544.アベル君と後の処理。
544.アベル君と後の処理。
黒猫ちゃんが連れて来たのは、治療師の先生二人だけだった。
先生たちは担架を持ってきていた。
倒れている肉壁君を見て、治療師の先生が担架にテキパキと肉壁君を乗せる。
するとどうだろう、普通の担架かと思っていたそれは、デカい肉壁君を乗せスッと浮かび上がった。
「おお、これどういう仕組みなんです?」
俺は思わず治療師の先生に聞いてみた。
「ん?いや、まず先に、この生徒はどういう状況でこうなっていたのだね?」
至極真っ当な事を、治療師の先生から聞かれ、それまでの状況を先生たちに説明した。
「こいつが怪しいのです、先生方!」
ルナが俺を指さし、詰め寄った。
「ちょっと待ってくれよ、ルナさん。僕が何をして彼がこうなったと言うんだい?」
俺はルナを見ながら若干焦った風で言った。
「にゃにをしたかは分からにゃい!でも怪しい!」
なおも食い下がる黒猫ちゃん。
「しかし、僕が例え魔法を使ったとしても、人体を直接制御できる魔法はこの世には無いんだ。ですよね?先生方。」
俺は治療師の先生方を見て言った。
「そうだね、ルナ君と言ったかな。彼が言ったことは正しい。この世には人に作用できる魔法は治療魔法だけだ。それ以外はない。治療魔法は神々から生まれ持って頂いたスキルが無ければ使えない特殊な魔法だ。彼はそれを持っているのかね?」
「知らにゃい!でも…」
先生の話を聞いて、一度は口を開いた黒猫ちゃんが、口をつぐんだ。
「では、急ぐので私たちは行くぞ。ああ、さっきの質問だが、風の魔道具だ。」
そう言って、肉壁君を乗せた担架は音もなく滑りながら、治療師の先生方に押され去って行った。
「くっ!」
顔を赤く染め、俺を睨む黒猫ちゃん。
女の子に見つめられるなんてなかなか無いから照れるね。
しかし、風の魔道具ね。
そう言えばヴァレンティアの冒険者ギルドにエレベーターがあったけど、あれも風の魔道具って言っていたな。
忘れていた。
なんで馬車を作らないんだろう?
道を選ばず、振動もない素晴らしいものになるだろうに。
コストの問題かな?
「おい、アベル。」
俺が別のことを考えているのが分かったのか、オスカーが声を掛けて俺の思考を止めた。
「ん?何?」
「何を考えていた?どうせろくでも無いことを考えていたのだろう?」
そう俺を冷たい目で見ながら、オスカーが言った。
「風魔法で重力制御的なことが出来るって、素敵だなってね。」
「「じゅうりょくせいぎょ?」」
オスカーとテオがユニゾンする。
「物を軽く出来たり重く出来たりってことなんだけど。」
「まったく訳が分からん。貴様は以前から変だと思っていたが、やはり変だな。」
そうか、科学の概念が薄いこの世界の人達には難しいよな。
しかし、
「変人のオスカーに言われたくない。」
「なんだと!貴様!!」
「まあ、まあ、二人とも。ちょっとやめて。アベル、この子は?」
テオが俺とオスカーの諍いを強引に止め、黒猫ちゃんについて聞いて来た。
「ああ、この子です。もう一人の推薦。ルナさん、僕のことは一旦置いておいて、この先輩方に自己紹介してくれるかい。」
俺を睨んでいたルナに、自己紹介を促した。
黒猫ちゃんはオスカーとテオを見上げ、若干恥じらったようにモジモジした。
俺との対応が違うな。
まあ、それはいい。
「西の大森林、ミレー子爵家息女、ルナでございます。オスカー先輩、テオドール先輩、以後お見知りおきを。」
オスカーはともかく、テオのことも知ってんの?
ちゃんとリサーチしておいたのか。
いいじゃん、やっぱさ。
「今ので大体分かったでしょ。ちゃんと事前に調べることが出来る、治療師だけではなく、肉壁君が巨体だから、他の先生を連れて来てって頼んだのに、担架の存在を知って、治療師の先生だけを連れてくる、頼んだことをきちんとやりきる真面目さと柔軟性と積極性。あと、」
俺の発言を聞いた二人が眉をひそめ、
「あと?」
テオが言った。
「鋭さ。」
「ああ、そうだな。」
オスカーが頷いた。
「なんの話ですか?」
黒猫ちゃんが聞いて来たので、
「僕が君をこの二人に推薦しておいたのさ。」
「え!?なんでにゃ?」
「出来そうな子だから。」
俺がそう言うと、他の二人も頷いた。
「アベルに楯突く女子はそうはいないしな。」
「まったくだ。」
テオの意見にオスカーがすかさず賛同した。
「じゃ、決まりということで。マキシミリアン君、こっちおいで!」
俺は二人の言質を取り、更にマキシを呼んだ。
「はい!」
マキシは元気に返事をすると、こちらに駆けてくるのだった。
廊下は走っちゃいかん!!
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本作は長編となっています。
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