556.アベル君と創作の王女。
556.アベル君と創作の王女。
ドアをあけ放ち、立っていたアンダーリムの美少女はルシア公女だった。
「お二人が小説を書いていると聞いて、居ても立ってもいられなくなり、騎士学校の寄宿舎からやってまいりました!」
いつものおとなしい雰囲気の公女殿下だが、ちょっと様子が違う。
こいつは明らかに興奮し、脳内麻薬をジャブジャブ出しているのが見て取れる。
俺はこういった雰囲気の奴らを知っているぞ。
オタの限界化ってやつだ。
「何のことかわからんね。出て行ってくれないか?」
限界化したヤツに係わるわけにはいかないから、俺はルシアに冷たく言い放った。
限界化したオタなど、見ている分には面白いが、係われば害悪でしかないからな。
「そんなこと言わせませんよ。ドアの前で聞いていました。アベル先輩は創作の才能があるそうじゃないですか!」
ほら、盗み聞きさえ正当化するような、害悪になっているだろう?
「だから何だ?君には関係ないだろう?」
「関係ないことはないです。そう、創作ならば私にも一枚かませてくださいませんか?」
眼鏡の奥の目が、私は大真面目ですと語っている。
「とにかく、君は関係ない部外者だ。出て行ってくれ!」
俺はむべもなく告げた。
「まあ、旦那さま。よろしいじゃありませんか。お話の一つや二つ、聞き手がいれば反応も見られるというものじゃありませんの?」
オリビィは大した事じゃないと思っているようだが、そうじゃない。
「オリビア様はやはり創作仲間でいらっしゃる。よく私の気持ちをお察しでいらっしゃいますね。それに比べて、アベル先輩の冷たいこと。その冷たさで、何かしらの文章が一つ書けそうです。」
俺がまだ前世で元気にVtuber界隈をあさって居た頃、気に入らない相手に、
「お前の同人誌を描いてやろうか。」
と、脅していた配信者兼人気イラストレーターを思い出した。
それは物凄く嫌な脅しだと思ったが、二次創作ってそもそもグレーだから、そんな悪意を持った同人誌を出版し、あまつさえ販売なんかした日には訴えられないとは限らないんだよね。
そんな訴えが判例に載り始まったら、いろんなIP保有者のガイドラインが更新されて、もし実際にやったイラストレーターは針の筵になるかもしれないなどと考えたのは秘密。
真っ当な人はそういうことは言うだけで、しないのが世の常だしね。
翻って、目の前のメガネっ子はどうか?
信用ならない。
なぜなら、自分が創作に入れば、その裏側さえも赤裸々に話したがるのがオタの習性だからだ。
俺とオスカーの男色を払拭させるための情報操作、この大前提をバラされては意味が無いのだ。
「これはただの創作ではない。これが失敗すればオリビィとの婚約もなくなってしまうかもしれない、一大事業だ。簡単に他人を入れるわけにはいかない。」
ハッタリだけど、それくらいの心持でオリビィにも挑んで貰わなくては困る。
「ダメです!それはダメです!!ルシア様、今回は諦めて下さいませんか?」
即座にオリビィはこちらに付いた。
「なんと!それほどまでに重要な創作物なのですか?ぜひとも読んでみたい!いや、私も加わりたい!お二人の関係性の邪魔を一切致しません。どうか!どうか私をその創作物の末席に加えて頂くことは出来ませんか?」
「出来ないな。」
「ひっ!冷たい!アベル先輩は冷たすぎます。もっと熟考して頂けませんか?」
「熟考の余地が無いのです。ね、オリビィ。」
「そうです。これは旦那様と秘密の作業ですから。」
まあ、秘密ではあるんだが、言い方がなぁ。
しかし、その秘密が外に漏れたか。
「ところで、誰から我々がその創作を行っていると聞いたのです?」
俺はその秘密を洩らした人物を探ってみた。
一人しかいないだろうけど。
「オスカー様です。オリビア様とアベル先輩はお城で小説を書いているはずだと。それで私は居ても立ってもいられず!」
「はい、はい、分かった。」
俺は短くメガネっ子に答えた。
あのバカ王太子め。
お前の立場を守ろうと動いているんだろうが!
しかし、この分だと引きさがりそうもないな。
「コンコン。」
会話に間が空いたところ、部屋のドアにノックが響いた。
お付きのメイドが対応に向かう。
「ルシア公女殿下、お付きの方がいらしておりますが。」
「大事な話の途中です。待たせておいて下さいませ。」
公女殿下なんて呼ばれると、オタから口調が離れるんだな。
しかし、そのドアの向こうから人影がするりと部屋に入って来た。
「いいえ、待ちません。クラウディア王妃陛下からクレームが来ております。お部屋の中のお二人の邪魔をなさらないで下さいと。」
気が強そうな、いかにもお目付け役なメイドさんが立っていた。
王妃ナイス!
しかし、しっかり見張っていたか。
こわや、こわや。
「王妃陛下が!しかし!」
「しかしも案山子もございません。仲睦まじいお二人の邪魔をなさるとは、野暮というものですよ。創作がお好きなら、そのような想像も働かせて下さい、殿下。」
「でも!でも!」
メガネっ子は粘るが、がっしりメイドに腕を掴まれ、
「駄々をおこねになっては困ります。特にこちらのお二人が。ですよね?」
メイドが俺たちに向かってそう言うもんだから、
「ええ、そうですね。」
と、素直に答えてしまったよ。
「アベル先輩は冷たい!!」
そう言って、メイドに引きずられるようにドアに向かうメガネっ子。
ふと、こちらを向いたメイドに、俺は思わずサムズアップをしてしまった。
彼女もニヤリと笑いながらサムズアップを返し、部屋を出て行ったのだった。
彼女とは、うまい酒が飲めそうだ。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。




