585.アベル君と石の行方。
585.アベル君と石の行方。
「よろしいですか?」
年甲斐もなく、キャッキャしてる婆ちゃんたちに俺は割って入った。
「ええ、いいわよ。今日はアベルの話を聞くための会ですもの。」
婆ちゃんは微笑み、カップを口元に寄せた。
スッと、涼しい風が俺の頬をかすめる。
「いい風ですね。」
割って入っておいて自分が脱線してしまった。
「そうね、今にして思うと、此処の土地を選んで正解だったわ。ウィリアムと来た頃は何もなかったのよ。この辺。」
「爺ちゃんがこの家を建てたの?」
「そうよ。侯爵家といっても、あなたの曾お爺様は役職付きであったけれど、一文官でしかなかった。実質一代でこの家をウィリアムが築いたと言っていいの。」
「ウィリアムは子供のころから頭がよかったからね。いつもグスタフと喧嘩をしていたけど。」
ルミナ夫人が話し出す。
「身体と力じゃグスタフが勝っちゃうから、手は出さなかったのよ。あのころからグスタフは優しかったわ。」
そう言って、ルミナ夫人は遠い空を眺めた。
「あら、叔母様ったら惚気ですか?」
王妃がルミナ夫人に茶々を入れる。
「グスタフのことは、もう惚気飽きちゃったわね。」
そうやってルミナ夫人は肩をすくめた。
「まあ。」
そう言うと、婆ちゃんはクスクス笑う。
この人たちは、自分の伴侶の話をするときに、少女に戻っているのかもしれない。
昔話のときは、というエクスキューズが付くのだろうけど。
「すみません、自分でずらしておいてなんなんですが、よろしいですか?」
俺がそう言うと、三人とも無言で頷いた。
「この緑鉱石の処遇についてです。」
俺がポンと石を叩くと、婆ちゃんが口を開く。
「整理しなさい。アベル。」
一から整理して考えさせろってことか。
「ローチからドロップしたことは話をしました。」
「ええ。」
頷いたのは王妃。
「その時点で四匹のローチを仕留めていました。ですから、四個の魔石が手に入った。そしてそのうちの一匹からこの緑鉱石が出た。」
皆は黙って聞いていた。
「僕はこの石を鎧のポーチに入れて、ダンジョンの入り口から出ました。その時、教官が入り口で待っていました。」
俺は、一口お茶をすする。
この三人を目の前に話をするのは、なぜか、セイナリア城での査問くらいに緊張するな。
「教官は僕たちが採ってきた魔石を要求し、自分のポケットにしまいました。それを見てポーチからこの石を出すわけにいかないと思いました。」
「それも教官のポケットにしまわれると思ったのね?」
婆ちゃんが聞いてくる。
「ええ。それから、魔石は渡す、ではドロップが出たらどうすればいいかという話をしたのです。」
婆ちゃんがうなずく。
「教官の態度は、先ほどの王妃陛下と同じ認識でした。このダンジョンに出るわけがない。もし出たのなら好きにしろ。こうでした。」
「なるほど。アベルはその時点ではその教官の言質を取ったと思ったのね。」
ルミナ夫人が聞いてくる。
「ええ、その通りです。そして姉も重ねて教官に聞きました。姉に対しては教官の態度も横柄ではなく、他校の教授の言い分を聞き分けるという姿でしたが、言質を更に重ねることに成功したのです。」
「シャーロットも言質を取り、あなたはこの石をその教官に見せることもせず持ち出した。そうね?」
「ええ。」
俺は婆ちゃんに答える。
「そしてそれを冒険者ギルドに買い取りしてもらおうと思ったら、国有財産になるだろうからってつっ返されたってわけね。」
ルミナ夫人がドミトリさんとの会話を聞いていたかのように言った。
「ええ、その通りです。僕らはこの石の現金化の当てを失ってしまいました。」
「その国有財産を、生徒の物にしていいのか?そう言う取り決めが騎士学校内であるのかどうか、それが知りたいのでしょう?」
王妃がそう聞いてきたので、
「端的に言えばそうです。駄目なら諦めざるを得ません。ダンジョン実習のモチベーションも下がりますけどね。」
俺はそう言って皮肉気に笑うのだった。
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本作は長編となっています。
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