570.アベル君と彼の正体。
570.アベル君と彼の正体。
元気に手を上げたマヤが口を開く。
「東部の小さな村からやって来たマヤと言います。冒険者の父から剣を習い、騎士学校へ入学しました。よろしくお願いします!」
そう言って、元気にマヤは挨拶を終えた。
いいね。
小さい妹とかだったら、頭をこねくり回して撫でていたことだろう。
「うん、ありがとう、マヤ。じゃあ、次はアンネか。でもさっきやったか?」
「いえ、アベル様から紹介いただいただけで自分からはしていませんので。やります。」
アンネはそう言うと、「ん、ん、」と、痰を切るように喉を数回鳴らした。
まあ、さっきから怒鳴ってばかりいたからね。
「先程もアベル様から紹介いただきましたが、アンネローゼ・クロウフォードと言います。出身はヴァレンタイン領です。父が騎士でした。母は、ハーフエルフでヴァレンティア城内においてアベル様の乳母をやっています。今は乳母というより城の子供たちの相手をしていますね。私は、アベル様のお母様に師事して魔法を使えるようになりました。そして、アベル様のお姉様に魔法を習うために、魔法大学校へと入りました。よろしくお願いします。」
「アベル様のお母様と言うと、お転婆魔法使いに師事していたんですか?」
ニックがアンネに問うた。
「そうです!そうです!その二つ名持ちであるアリアンナ奥様からアベル様と一緒に魔法を教わりました。もっとも、アベル様は私よりずっと先に行ってしまわれていましたが。」
「アンネローゼ君、待ってくれ!」
母さんの話を出されテンションの上がったアンネに、大男が冷水を掛ける。
「なんだい!ヴィクター君!うるさいよ!さっきから!!」
途端に不機嫌になり、大男をアンネはなじり始めた。
「そんなに怒鳴らないでくれ!」
そう言って、大男が身を縮める。
あら、らしくない。
何か聞きたいのか?
「アンネ、あまり邪険にしてやるなよ。何かアンネに尋ねたいのかい?」
「アンネローゼ君にじゃない、貴様にだ!魔法をお転婆魔法使いから習ったとアンネローゼ君は言った。それならなぜ騎士学校に貴様は居る!魔法と近距離攻撃は相反するもののはずだ!」
ああ、なるほど。
確かに近距離攻撃、つまり剣や槍などを使い始めると、何故か魔法が使えなくなる。いや、魔法の事象が雑になり、昇華に至らなくなるんだそうだ。
だから、爺ちゃんや父さん、ここの教師や生徒に至るまで、剣やそれに準ずる近距離攻撃特化型の人間は、攻撃魔法が使えない。
使えるのは身体強化などのバフのみとなる。
「アベル様はどちらも使えますよ。」
ケロッとした顔でそう言ったのはマヤだった。
「え?」
それを聞いて大男は固まる。
「そうなんですよ。アベル様は、剣も魔法も一流なんです。ずるいですよね。」
マヤはそう追い打ちをかけた。
「そんな筈は…」
そう言い始める大男の目の前で、俺は両手指の先に十個のファイアーボールを出現させた。
「まあ、大したことじゃないけどね。」
そして、上空へ向け十個のファイアーボールを連射で打ち上げた。
「ファイアーボールの連射…アンネローゼ君しかできないはずでは…」
そう呟く大男。
魔素タンク化していないとあっという間に魔素切れ起こしちゃうから、こんな無茶が効くのは俺とアンネくらいなもんだ。
「これを教えて下さったのはアベル様ですよ。」
アンネは得意気に胸を張ってそう言った。
お前が威張るんじゃない。
「さて、お遊びはここまでにして、次は君の自己紹介で終わりだ。」
俺は打ち出さず、指の直前で浮いていたファイアーボールを全て消して大男に言った。
「私もアンネローゼ君の真似をしようとした。人より大きい身体だ。魔素溜まりも人より大きい自負があった。しかしどうだ、自分よりも小さい二人が悠々とできることが、十発を五連射もすると覚束なくなってくる。」
そう言って俯く大男。
俺もアンネも、魔素タンク化プラス魔素の圧縮までしているからな。
大男の大きな魔素溜まりであっても、それだけの容量は賄えない。
圧縮掛ければ若干は改善できるけれどね。
でも若干でしかないけど。
魔素タンク化の真実を母さんが知った時、本気で悔しがっていたもんな。
しかし、魔素溜まりの蓋が開くのは五歳まで。
それまでに魔素溜まりが溢れ出すくらいまで、魔素を満たさないとその蓋は癒着して開かない。
「うおおおおおおぉぉぉぉんん!」
大男がいきなり膝から崩れ落ち、泣き始めた。
「何故だ!何故一つも勝てないんだ!!」
そう言って地面を拳で叩き始めた。
俺の所為でもお前の所為でもない。
仕方ないじゃないか。
意識を持ちながら、新生児をするのも大変だったんだぞ。
そう、原点回帰するアベルであった。
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本作は長編となっています。
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