549.アベル君とサークルの中。
549.アベル君とサークルの中。
授業が終わり、ミカ嬢との約束もあるので俺は野外修練場に向かうため、廊下をテクテク歩いていた。
そのすぐ後ろで、パオロとフランカがイチャついている。
こいつら…
二人とも昏倒させてやろうか。
などとは考えないよ。
そんなに物騒な人間じゃないからね。
いくら無礼な人間でも、初対面の者に魔法をかけるとか、僕は出来ないな。
嘘だけど。
後ろのイチャつき加減に辟易としながらも、野外修練場に着いた。
そこには一人、無心で深呼吸をしている人物がいた。
ニックだ。
俺の同級生で、平民出身の犬獣人。
剣の腕前は俺やパオロより少し下だが、十分に強いと言える。
貧しい家庭に生まれたそうだが、その剣の腕と勤勉さで騎士学校の門戸を叩くことが出来た逸材だ。
しかし、如何せん魔法が使えなかった。
いや、魔法が必要だと知らなかったその一人で、そのため魔法サークルに入り懸命に努力を続けている。
三年生は卒業し、二年生でサークルに入っていた人たちも脱落者が続出し一人も居なくなった。
そして、新たに二年生になった者たちも、数か月の訓練に夢破れ辞めて行った。
ニックはそれでも続けている。
俺たちは誰も止めない。
ただ彼が諦めず深呼吸を続けるのを見ているだけだ。
質問があれば答えてやる。
何も三人で見てやらなくてもいいのだが、サークルを立ちあげた者の責任だとフランカもパオロも思っている節があった。
ああ、サークル立ち上げの切っ掛けになったリザナはもうここには来ない。
魔素を感じ、魔素溜りに溜めることが出来たリザナは、本格的に魔法の訓練に入ったからだ。
と言っても、俺みたいにファイアーボールとか、水魔法とかが使えるわけじゃなく、身体強化一本だけどね。
彼女がここで魔法の訓練をするのは、魔素呼吸の訓練をしている者たちにとって、よろしくないしね。
目標となるかもしれないが、嫉妬の的にもなるだろう?
そう言うことだよ。
しかし、相変わらず、俺以外の近接戦闘者が魔法を使えないメカニズムは分かっていない。
いや、ぼんやりとは分かっているんだが。
俺みたいに剣を振るいファイアーボールを飛ばすって人間がこの世界に何故か俺しか居ない。
てことはだ、おそらく魔素タンク化が作用しているんだろうなと考えている。
そういう身体なのは俺の知っている限り、俺とアンネしかおらず、頭まで魔素が回っている完全魔素タンク化は俺しか居ない、と思う。
他に知らないからさ。
ネットが無い世界では、情報なんてごく限られた者しか手に入れられないのだ。
内務大臣閣下は、あちこちに草を潜ませて情報収集に勤しんでいるらしいけどね。
俺の身辺にも常にいるらしい。
面倒だから、探りもしないけどさ。
話がかなり飛んじゃったな。
「やあ、ニック。」
俺はニックに声を掛けた。
「アベル様。お疲れさまです。」
そう言ってニックは俺にお辞儀した。
「調子はどう?」
「まだまだなんでしょうね。」
そう言って苦笑いしながら頭の垂れた犬耳を彼は触った。
癖なのかもしれない。
「こればかりは感覚だからね。犬獣人の鋭い感覚を信じるしかないな。」
「アベル様は犬獣人の感覚が鋭いとお思いで?」
「うん、うちのお内儀様は狼獣人だから、その鋭さにビクビクしちゃうよ。」
「アベル様が、悪いことしなければローズさんは叱らないんでしょ。」
フランカが口を挟んでくる。
「違いない。」
そう言ってパオロは笑う。
「そう言ってりゃいいよ。」
「アベル様の奥様は、狼獣人なんですね。」
「そうだよ。僕が産まれてから、ずっとメイドとして世話を焼いてくれていた人だ。四歳から働いていたんだから、大したものだよね。だけど獣人だからさ、薄くなったと言えど、周期があるじゃない。ニックもわかるだろう?」
「周期と言うと、あの夜関係でしょうか?」
「そう、そう。その周期に入ると寝させてくれなくてね。大変だよ。」
現在の獣人は明確なヒートの時期はない。
と、言われている。
しかし、やっぱりあるんだよね。
そこに入ると、ローズさんはまさに獣。
「アベル様、後ろ。」
ニックは俺の後ろを指さした。
真っ赤な顔をして、フランカが震えている。
「そうか、フランカも居たのだな。いや、失敬失敬。」
俺がそう言うと、
「アベル様!!ちょっと場を鑑みて発言してください!」
「そのとおりだ、君の怒りはもっとも。でも、話している内容は分かるんだね、フランカ。」
「もう!!」
と、フランカの怒りが絶頂に達した時、
「何故獣人などが居るのです?」
そう、声がかかった。
そこにはミカ嬢が立っていた。
そう、彼女はそういうことを言っちゃう国の王女様だったのだ。
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