573.アベル君と楽しい実習。
573.アベル君と楽しい実習。
俺は今、薄暗いダンジョンの中にいる。
パーティーメンバーは、マヤと俺が前衛でタンク、ニックが斥候、アンネが後衛で前衛サポート。
で、もう一人。
「アベル!ワクワクするわね!」
そう言ってはしゃいでらっしゃる、ロッティーその人である。
「姉さん、はしゃいで前衛の邪魔をしないでね。アンネにちゃんと後衛の仕事の仕方聞いて。」
「厭だ、分かっているわよ。ね、アンネちゃん。」
「はい、シャーロット様。」
アンネは明るく頷いた。
「しかし、この革鎧というものは動きにくいわ。いつものローブが良かったのだけど、アベルなんでなの?」
今のロッティーのいでたちは、前衛の俺たちとほぼ同じ、革鎧を着ている。
「なんでって、危ないからだよ。」
「そうかしら?」
ロッティーはご不満のようだ。
「そこらへんの尖った岩にローブを引っ掛けて、全裸になりたかったらそれでもいいけど。」
「そんなドジじゃないわ。母様だって、冒険者の頃はローブでダンジョンへ入っていたって言っていたじゃない。」
だからそれが俺の目からすればおかしいんだっての。
「僕のいうことに不満があるなら、パーティーから抜けて頂いてもよろしいですよ。シャーロット・ヴァレンタイン教授。」
「あら、そんな脅しには屈しないわ。アベル・ヴァレンタイン君。」
そう言って、ニコリとロッティーは笑った。
目の奥は笑ってないがね。
ダンジョンへ入る以前から説得が大変だったんだ。
いかに危険か、プロテクター類があった方がいいか。
そりゃもう、俺とアンネ、それとローズも一緒にロッティーに説いた。
革鎧なんて、吊るしで買ってすぐ着けられるような物じゃないからさ。
ある程度、身体に合わせるには時間が必要だったから、急がねばならなかった。
「他のパーティーは鎧の着用を強要されてないじゃない。」
「よそはよそ、うちはうち。」
俺はどこぞのおかんが言うようなことを言った。
「もう、所帯じみているわよ。アベル。」
呆れたようなロッティーの物言いに、ダンジョンに入っている緊張感の所為か、流石の俺もキレ気味になった。
「これ以上文句言うようなら、探索切り上げて帰るよ。僕の言うことを聞くからって無理矢理ねじ込んできたのは、姉さんなんだからね。」
「わかったわよ。怒んないで。もう。」
ふくれっ面でロッティーは黙った。
そこへ、先の様子を見に行っていたニックが戻ってきた。
「アベル様、敵が四、こちらに向かってきます。」
「どんな魔物だった?」
「虫ですね。平べったい。言わばゴ…」
「わかった。ローチだな。」
「それです。」
そう言ってニックは戦闘態勢をとった。
「ローチって虫なんですか?」
「虫だよ。ほら、出て来た。」
マヤが俺に問うたので、丁度岩陰から出て来たローチを指さした。
「「きゃー!」」
マヤとロッティーが叫んだ。
まあ、そうなるよね。
ロッティーの後ろで平然としているアンネも最初はそうだったもの。
ローチは見た目が大きなゴキブリだ。
このダンジョンは、虫が中心のダンジョンなのかな?
だとすると、もっといろいろ出てくるはずだが。
とりあえず、目の前の敵を片付けよう。
「ニック、俺が先頭を押さえるから、そいつを殺れ。首と胴の間に隙間があるから、そこに剣を差し込めば簡単に殺せる。いいな。」
「承知!」
「アンネは後ろの三匹をけん制。行くぞ。」
「はい!」
アンネはそう言うと、ファイアーボールを先頭の後ろから迫ってくるローチに向け、単発で発射する。
足止めしてくれるだけでいい。
ニックの経験を積む方が先だ。
キャーキャー言っている、初心者二人はとりあえず放っておく。
俺は先頭のローチに取り付いて、鋼鉄の剣でけん制する。
今回は黒曜鋼の剣は持ってこなかった。
使ってみたいんだけど、あまり強い剣を持ってきても周りの訓練にならないかなって思って。
いざとなれば、ウォータージェットやガストーチがあるからさ。
まあ、最近の俺はもっぱらそっちがメインなんだけど。
身体強化を掛け、剣でローチの頭を押さえつけることに腐心していると、
「ぎぃぃ!」
石と石を擦り合わせるような声を上げ、俺が抑えたローチは死んだ。
俺の目の前には、魔法は使えなくてもキッチリ剣士として使える男が立っているのだった。
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