559.アベル君と涙と愛情。
559.アベル君と涙と愛情。
「ライラ先生!?あの魔法のですか?」
オリビィは即座に俺の言葉に反応した。
かなり驚いているようだ。
「そんなに驚きますか。」
「驚きます。だって、十はいかないまでも、結構年上の方ですよね?」
十五の少女にはアラサー女性はずいぶんな大人に見えるだろうから、そりゃそうだ。
「そうですね、でも、そういうこともありますよ。」
「旦那様もですか?」
「はい、ヴァレンティアに置いてきたリラは、六百歳を超えていますし。」
俺は、正直に言う。
こんな事を、王家の人間に隠しても仕方ないことだ。
おそらく全部バレバレだもの。
「あ、そうでした。ヴァレンティアの女傑リラ、旦那様のもう一人のお妾の方でしたね。」
オリビィすら、女傑って二つ名を知っていたか。
ね、バレバレでしょう?
「ええ、そうです。」
「どういった方なのですか?」
そう聞いて来たオリビィの目は、好奇の光が輝いていた。
「ライラ先生のことはよろしいので?」
まずは主題を紐解いた方が良いんじゃないの?
「そちらも気になりますが、こちらも気になります。」
「そうですか。そうでしょうね。」
ま、そうよな。
「では、どのようなお方で?」
「そうですね、父をエルフに持つハーフエルフと生れ落ち、幼少の頃から苦労はしたらしいです。しかし、その苦労と、持って生まれた美貌で以て成人してから娼館に入り、瞬く間に上位の娼婦になったそうですよ。」
亜人種の差別が少ないこの国でも、差別はある。
ましてハーフはそのやり玉にあがり易い。
同族が少ないのだから、かくまってくれたり、団結したりできないからね。
「美貌は分かりますが、苦労で上位の娼婦に成れるのでしょうか?」
これも十五の少女じゃわからんだろうな。
「苦労は経験ですから、その経験を生かせるか、生かせないかで人の人生は変わるのではないでしょうか。彼女は苦労で身に着けた処世術があったのでしょう。あと、人を見る目。これが何よりも優れています。」
「その優れた眼をお持ちの方に旦那様は選ばれたと?」
「いや~、そのとおりなんですけどね。」
俺は微妙な気持ちになり、ごまかした。
「では、その旦那様を好きになった私も人を見る目があったってことでしょうか?それなら嬉しいですけど。」
「それはどうか分かりませんが、僕には光栄の至りですよ、オリビィ。」
三歳の時に成人したら筆おろししてやると、リラに言われたとかは言えないがね。
あ、でも十一年前、この城で父さんが酔っ払って国王たちにバラシていたから、もう耳には入っているかもしれないけど。
そんなことを考えていると、何故だかオリビィが上半身だけ揺らし始める。
「どうしたの?オリビィ、お行儀が悪いですよ。」
「さっきみたいなことを旦那様に言われたら、抱きつきたくなってしまって我慢してるんです!」
そりゃ我慢が必要だね。
「アベル、うちの娘になんてことを。」
国王がとても理不尽なことを言った。
「それでは僕はこの場から消えた方が良いかも知れませんね。」
「嫌です!お父様!余計なことを言わないで!!」
はは、叱られてやんの。
「わかった、わかった。もう言わん。」
苦笑いしながら国王はそうオリビィに言った。
しかし、
「オリビィ!!陛下に向かってなんです!!」
王妃の雷がオリビィに落ちた。
「あう…」
オリビィの勢いが一瞬でなくなり、あっという間に涙目だ。
家族と言っても王家、普通の家父長制の家とは違うのだ。
いや、同じだが、更に家長が国を背負ってるんでね。
その責任はとてつもなく重い。
直系の娘であっても、蔑ろにしていいモノじゃない。
「オリビィ、陛下に謝罪を。煽ってしまった僕もいけませんでした。申し訳ありません、陛下。そして、王妃陛下も、お心をざわつかせたこと、謝罪申し上げます。」
「いえ、アベルが謝ること…」
王妃が俺に何か言おうとした時、思いっきりオリビィが被せて、
「お父様、いえ、国王陛下。生意気な口を利き、大変申し訳ありませんでした。王妃陛下も、お怒りを招く失態をし、大変申し訳ありません。以後気を付けますのでお許しください。」
そう言って、両親に立ってお辞儀をするオリビィ。
うん、おりこうさんだ。
叱られないのが一番だが、間違いを自分で正せたのは十分偉い。
そのオリビィはくるりと俺に向き直り、
「そして旦那様。ごべんなざい~。」
そう言って涙腺が大決壊。
涙腺だけじゃなく、鼻もだね。
かわいい女の子が、隣でズビズビ鼻を啜っているし。
しかし、すぐに近くにいたメイドがナプキンを届けてくれる。
「大丈夫だよ、オリビィ。優しい両陛下はもう気にしていないよ。ですよね?」
俺は有無も言わさず両陛下に振った。
「ああ、うん。そうだ、余は気にしとらんぞ。」
一瞬の戸惑いの後、国王は謝罪を受け取り、
「ええ、少し度を過ぎた叱り方をしたかもしれません。アベルも気を遣わせました。」
王妃はそう言ってオリビィを慰め、俺を労う。
俺は別にいいんだけどね。
揶揄っていたのは事実だし。
「旦那様は?怒っていないのですか?」
えっぐ、えっぐと、声を引きながらオリビィが嗚咽を我慢して聞いてくる。
「気にしてないですよ。誰だって感情による間違いはあります。それに間違いを正してくれる家族が居るのはいいことですよ。」
「そうなのですか?」
「ええ、他人なら放っておかれて、正してはくれませんから。オリビィはご両親から愛されているのです。」
「うえーん!お父様、お母様、ごめんなさい。大好きです!」
そう言って、オリビィの大決壊は第二幕を始めるのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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