586.アベル君とやる気と一肌。
586.アベル君とやる気と一肌。
「はい、内容はだいたい把握できました。未来ある若人のやる気をなくさないために、私たちがどう一肌脱ぐのかが問題ね。一番この問題に近い、ルミナから聞こうかしら、どうすればいいと思う?」
婆ちゃんは俺の発言を取りまとめ、問題の解決策をルミナ夫人に聞く。
「え~?グスタフをこの三人でボコす?」
「それが一番手っ取り早いわね。でもそれじゃないでしょ。」
ルミナ夫人の危険球を婆ちゃんが捌く。
「まあ、ダンジョンからドロップが出た場合の処遇の仕方をグスタフに聞いてみるわよ。でも滅多に出るもんじゃなかったんでしょ?あと、あれね。」
「あれとは?」
ルミナ夫人に王妃が聞いた。
「教官のことよ。今のアベルの話だと嫌な奴じゃない?人を見て会話を変える感じとか。魔石をポッケナイナイしているかもしれないでしょ?魔石も国有財産になるはずよね?となれば、個人的に処分していたら、それは業務上横領。それを見逃していたならば、学校長も責任が問われるわ。困ったわね。」
全然困ったっぽくなくルミナ夫人は言った。
話が一気に学校の運営問題にまで広がった。
確かにあの教官はやる気なかったしね。
でもそこまで問題が大ごとになると、グスタフさんは大丈夫かな?
教官の不祥事による監督責任か。
業務上横領と職務怠慢。
一部生徒による証言。
あ、また面倒くさくなりそう。
「あの、話広げるのやめません?」
俺は申し訳なそうに言った。
「あら、アベルったら、話が広がったから今更怖くなった?それともいつも通りに面倒臭くなったのかしら?」
婆ちゃんはテレパシストの如く、俺の気持ちを先回りする。
「あ、うん。まあ。」
俺は口ごもることしかなかった。
高い空に、鳥の鳴き声とそれを運ぶ風が吹く。
さわやかな天気と心地よい気温、それに直射日光をふさぐ大きなパラソル。
その影の下で、俺はやけに汗をかいていることに気が付き、ポケットにしまってあったハンカチを取り出し、額を拭いた。
「大丈夫よ。生徒に不利益が出るような裁定はしませんし、させません。」
そう言ったのは王妃。
「そうね、たぶんグスタフは気が付いていると思うわよ。あの人、アベルが思うより気が回るのよ。普段はそんな風には見えないけどね。」
ルミナ夫人も、俺への気遣いなのかそんなことを言った。
「状況を鑑みれば、僕が心配することは微塵もないはずです。ただ、グスタフさんのお立場を失念していました。まさに汗顔の至り。恥ずかしい限りです。」
俺はそう言って、頬の汗をハンカチで拭う。
「アベルをいじめる教官とやらはとっちめないとね。」
そう笑いながらルミナ夫人が言う。
「組織というものは、真面目だけでは回らない。これは真理です。しかし、度を越えた不真面目はいずれ裁かれなければなりません。早いか遅いかの差でしかないわ。アベル、何も心配しなくていいのよ。」
王妃が俺を気遣う。
「ええ、承知しております。王妃陛下。しかし、ありがとうございます。」
俺は手短に王妃へ礼を言った。
「さて、それでは私たちはどう亭主たちを動かすか、思案しましょうか。」
えっぐっ!こっわっ!
いや、俺は明快にこれをこそ期待してこの場にやってきたのだ。
この人たち、国家を、いや騎士学校をどうこうする力はない。
あ、王妃はもちろん抜いて。
この人たちの旦那衆こそ、この国の力である。
それに期待してきたはずなのに、この人たちがいざ動こうとすると、とんでもないことをしたのではないかという気持ちになってしまう。
子供が触ってはダメと言われたスイッチを押したような。
そんな気分を今、俺は味わっていた。
空は高く、雲は白く、平和な庭の一画で、俺は気持ちの昂ぶりを覚えるのだった。
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本作は長編となっています。
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