことでもいい!良いことも悪いことも矮小なことでさえ、私は知って感じていたいのです。出来れば知ったそれらを基に創造したい!新たな物語を、私だけの世界を!それが今の私です。」
メガネを掛けた箱入りの創作オタがそこに居た。
「なるほど。では回数などの上限なども本で知ったと?そのような本を箱入りのお姫様に読ませるとは思えないが。」
俺は、少し冷えた頭でルシア嬢に質問する。
「そ、それは、お父様とお母様の書斎でちょっと。」
大人の本を盗み見ていたわけか。
「しかし、お三人方、こういう実情にお詳しいと見える。ルシアさんは只今仰ったとおり、オリビィは知ってしかるべきだよね。」
「え!?なんでですの?」
オリビィは素っ頓狂な声で聴き返す。
「知らなきゃあんなお話し書けないからね。」
「あ、いえ、あ、はい。」
「ミカさんも知らなきゃあんなに怒らない。違うかい?」
「そ、それは、淑女のたしなみです。」
「なるほど。それは必要だものね。」
淑女教育的なものか。
保健体育の授業も男子女子で別れてやったっけ。
そんなことを考えていると、
「本で知った身で申し訳ないのですが、アベル先輩。」
ルシア嬢の顔が真剣になる。
「実体験をしたいのですけれど、お相手願いますか?」
ブーっ!
あほかっ!!
一々、一国の公女をそんなんで抱けるか!!
しかも、もっと抱けない理由が俺にはある。
「それは僕じゃなく、そこに立っている男にお願いするべきじゃないかな?」
俺が指さした向こうには、オスカーが歪んだ笑みを湛えながら立っているのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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