589.アベル君と制度作り。
589.アベル君と制度作り。
「さて、お二人にお願いがあります。」
そう言ったのはカレッド伯爵だ。
グスタフさんは訝しげに眉をひそめ、俺はと言うと、
「へ?」
と、何ともだらしない返事をしてしまった。
だって、カレッド伯爵からお願いとか怖いじゃんね。
今までの俺の環境から鑑み、死んでくれとも言われかねないし。
「件の制度のガイドラインを作りたいんでね。」
カレッド伯爵は軽く言う。
この三人でガイドラインを作る?
冗談でしょ?
一学生が口出して、法整備とか。
国会で審議してくださいよ。
専制政治国家だった。
「僕が制度を作る側にいるのはどうなんでしょう?」
俺は口を挟む。
明らかに面倒臭そうだもの。
「なに、君の口から陛下に説明して決裁を貰うように強要しようなんて思っていないさ。」
そりゃそうだろ!それなら文官分の給料をもらわなきゃ割に合わない。
さらに、カレッド伯爵が口を開いた。
「整理すればこうだ。軍務大臣閣下はこの学校の責任者だから、このガイドラインには必要不可欠。これがちゃんとできれば、宰相閣下の鼻をあかすことが出来るかもしれませんね。」
「そうか!ビルをな!」
グスタフさんは前のめりになった。
チョロすぎでしょう、もう。
「アベル君には、犯罪の当事者、いや、冒険者ギルド、D級冒険者としての見識をうかがいたくてね。ダンジョンで一番潤っている、大領地の嫡男としての見識も頂けるとありがたい。」
すでに犯罪者って言っておいて、それか。
「それに、これまでもいくつか作っているじゃないか。学校とか、官僚制とか。」
逃がすつもりはないらしい。
「国家の法を作るのは初めてですけど。」
俺は憎まれ口を言ってしまう。
「何、私みたいな矮小なものでも口を挟んで作れるのだ。安心しなさい。」
その物言いのどこに安心感があるんだよ!
と、口に出せない嫡男であった。
終わらないけど。
「それで、いつやるんですか?」
俺はカレッド伯爵に聞いてみた。
一応ね。
「今日だ。」
「今日!?」
「そうだ。」
「ここで!?」
「ここでだ。」
マジかよ、押しが強すぎだよ、この義父。
ローズ、ご飯は冷める前に一人で食べてね。
「私も時間が無くてね。学校の制度に割く時間は最小にしたい。」
なるほど、内務大臣の時間資源の人身御供になれというわけですね。
「僕は勉強がありますので、この辺で。」
俺が踵を返そうとすると、
「事後法で、裁きたくはないのだがな。」
ボソリとカレッド伯爵が言った。
俺の心臓に氷の手が触った。
ここは専制国家なのだよなぁ。
生徒の権利だのなんだの言って、結局は為政者がすべて支配できるのだ。
まあ、少なからず縛りはあるけどね。
「わかりましたよ。従います。」
「アベル君ならそう言ってくれると、私は思って信じていたよ。」
俺の諦めに、カレッド伯爵の瞳がキラリと光った。
「ところでアベル、この緑鉱石は幾らになるんだ?」
今の状況を見ていたのに、グスタフさんが呑気に金の話をし始めた。
「そうですね、中央ギルドで金額の話まで行かなかったので、ヴァレンティアのギルドの相場になりますけど、金貨五枚程度ですね。」
「「金貨五枚だと!!」」
大臣二人が目を剥いた。
大臣閣下と言えど、石っころ一つの値段で驚くか。
驚くよな。
五百万円だもん。
法衣貴族ならなおのことだ。
法衣貴族とは、領地を持たず国の職務について禄を食む貴族たちのことだ。
つまり、高級官僚であり、サラリーマンだな。
主に城に仕える文官だ。
大臣たちもその例に漏れない。
だから、ヴァレンタイン領のような領地経営はしていない。
商売っ気は皆無だ。
勿論うちのウィリアム爺ちゃんの様に、飛び地に領地を持っている人もいるけどね。
その飛び地を、母さんの兄である影の薄いジェームス伯父さんが、子爵として領地経営をしている。
修行なんだそうだが、伯父さん自身そちらの方が好きらしくて、宰相の地位を継ぎたくないらしい。
その宰相のお鉢が、俺にまわって来そうになったのだが、それはまた別のお話。
脱線した。
とはいえ、このようなボーナス的なものはほとんどないと言っていい。
「冒険者ギルドが買い取るわけだな?」
念を押すようにグスタフさんが聞いてくる。
「ダンジョンのドロップについては基本的にそうです。この学校のダンジョンについては管轄外らしいですけどね。」
「うむ。仮に今までこのようなものがあのダンジョンから排出していたとしたら、ずいぶんな損失を被っていたことになる。」
グスタフさんは、今更気が付いたようなことを言った。
俺としては気が付いて欲しくなかったけどね。
「冒険者と冒険者ギルドなら、ダンジョンでドロップしたものは冒険者の物です。買い取りの時に税は掛かりますが、それ以外は誰も文句言えません。身体を張って手に入れたものですからね。」
俺は現場を知らない高級官僚二人に一応釘を刺したのだった。
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