540.アベル君とお調子者。
540.アベル君とお調子者。
オスカーの妹と言っても、王女殿下だ。
いくらなんでも待たせてはマズいとイーディスが仕切り、打ち合わせが始まってしばらくたったら、廊下から何やら声が聞こえてきた。
「なんだろう?」
テオが言ってから聞き耳を立てていた。
「ちょっと見てくるよ。」
俺は席を立ち、廊下に向けて歩き出した。
「アベル、それならオリビィを中に入れてくれ。」
オスカーが俺の後ろで言った。
俺は振り返りもせず、右手だけあげサムズアップすると、
「了解。」
だけ言って廊下に出た。
俺がドアを開けると、オリビィを囲み新入生たちが何やら騒いでいた。
「君ら何やってんの?」
「旦那様!!」
「「「だんなさま!?」」」
オリビィが叫ぶと同時に、俺の腕をとってピッタリとくっつき、今まで騒いでいた一年生たちが素っ頓狂な声を上げた。
「で、何やっていたんだ?」
「私は呼ばれるのを待っていただけですが、いきなり囲まれて…」
「で、君ら王女殿下を囲んで何しようとしたの?学校内でも下手うつと、不敬で首と胴が離れるよ?」
「ヴァレンタイン卿!申し訳ありません。初めて王女殿下を見たものが多く、つい浮足立ってしまいまして。」
そう言ったのは、キリッとした顔つきの少年だ。
俺もだが。
まだ家督も継いでないので、卿と呼ばれる筋合いもない。
まあ、外に出たてで背伸びしたい年頃なんだろう。
俺もだが。
「なるほど、つい劇場のスターを見たが如く騒いでしまったと?」
「そうです、そうです。王女殿下、申し訳ございませんでした。」
そう言った新一年生は、素早く跪き頭を垂れた。
周りにいた五人の一年生も彼に倣う。
「これでいいかい?オリビィ。」
俺はオリビィに一応聞いた。
「ええ、問題ありません。ただし!」
俺から視線を外し、オリビィは初年らに向かって語気を強め話し始めた。
「婦女子を取り囲んで騒ぐなど、紳士の行いではありません!たとえそれが御高名な方であってもです。わかりましたか!」
オリビィがそう言うと、
「承知いたしました、王女殿下。重ねてお詫び申し上げます。」
そう言って少年らは更に頭を下げた。
「で、君らはなぜ幹部会室に?」
俺はキリッと少年に聞いてみた。
「あ!えー、自分の口からは憚られるのですが、この者共が申すには、私が幹部会に適任だと申すもので。」
そう言って、キリッと少年が言った。
「なるほど、では幹部会へ立候補に来たと言うんだね。」
俺はキリッと少年に聞いた。
「はい!ヴァレンタイン卿!」
そう返事をするキリッと少年に。
「一つ間違いを正してあげると、僕はまだ家督を継いでいないから、卿を付けるべきではない。分かったね。後ね、もっと大事なことがある。」
キョトンとしているキリッと少年たちに俺はちょっと勿体ぶった言い方をしたあと、
「名を名乗らんか!まずそこからだ!!」
俺は、気合を込めて叫んだ。
「ヒッ!」
キリッと少年一同は、俺の裂帛に押され、跪きながら一瞬のけぞった。
そして、
「大変申し訳ありませんでした!中央北部ルチアーノ・ド・シャボー伯爵が子息、マキシミリアンと申すものです。なにとぞご容赦を!」
と、マキシミリアンと名乗ったキリッと少年は赤面し、どっと汗をかきながら謝り始めた。
「なに、そんなビビることは無いよ。ただ、挨拶は大事だ。古事記にも書いてある。」
「コジキ?」
俺を抜いた、オリビィを含む全員が首をひねった。
「いや、何でもない。では、マキシミリアン君、君だけ残り、他の者たちは帰りたまえ。これから面接をするからな。」
「はい!」
マキシミリアンはそう言い返事をすると、他の五人はマキシミリアンに頑張れと言いながら去って行った。
「じゃ、オリビィ、部屋の中へ入って。面接を開始します。」
「はい。」
そう言ってオリビィは俺の腕から自分の腕を抜いて、素直に幹部室に入っていった。
「王女殿下が面接を受けるのですか?」
不思議そうにマキシミリアンが聞いてくる。
「そうだよ。たとえ王女殿下であっても、王太子殿下の妹君でも、僕の婚約者でも幹部会の推薦を得られなかったのならば、騎士学団の幹部会員の地位は自分で手に入れるしかないんだ。君はその自信があるから来たんだろう?」
「い、あ、は、はい。」
マキシミリアンは脂汗をかきながら、俺の目から瞳を外すことが出来なかったのだった。
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本作は長編となっています。
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