572.アベル君と結局。
572.アベル君と結局。
大男が座る地面が焼け焦げ、そこから白い煙が立ち上った。
母さんも、これで爺ちゃんと父さんの喧嘩を止めたっけな。
しかし、今回は身内の喧嘩ではない。
大男を見ると、その尻あたりから、水分が染み出てきたのが分かった。
ビックリしたんだろうね。
「あ!漏らしたの!?」
容赦ない声を飛ばす者がいた。
マヤである。
無邪気な子供ほど、このようなアクシデントに容赦ない声を掛ける。
うわー!きったなぁ!えーんがちょってやつだ。
しかし、これを放っておくといじめなどに直結するので、言われた方の初期対応は慎重かつ大胆に行わなければならない。
と、今の俺が思っても仕方ないことなんだけどね。
しかし、マヤは俺と同い年なんだがな。
どうも所作が子供っぽい。
精神的に老成している俺がマヤを見るのだから仕方ないのだろうか?
「ヴィクター君、君は帰りなさい。よろしいですよね?教官殿。」
ロッティーは、いまだ呆けている大男に帰るよう言った。
「大学の学生さんですから、そちらの良きように。一人くらい減ったくらい問題なかろう?アベル・ヴァレンタイン。」
などと、呑気に教官が聞いて来た。
「そうですね。後衛は僕もフォロー出来ますから、問題ないと思います。」
「そうよね、アベルは何処でも対応できるわよ。でも、無理しないで。無理なら私が入るわ。」
そう言いながらロッティーの目が輝きだした。
対処を誤ると、更に面倒になるぞ。
「シャーロット・ヴァレンタイン教授、ご厚意は嬉しいですが、これは学生の領分ですので、御高名な教授がパーティーに入ると、それはそれで勉強にならないかと。」
「あら、アベル。そんな他人行儀な。悲しいわ。甘えてくれていいのよ?」
などと、ブラコン的甘々なことをロッティーが言った。
「公私は分けるんでしょ。」
俺は楔を一つ打つ。
「そうよ。でも大学の不手際で一人減るんですもの。責任者が責任をとらねばと思ったの。」
アベルは回り込まれた!
某有名RPGをやっている気分になるな。
「でもなぁ。」
俺がそう言って悩みあぐねていると、
「アベルお願い、私も冒険者の気分を味わってみたいのよ。父様や母様、あなたやローズ、アンネちゃんもやっていた世界を見てみたいの。」
そこまで言われたら、入れないわけにはいかないか。
「じゃぁ、」
俺が言い掛けたところで、
「私はこのパーティーから抜けませんぞ!教授!私は帰りません!!」
ここで大男が復活した。
股間はビシャビシャだが。
「わかりました、構いません。お漏らしヴィクター君。」
ロッティー、それ虐め…
「く!そのような辱めに私は負けません!」
「そうなんだ、お漏らしヴィクター君。」
今度はアンネが言い始めた。
「二人ともやめな。それ虐めだから。教育者にあるまじき行為だよ。母さんに手紙書いちゃうよ、姉さん。」
「あ、ごめん、アベル。」
「すみません、アベル様。」
ロッティーとアンネが俺に頭を下げる。
「謝んのは僕にじゃないでしょ。」
「チッ!ごめんなさい、ヴィクター君。」
今、舌打ちした!俺の姉、舌打ちしたよ!
「ごめんね、ヴィクター君。でも話しかけんのはお風呂に入ってからにしてね。」
アンネも一言多い!
酷い!
どういうことだ!ヴァレンタイン家の女どもは!
「ヴィクター君、すまないね、うちの女たちは血の気が多くて。」
俺は、ヴィクター君に謝罪した。
もう、ヴィクター君って名前を覚えちゃったよ。
「クソ!クソッ!貴様なんかに!貴様なんかに!情けを掛けられるなんてッッ!」
そう言って、ヴィクター君は踵を返すと、
「うおぉぉぉ~~~~ん!」
と、泣きながら、修練場から消えていった。
「流石アベル!容赦ないわね。」
ロッティーがわけのわからない納得をしていたのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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