564.アベル君と人殺し。
564.アベル君と人殺し。
「よし、わかった。そのあと冒険者でもD級までランクを上げたんだ。いろんな経験をしたのだろう。そのふてぶてしさの理由がわかるというものだ。うん、もういいぞ。」
教官は俺に座るよう促した。
ふてぶてしいだと?
この俺がか?
はっはっは、あの教官は冗談も言えたんだな。
「アベルは実戦経験があったんだな。」
俺の隣に座っていたパオロがそう言った。
「ん?知らなかったっけ?」
俺はそう返した。
「なんとなくわかってはいたが、お前の口からは直接聞いてなかったからな。」
「大手を振って話すことでもないしね。親からは、事故みたいなものだと思っておけって言われたから、まあ、五歳のころの記憶はそういうことにしてあるよ。」
俺はそう取り繕った。
それ以降、いろいろあったからね。
オスカーと娼館に行って襲われ、オスカーの警護を近衛騎士団と一緒にやっていたら、やっぱり襲われ、その前に、ローズとセントクレア家に行った帰りに襲われたこともあった。
ただね、最近は窒息やウォータージェットで事足りることが多いんで、自分の手を使って直接ということはないね。
周りの被害を考えると、この二つが最も効率がいい。
爆発や火事も起らないし。
無味無臭で異臭騒ぎも起こらない。
まったく何もないか、付近が濡れるだけ。
なのに殺傷能力はそこらのなまくらよりは断然強く、距離もおける。
効率その他を考えれば、これほど有効な手段はない。
そうは思わんかね?って、聞かれても困るよね。
人なんか手に掛けないのが一番いいんだから。
「それ以外に何かあったか?」
「まあ、僕を敵対視してくる奴は多いからね。南の連中とか。」
「う、ああ、すまん。」
「校内の連中はもう僕に仕掛けてこないじゃないか。僕との決闘騒ぎで懲りただろうし。ただ、大人たちは違うからな。」
俺がそう言うと、
「ああ、そうだな。」
と、パオロは暗い表情でポツリと言ってから、口をつぐんだ。
「あと、オスカーと強制的につるまなければならなくなって、いろいろとな。話せないが。」
「王太子に何かあるのか?」
意外という顔でパオロが聞いてきた。
「すまん、話せないんだ。」
「そうだな。聞くべきじゃなかった。」
そう言ってパオロは質問を引っ込めた。
こいつも随分大人になったな。
「そういや、パオロに実戦経験はあるのか?あれだけの剣の腕前だ。あってもおかしくないと思うけど。」
俺はちょっと空気を換えようと、パオロに話を振った。
「いや、戦闘の実戦経験はない。ただ、人を殺めたことはある。」
パオロはちょっと落ち着いた口調で言った。
「殺めた?」
「そうだ。父に経験だと言われてな。処刑の手伝いをさせられた。」
Oh…
俺の経験もしなくていい経験ばかりだけど、パオロのもしなくていい経験だな。
でも、領主の嫡男として、罪人を罰するのは必要なことだからな。
心構えとして、パオロの父親がさせたとしても、この世界では全然おかしくはない。
むしろ嫡男の教育としては真っ当なのかもしれないね。
まあ、ジャック・ザ・リッパーを作らない程度にやって頂きたいね。
「肉を斬る手ごたえはあまりいいもんじゃないよな。」
俺がそう言うと、
「うむ、しばらく俺も眠れなかった。」
パオロは俯き答えた。
「それでいいんだと思うよ。」
俺はそう答え、パオロは自分の掌を見ながら、
「そうか、そうだな。そうありたいものだ。」
と、言った。
「ああ、でも、ダンジョンの魔物は別だからな。あれは殺さないとこちらが殺される。」
「おい、アベル、パオロ。貴様らは同じパーティーにはさせんからな。レオとフランカもだ。」
いきなり、教官が俺たちに向かって言った。
「戦力は平均化しないとな。仲良しのお遊びじゃないんだ。わかったな。」
「はーい。」
俺たちは、やる気なさげに返事をするのだった。
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本作は長編となっています。
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