591.アベル君と教室で。
591.アベル君と教室で。
俺が教室の椅子に座ってボーっとしていると、だしぬけに肩を叩かれ声を掛けられた。
「おう、昨日は授業も来ないで何してたんだ?うっわ、ヒデェ顔だな。どうした?」
パオロである。
朝一で酷い顔とは何事?
理由はわかるので、皆までは言うまい。
「昨日?校長室に居たよ。誰と何をしていたかは国の仕事だったので言えない。顔のことはほっとけ。」
そう、俺はムッツリ顔でパオロに返す。
「いや、酷いクマだぞ?あ、失敬。そういうこと?」
パオロが何か察したようなので、
「まあ、クマはそういうことだと思う。うちのローズさん、激しくて。」
と、だけ返してあげた。
「夫婦生活に精が出ますな。」
「まったくその通りで。はっはっは。」
などと、男二人で呆けた会話をしていると、
「朝からやめて下さい。」
と、フランカが挨拶無しで突っ込んで来た。
「何を?」
俺はフランカに何を止めるのか聞いてみる。
「その、今、お話ししていたようなことです。アベル様?まあ、酷い顔。あまり、あ、あれだとお身体に障りますよ。」
「あれって、夜の夫婦生活のことかい?」
俺はフランカの言葉に、あけすけな質問で返してあげた。
「言わせないで!もう!」
そう怒鳴ったフランカに教室中の視線が集まった。
それに気が付き、顔を朱に染めながら俯くフランカ。
その横に座ったパオロが、若干厭らしい目をしながら、
「仕方ないじゃないか。アベルには相手がいるのだから。」
などといらない追撃戦を繰り広げようとしていた。
すると、いきなりフランカの身体から得も言われぬ燃え上がる炎のような殺気が立った。
ブワッ!て感じで。
「黙れ。」
フランカがパオロへ静かに言い放つ。
こっわ。
「はい。」
デカい身体のパオロが返事をしてから、十分の一程度縮んだように見えた。
二人は仲がいいなぁ。
そう思うアベルであった。
「アベル様も!」
フランカの鋭い気が俺に向く。
「ごめんなさい。」
俺は即座に謝った。
前世のトラウマが出たやもしれぬ。
まだ引きずるか。
そんなことを繰り広げている教室に、座学の教師が入って来た。
おかしい、今日は朝の連絡事項が終わったら、剣術の修練の筈だが。
「全員傾注!」
教師の鋭い号令が飛ぶ。
「いきなりの話で驚くかも知れないが、剣術の授業を務めていた教官殿は昨日を以って退職された。」
あら、対応早すぎ。
しかも事後法じゃん。
「理由は発表されない。いいな?」
座学の教師は、言葉に圧を掛けた。
生徒たちに詮索無用と言っているのだ。
「返事!」
「「「はい!!」」」
座学の教師であっても、やってることは軍隊のそれだな。
あ、それだった。
「よし、これからしばらくは後任が来るまで剣術の授業は各々で修練するように。わかったな。」
「「「はい!」」」
「以上である。では着替えて修練場に行け。解散!」
そう言って、座学の教師は教室を出た。
そして教室が一気にざわつき始めた。
「なんでだ?」
「態度悪かったしな。」
「そうそう、自分は何もせず、アベルとパオロたちに他の生徒を見させて、自分は何処か行っていたし。」
「不良教官だったよな。」
などなど。
まあ、切られる要因はダンジョンだけじゃなかったってわけだ。
あの人はメンタル強そうだし、冒険者でもどこかの騎士にでもなって生きていけるだろう。
「アベル、昨日は国の仕事と言っていたな。」
パオロが訝し気に聞いて来た。
「ああ、そうだよ。」
「これか?」
「教官か?確かにここは国の施設だが、そんな仕事は僕の範疇に無いよ。」
「だよなぁ。」
パオロ君、なかなか鋭くなったじゃないの。
詰めが甘いけど。
学校なんて甘い世界が今の俺の世界じゃないんでね。
入りたくなかったけど。
昨日無理矢理入れさせられたんだけど。
思い出したら無性に腹が立ってきた。
「パオロ、着替えて修練場へ行こう。相手をしてくれ。」
「おうよ!」
ここは一発、パオロ相手に身体でも動かさんと気分が悪い。
「なんだ?剣の勝負か?俺もやる。」
いつの間にか、レオが隣で聞いているのだった。
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