578.アベル君とニックと魔素。
578.アベル君とニックと魔素。
「キャーキャー言ってないで、ちゃんと戦いなさいよ。特にマヤ、お前今回はなんもしてないんだからな。分かってんだろうな?」
俺の蜘蛛だの蠍だの発言を聞いて、大声を上げる二人に俺は釘を刺した。
「はい…」
しょぼんとした顔で、マヤが答える。
「だが、いいこともあるぞ。魔物と言えば魔石だが、それだけじゃない。それはドロップだ。」
「ああ、なぜか魔物が持っている宝石だったり、アイテムだったりのことね。」
ロッティーが俺に代わって説明する。
「そう、今回は幸運の女神も一緒だからな、多分出るぞ。」
「いやだ!アベルったら、私を女神だなんて。」
そう言って、なぜかロッティーがモジモジする。
「いや、姉さんじゃなくて、アンネね。」
俺がそう言うと、
「そうなんですか!」
と、素っ頓狂な声をマヤがあげた。
「そんなんじゃないのよ。ただ、アベル様たちと私がダンジョンに入ると、ドロップが出る確率が多いらしいの。偶然だと思うんだけど。」
などと、神の依代である聖女様は謙遜する。
ただ、その神自体は貧乏神に近いがな。
「それとさ、これはさっきの会話で気が付いたんだけど、ニック、呼吸を意識するように。」
「呼吸?魔素呼吸の練習のことですか?」
ニックが釈然としなさそうに聞いてきた。
「そう。僕も今さっき話していて気が付いたんだけどさ。ダンジョンは奥に行くほど空気中の魔素が濃くなる。ならば、呼吸で魔素を感じる確率が高くなるんじゃないかって気が付いたんだ。やってみてくれないかな?」
俺はそうニックに説明してみた。
「あら、ニック君はまだ魔素を感じることが出来なかったのね。」
ロッティーが俺に聞いてきた。
「ニックもマヤも市井の出だからね。魔法が騎士業に必要とは知らなかったんだ。」
「ああ、いつか母様の言っていた問題ね。マヤちゃんは魔素を感じられるの?」
「はい!アベル様が魔法サークルというのを立ち上げてくださって、そこで魔法を使えるようになりました。私は剣士ですから、バフしか使えませんけど。」
マヤが自ら元気に答えた。
「それでマヤちゃんはその歳で魔素を感じられたのね。偉いわ。」
そう言ってロッティーはマヤの頭をなでる。
そしてマヤは気持ちよさそうに首をすくめた。
やはり猫だな。
「でも、大丈夫なの?家庭教師たちが黙ってないわよ。」
またその話か。
「十五歳以上の生徒たちに魔素呼吸を教えたって、連中は何も言ってこないと思うよ。連中だって捨ててしまう年齢だもの。」
「そうね。若ければ若いほど感じやすいですもんね。でも、ダンジョン内なら魔素が濃いからいけるんじゃないかってアベルは考えるのね。」
「そ。やってみる価値はあるんじゃないかって、さっき思った。」
「話は戻るけど、ニック君がいまだ感じられず、マヤちゃんは感じることが出来た。そのサークルでの成果はどれくらいだったの?」
魔法大学校の教授としては興味あるだろうね。
「ざっくり三割。最大三十人のうち、十人が感じることが出来た。」
「三割はすごい成果ね。でもうちの大学じゃやらないと思うわ。」
「そりゃそうだろうね。みんな魔法が使えるから魔法大学校に来るんだから。」
「家庭教師たちのコネクションも大学にはあるのよ。」
「ああ、なるほどね。」
俺は天井を仰いだ。
岩しか見えなかったが。
「ま、ダンジョンの説明は以上だ。今日はもう引き上げよう。次回から本格的な探索に移る。いいね。」
「「「「はい!」」」」
いいお返事だ。
そして俺たちは荷物とローチの死骸を片付け、ダンジョンの入り口に戻った。
「アベル・ヴァレンタイン!どうした!お帰りが早いじゃないか。」
入り口でテントを張り、アウトドアソファのような椅子でくつろいでいた教官が、馬鹿にしたような声をかけてきた。
「初日でしたので、無理はしたくありませんでした。虫系のダンジョンというのも知りませんでしたしね。」
俺がそう言うと、教官はつまらなそうに、
「そうか、言わなかったかな。で、魔石は採ってきたか?」
そう言って俺の前で手のひらを広げて見せた。
「これだけです。」
俺は小さな魔石を教官の掌に載せた。
「四個か。ふん、存外不甲斐ない。」
そう言って、教官は自分が履いていたズボンのポケットに魔石を放り込んだ。
「魔石は教官が徴収なさるのですか?」
「私ではない。学校が徴収するのだ。わかったな。」
教官は悪びれもせずに言った。
今はそれでいい、問題はこれから。
「はい、教官。」
「よろしい。」
俺は素直に返事をし、教官は満足げに頷いた。
そこで俺は、今気が付いたとばかりに教官へ質問をする。
「で、一つお聞きしたいのですが。」
「なんだ?」
「徴収するのは魔石だけで?」
「どういう意味だ?」
教官は面倒臭そうに聞いてきた。
「ドロップが出た場合は?」
ドロップと聞いて、馬鹿にしたような笑いが教官の顔に張り付き、
「このダンジョンでドロップが出たというのは聞いたことがないが、まあ、出たら好きにするがいい。出たらな。」
と、ハエでも追っ払うかのように、片手を振りながら教官は言い、そっぽを向いた。
よし、言質は取った。
「私も聞きました。よろしいですね、教官殿。」
そっぽを向いた教官にロッティーが念を押した。
「はい、シャーロット教授。お好きにしてください。」
さすがに教官も大学教授を無碍にはできないようで、ロッティーにはちゃんと対応する。
「ありがとうございます。」
ロッティーは淑女然として気品高く含み笑いをし、そして皆と一緒にその場を去った。
そう、俺の鎧のポーチには、緑に光る石が入っているのだった。
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本作は長編となっています。
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