574.アベル君と仕事は大変。
574.アベル君と仕事は大変。
ニックが一匹仕留め、残るは三匹。
「あともう一匹行ける?」
俺はニックに聞いた。
「大丈夫です。」
肩に緊張の固さは見えるが、まだ余裕はニックにもありそうだ。
「じゃ、一番左端の一匹を二人で殺るぞ!」
俺はニックに言った。
「承知!」
ニックが返事をし、それを聞いてアンネに俺は叫ぶ。
「アンネ!右二匹は屠って良し!」
「はい!」
アンネの返事が聞こえたと同時に、俺とニックは走った。
その脇から、ファイアーボールが連射で飛んでくる。
俺たちの目標ではない二匹の動きを予想するように、射線が広がりローチの逃げ道を塞ぐ。
アンネもうまくなったもんだ。
そして、ローチ二匹にファイアーボールが数発命中し、虫が纏っていた油に引火すると、盛大に燃え上がった。
臭いんだよな。
おっと、そんなことは言ってられない。
俺はまた身体強化で防御力と膂力を上げる。
そして剣と身体を使って、ローチの頭を抑え込んだ。
その脇から影が走り、ローチの首に剣を差し込み、ローチは動きを止めた。
「よし!よくやった、ニック。」
「いえ、アベル様のフォローのお陰です。」
そうニックは謙遜しながら、はにかむように笑った。
「アンネ!フォローありがとう!」
俺は後方のアンネに叫ぶ。
「はーい!アベル様は大丈夫ですか?」
アンネが俺を心配するので、
「こっちは平気だよ。」
とだけ、返した。
さて、ここからが本題だ。
「みんなこっちに集まって。」
俺は全員に召集を掛けた。
ニックは傍に居るし、アンネは俺に向かって走り出した。
残り、役立たず二人がトボトボとローチの死体を遠巻きに避けるようにやって来る。
「さて、残りの作業を君らにやって貰おうかな。」
俺は、マヤとロッティーを見ながら言った。
「残りの作業って?アンネちゃんとアベルたちが殺したじゃない。」
「うん、僕らは殺した。だから、魔石取りは姉さんとマヤの仕事だ。」
「「えっ!」」
「これやってこそのダンジョンであり冒険者だよな、アンネ。」
俺はニヤつきながらアンネに言った。
「そうですね。冒険者のダンジョン探索は魔石をとることで収入になりますから、それをおろそかには出来ません。」
真面目な顔でアンネが答えた。
「私は冒険者にはならないわ。」
「私もです。騎士になるのが目的で、騎士学校に入ったんですよ。」
ロッティーとマヤが屁理屈ぶちかます。
「そういうのいいから。とにかくやって。首から手を突っ込めば魔石があるから。」
「アベル、どうしても駄目?」
ロッティーが甘えてきた。
見目麗しい妙齢の御婦人に甘えられたら、デレッとしてしまうだろうが、ロッティーは残念、姉である。
「駄目。」
俺が一言言うとシュンとした。
「ニック、代わって、お願い。」
可愛い小動物が、ニックに一生懸命媚を売っている。
「アベル様に言いなよ。」
ニックは歯牙に掛けることもなくマヤを突き放した。
「仕方ない。一匹見本を見せてやるから。」
俺はそう言って、脇に転がっているローチに近付くと、頭と胴の隙間をグイッと広げ、
「ここから手を入れるんだ。」
そう言って躊躇なく腕を差し込んだ。
メリメリ、肉や繊維が裂ける音を立てながら、俺の腕がローチの胴に差し込まれて行く。
「いやー!」
ロッティーが叫んで、目を手で塞ごうとした時、
「姉さん!ちゃんと見なきゃ勉強にならないだろ!」
そう言って、俺はロッティーに怒鳴った。
イラついてるな。
いかん、いかん。
そして俺は指先に固い感触を見つけ、それを掴むと一気に腕を引き抜いた。
腕には虫の体液やら何やらが付着するが、そういうものなので問題はない。
で、指先に、一個の小さい黒い石が光っていた。
「これが魔石。ね、簡単でしょ。」
それを見たロッティーは、顔色を真っ青に変え、その場に倒れこむのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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