547.アベル君と先輩。
547.アベル君と先輩。
「先輩!先輩!!」
誰かが俺の後ろで叫んでいた。
なんだろう、うるさいな。
誰の先輩だか知らんが、早く返事してやれよ。
「アベル先輩!!」
今度は俺に回り込んで、その叫び声の持ち主が俺めがけて叫んだ。
「おや、ミカさんじゃないですか。」
そう、叫んでいたのはお姫ズの一人、ミカ嬢であった。
綺麗なロングの黒髪がたなびいている。
Theお嬢様!
こう定冠詞を付けたくなる、美貌と風貌だ。
その美貌の姫君が、俺をきつい眼つきで見ながら話してくる。
「アベル先輩が魔法サークルというものを主宰して活動しているのは本当でしょうか?」
「うん、本当だよ。でもミカさんは、魔素を感じることはできるんでしょ?」
俺が聞き返すと、さらに深い眼つきで聞き返してくる。
「勿論。家庭教師が幼いころから訓練してくれましたから。でも、大丈夫なのですか?そのように魔法を下々まで広げるようなことをして。」
「下々まで広げようとは思っていないよ。習ったことの秘匿は約束させてるしね。自分で広めて、家庭教師の連中から命を狙われないようにね、とは注意喚起してはいるさ。」
「第一、もう十五歳にもなっている方々は、魔素を感じられないでしょうに。」
「そうだね、僕も最初はそう思ったんだけどね。この学校にいる限りさ、上を目指すべきでしょ。誰より強くなりたい。それを胸に皆、剣術の試験と座学の試験を受けて入学したんだから。そして、正式な騎士になるには、どうしても魔素を感じて身体強化を手に入れなければならない。」
「そうですけど…」
「諦めきれない連中も居るってことさ。貴族じゃない市井から来た奴らとか、資金が潤沢じゃない貴族の出の奴らとか。魔法の家庭教師を付けたくても付けられなかった、また、騎士には魔法が必要ということすら知らなかった連中が多いんだよ。それを隠して儲けている連中が居るんだけどさ。でも、それは悪く言えない。誰だって食い扶持は必要だしね。それに、君が言うように、広く魔法が市井に広がり過ぎても危険だから。」
俺は一つ一つ、今までの確認をするように、ミカ嬢に話をした。
「それで、その成果は有るのですか?」
「あった。三割程度かな。三十人の人数の中で十人は魔素を感じることが出来た。これが分かったのは大きい。しかし感じられなかった者たちの落胆も大きいけどね。」
「その感じられなかった者たちはどうするのですか?」
「サークルに入るにあたって、出来ないと諦めた時点で忘れろと言ってある。厳しいかもしれないがそれが現実だ。」
「そして、ここを卒業したら彼らは?」
「卒業すれば騎士爵は貰える。だがそれだけでは禄を食むことは出来ない。たとえ地方の弱小騎士団からでもお呼びはかからない。おそらく、更に地方の自警団や、冒険者になるんじゃないかな。ただ、冒険者も一流になれない、なれたとしても、D級がせいぜいだね。」
「D級とは、低い位なのですか?」
ミカ嬢が冒険者の話に食いついた。
「低くないね。一人前と皆からは認識される。だから、うちの領の深紅の大穴に入る権利も渡される。」
「有名ですよね、深紅の大穴。大量の魔石が取れるとか。」
キラリとミカ嬢の目が光るが、俺はそれを見なかったことにして、
「おかげさまで、我が領は潤っておりますよ。」
と、言った。
「その深紅の大穴で稼いでいけるのですね。」
「そうだね。サボらなきゃ普通に家族を食わすくらいはできると思うよ。ドロップが出れば、結構いいお金になるし。金剛石とか出るとウハウハだね。」
「それはすぐ出てくるものなんですか?」
「こればかりは、運というしかないね。ただ、ダンジョンの奥に行くにしたがって、その確率は高くなるけど。ただD級程度なら、深紅の大穴のような大きく深いダンジョンの深淵には踏み込めない。踏み込んではいけない。」
「危険であると。」
「そのとおり。」
「先輩のご両親はその深淵に踏み込んだんですよね。」
「うん、そのお陰で、この国の数少ないA級冒険者になったんだよ。今は領主とその妻だけどね。」
「話がずれました。それでもサークルは続けるわけですね。」
「まあ、去年の成果でしかないけど、三割という数字は大きいからね。そいつらの夢が叶う方が俺は嬉しいよ。」
「なるほど、それではそのサークルの活動を見させていただいても宜しいですか?」
「ええ、どうぞ。可愛い後輩に門戸を閉じるようなことは致しませんよ。」
俺の答えを聞いて、ミカ嬢は俺を睨みつけた。
「アベル先輩は、そう言って婦女子を口説くのですか?」
「僕はありのままを口にするだけです。他意はないですよ。」
「そうですか。一応今の件はオリビア様に確認をとりますが、よろしいですか?」
「どうぞ、一向に構いません。」
俺は笑顔を作り、ミカ嬢に言った。
「では、放課後サークルに伺わせていただきます。」
ミカ嬢はそう言うと、ペコリとお辞儀をし、そそくさとこの場を離れたのだった。
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