554.アベル君と腕相撲。
554.アベル君と腕相撲。
そんなわけで、今の俺は脳筋マッチョなパオロの攻撃を、さほど力を入れたつもりも無くても、難なく樽の底の際で押さえている。
傍から見れば、わけの分からん状態なわけだ。
スキルとか魔法とかって、人の努力を無しにしてしまう。
いやいや、魔法だって努力したし、魔素タンク化だって発見に賭けをしたんだから、リスクがないわけじゃなかった。
でも傍から見たら、ずる【チート】なんだよなぁってね。
「あ、アベル…身体強化を…」
パオロが、額に玉の汗をかきながら俺に言ってきた。
「手を握っていて、魔力を感じられないぼんくらじゃないだろ?僕は魔法を使っていない。」
「クッソっ!」
俺の言葉を聞いたパオロは、さらに力を籠めるが俺の腕はビクともしなかった。
「んじゃ、俺の番。」
俺はそう言って、腕の力を込めた。
ジワリ、ジワリとパオロの太い腕が持ち上がる。
「グ、グッ!」
唸りながらパオロが力を入れるが、なおも逆にパオロの腕は上がっていった。
「なんでだ?魔法じゃないんだろ?」
そんな声が観衆の中から聞こえてくる。
魔法じゃないよ、いわばスキルってやつだがね。
とうとう、お互いの腕はイーブンのところまで上がった。
周りの生徒のざわつきが一層大きくなった。
もう、見せ場は以上でいいだろ。
俺は一気に力を込めた。
ググっと、パオロの拳が樽の底に近づく。
「んんんん・・・」
パオロはまだ力を込める。
楽になってもいいんだぜ?パオロよ。
そう思ったら、いきなりパオロの腕が持ち上がる。
「馬鹿野郎!!パオロ!!身体強化使うんじゃねぇ!!!」
パオロの野郎は、ついに身体強化を使い、俺の腕を持ち上げ始める。
「この俺が力で負けるわけにいかねぇんだよ!!」
そう言ってパオロは、もうやけくそな感じで力と魔力を注いでいく。
またイーブンを過ぎ俺の方に腕が回るが、
「魔法を使って僕が負けるわけにもいかないんでね。」
そう言って、俺も身体強化をかけた。
そして、お互いがマックスまで力を振るい、その所為で樽が砕けたのだった。
俺とパオロが掴んでいた箍だけがそのままの位置でとどまり、あとはガラガラと崩れた。
「パオロ、しょうもな。」
俺は思わずパオロを煽った。
「なんだと!アベルこそ何を使ったんだ!何かやっただろう!」
「なんもやってないが?証拠を見せろ。俺が何かやったという証拠を。」
「勝負は引き分けです。というか、魔法を使ったのでどっちも負け!いいですね!」
フランカが割り込んで、俺にとって理不尽なことを言った。
「最初に魔法を使った方が悪いんだろ!?」
俺はフランカに文句を言った。
「つられて使った方も駄目です。使わないで放棄すればよかったでしょう?」
フランカも意地になって言い返してきた。
「あそこで僕が抜けようと力を抜いたら大怪我したかもしれないと思わない?」
「それはありますね。」
俺の言葉にニックが同意した。
「な!だろう?ニック。」
俺が味方を得たと張り切ると、ニックは、
「ま、でもお互い意地を張っちゃダメなシーンでしたけどね。」
「ちぇっ、でもいいや。かわいそうなパオロ君は、力で僕にかなわないことが証明されたんだから。」
「なんだと!アベル!!これで決着つけようか!?」
そう言って、ロングソードを振り回す。
周りが「「ざわっ!」」と、ざわついた。
「じゃ、僕はこれで。」
俺がそう言うと、人差し指の先から青白い光剣が姿を現す。
ガストーチ魔法だ。
「アベル!それはズルいぞ!」
パオロはガストーチ魔法の危険性を北対南の決闘の時に体験しているからね。
そりゃ、ビビるだろう。
関係ないけど。
「なんだ?剣の決闘じゃないのか」
さっきまで寝ていたレオが、いつの間にか脇まで来て呟いた。
こいつは、ホント剣しか興味ないのな。
「貴様ら!何してる!!」
ここで、授業をさぼっていた教官が間が良い事に帰ってきた。
「アベルとパオロが腕相撲していただけです。」
レオは考え無しに、ありのままを話した。
「「おい!!」」
俺とパオロが止めようとしたが、時すでに遅し、
「皆の剣の面倒を見ろと俺は言ったはずだが?」
教官は、俺とパオロを見て言った。
「つい、ノリで。」
どう言い訳も思い浮かばないので、適当にお茶を濁そうと俺は口を開いた。
「わかった、修練をさぼって遊んでいたんだな。では、パオロ、レオ、アベルは今から修練場十周駆け足!!ほかの者は、三人が走り終わるまで素振りだ!!」
「「「はぁ!?」」」
「はぁじゃない!!始めろ!!」
「はーい。」
仕方なく、俺たちは修練場の周りを走りだすのだった。
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