542.アベル君と横柄なモブ。
542.アベル君と横柄なモブ。
ノヴァリス王国は専制君主国家だから、当然国王とその家臣の貴族たちがいる。
その貴族たちと平民には身分差があり、様々な障壁や差別といった形で可視化される。
例えば、俺とローズの関係がまさにそれだ。
俺がローズを愛していて、正室に迎えたいと思っていても、それは叶わない。
身分の差があるからだ。
だから俺は、正室や側室に置けないローズを妾として傍に置いているわけだ。
うちの両親とも、上流貴族の出身ではあるんだけど、冒険者として平民の中に身を置いた経験がある。
その所為で、あまり貴族、平民といった身分を分けた生活をしていない。
一番関係が深いのは、冒険者ギルドの人達とだ。
勿論人前では平民出身であるギルド長は、領主である父さんに跪かなければならない。
しかし、他人の目がなくなれば、父さんと母さんは、ギルバートさんと無二の友だ。
ヴァレンタイン辺境伯家はそんな感じで、平民に対し、蔑むような治世は敷いていない。
でだ、このノヴァリス王国の中ではうちのような気風はイレギュラーな存在といっていい。
つまり、貴族は平民を蔑み差別して当たり前といった気風が、マジョリティとして存在している。
南は特にそうらしいけどね。
で、俺の方に近付いてきた、身長百九十センチを優に超えているであろう肉の壁が、俺の前で止まり話しかけてきた。
「貴様!聞こえなかったのか!?ここが、騎士学団幹部会室かとフランチェスコ・ラ・セルダ自ら聞いておるのだ!」
誰それ?
ああ、この肉か。
しかし何を食ったら十五歳そこそこでこんな肉の壁になることが出来るんだ?
まあ、いい。
一瞬、肉壁君は喉を苦しそうに掻き毟ると、そのまま廊下にドーン!という音を残して突っ伏した。
「おや、おや、どうしたのかな?」
俺はそう言って肉壁君の顔を覗き込む。
すると肉壁君は、倒れた速度と己の自重でもって鼻がひしゃげ、鼻血を流していた。
そこにマキシミリアンがやって来て、屈みながら、
「おい!フランチェスコ君!!」
マキシミリアンが肉壁君の肩をゆする。
「これは治療が必要だ。ルナ君、医務室と職員室に行って、治療師の先生と、他の先生を呼んできてくれ。この大きさじゃ、僕達だけで運べないから。」
「アベル・ヴァレンタイン、あなたがやったのではなくて?」
ルナがキツイ目をして俺に言ってきた。
「何をだい?」
「この様をよ。」
「うむ、僕を疑うのは構わんが、事態は急を要しているんでね。早く行ってくれ。」
「部屋の中にいる騎士学団の人達で運べばいいにょにゃ!」
「それはダメだ。君らの面接の方が優先だ。この生徒よりもね。だから、たのむ。先生たちを呼んできてくれ。君も猫獣人ならスピードに自信があるだろう?」
ルナは俺をまたキッ!と睨んでから、
「後で説明してもらうにゃ!」
と言って、疾風の如く駆けだしていった。
「やっぱ早いな。」
俺はそう言って見送った。
「アベル先輩は何かやったんですか?」
マキシミリアンが俺に尋ねた。
「何かやったように見えたかい?」
「いえ、全然。だからルナさんが訝しむのが不思議で。」
「な?疑われて、困ってしまうよ。」
俺はヘラヘラとした態度でそう言った。
酸素魔法はシュレーディンガーの猫みたいなもんだ。
魔力探知などで観測しないと魔法が発動しているかどうかわからない。
まあ、そんなことが出来るのは、母さん並みの達人クラスしかいないけどね。
「アベル、何かあったのか?なんだ!?そのデカ物は?」
オスカーが幹部会室から顔を出して喚いた。
そこにテオも現れて、
「あれ?セルダ伯爵の御子息じゃないか。」
知っているのか〇電。
じゃなかった。
「テオ先輩、知り合い?」
「ああ、あまり関わりたくないがな。」
そう言って、テオはポツリポツリと話し始めるのだった。
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