561.アベル君とオスカー君と一晩中。
561.アベル君とオスカー君と一晩中。
コトリ、音を立てて、カップを乗せたソーサーがソファー前のテーブルに置かれる。
カップの中には、お茶が注がれていた。
「ローズ、ありがとう。」
俺はお茶を用意してくれたローズに礼を言った。
「いえ、では王太子殿下、ごゆっくり。」
そう言ってローズはオスカーに向かい、丁寧なお辞儀をした。
「ああ、ローズ、気を遣わせてしまって済まない。」
一瞬顔を上げたオスカーはそう言って、また考え込んだ。
オリビィの耳にライラ女史との関係が、友達から聞かされるか、家族から聞かされるか。
どちらが恥ずかしいのか。
それで悩んでいるのだろうか?
すでに家族からオリビィは聞かされたのだが。
「どちらも恥ずかしい。いや、オリビィに知られる時点で恥ずかしい。そうではないのか?」
そうではないのかではないので。
「いや、既に知られているしな。」
俺はポツリと呟く。
それを聞いたオスカーが再度いきり立った。
「そうだ!そうであった!アベル!!何故知らせた!!!」
「だからすぐバレるってんだろ!僕の口から言ったことを感謝してもらいたいくらいだ。これがミカ嬢やルシア嬢から耳に入ったらどうする?ああ、あの二人の耳にも遅かれ早かれ入るだろうな。」
同じことを何度も言わせんなよ、このボンクラ王太子。
「ああ、そうであった!どうしようアベル!」
また困り果てた顔で俺に聞いてくる。
今のオスカーの感情は、ローラーコースター状態だ。
「どうしようもこうしようも、既にそういう関係ですと開き直るしかないだろう?キチンとライラ女史を側室に迎えれば何事も無く収まるんだが、こぶ付きの未亡人を正室も娶っていない王太子が側室に迎えるってのもな。」
それかライラ女史との関係を切るかだが、それは今、言わない。
「それがよろしくないというのか?」
「ライラ女史が誑かしたという見方が強くなる。」
俺はオスカーを見据えて言った。
「うっ。」
俺の一言にオスカーは声を詰まらせる。
「しかし、それはこれからのオスカーの姿勢を見せてやればいい話だ。ライラ女史をキチンと側室に迎え入れ、子供は嫡子とはならんかもしれんが、ちゃんとした待遇を与え、オスカーが責任を持って育て上げる。これが出来れば、他人がなんと言おうとオスカーは立派な国王と言われるようになるさ。」
「うむ。」
そう言ってオスカーは目を伏せる。
俺の言葉を聞いて、単純に目を輝かせないだけ、成長したのかも知れない。
良い話を提示されてもいったん考える。
大事なことだ。
でも、肝心なものをないがしろにできないよね。
「一つもっと大事なものがある。」
俺は考え込むオスカーに言った。
「なんだ?」
オスカーはかすれた声で聞いた。
「お前ら、愛し合っているのか?」
「それは…わからん。」
「わからんじゃないだろう。」
「お互いの関係の入り方が、ただの欲望であった。それは否めない。そこに恋愛感情は無かったからな。」
「今は?」
「ん?」
「今はだよ。関係の入りはそうだったかもしれないが、今はどうなんだ?そこに感情、何かしらの情はあるのか?」
「わからん。」
「またか。」
「わからんのだ。恋愛感情なしで関係があり、それが続いた。ライラとの関係は続けたい。しかし、ただそれが情によるものなのか、欲望なのか、私には判断が付かないのだ。」
そう言って、オスカーは大粒の涙を流した。
「そうだな、その涙こそが今のオスカーの情なのだろう。」
「これがか?」
「まあ、僕もオスカーより一年遅く生まれているくらいなのでね。人より随分密度の濃い人生を送っているとは感じているけれど、やはり経験は少ない。でも今のオスカーを見ていれば分かるよ。人のことを想って泣ける。それは情だよ。」
オスカーはクシャリと顔をゆがめ、声を殺し、泣き始めるのだった。
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本作は長編となっています。
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