528.アベル君と王族のスタイル。
528.アベル君と王族のスタイル。
「アベル、ローズと一緒に居た娘を側室にでも迎え入れるつもりですか?」
ダンスに集中していたら、いきなり王妃から質問が飛んできた。
王妃の表情は柔らかで、別に咎めているようには見えない。
「そうですね。そのつもりです。」
俺は端的に軽く答えた。
「そう、どちらのお嬢様なのかしら?」
たぶん王妃は知っている。
しかし俺に答えさせて、何かを探ろうとしているんだろう。
この件に関して、探られて悪いものは一切ない。
正直に答えるのが吉だ。
あ、言っておくと俺は王室と敵対するつもりも、王妃を個人的に嫌っても無いからね。
ただ、何もないところを探るような言動は対処しておくに限るという、俺の処世術からくる部分が大きい。
「彼女は、今は亡き我が領の騎士であるライナス・クロウフォード息女、アンネローゼ・クロウフォードです。父親は領内で自然発生した魔物討伐時に殉職しました。」
「あら、それは可哀想な出自ね。その子がどういう繋がりでアベルと知り合ったの?」
「彼女の母であるマリア・クロウフォードを父が僕の乳母として召し抱えたのです。丁度アンネも誕生していたので、頃合いが良かったのもありますね。」
「そう、乳兄弟だったのね。でもそれだけでアベルが側室にする動機になるかしら?」
このおばちゃん、しつこいな。
まあ、ブライダルチェックだと思って我慢するか。
「そうですね。僕側は率直に言って恋愛感情は薄いかもしれません。しかし、家族として、乳兄弟、妹として守らねばならない、庇護の対象として、いや、単純な庇護欲を掻き立てられるんですよね。あの娘は。だから手許に置いておきたい。不純でしょうか?」
「女の私から見れば十分不純です。愛してもいないのでしょう?でも情として考えれば納得できます。乳兄弟を守りたい。その気持ちはね。あの子は恐ろしく美しいし。エルフの血かしら?」
そう言って王妃は微笑んだ。
「そうです。彼女の母親はハーフエルフなので。」
「なるほど、その美しさもアベルの執着も納得したわ。」
「ご納得いただけたようで、嬉しく思います。」
俺はそう言ってステップを踏み続けた。
王妃はその言葉を聞き、その美しい唇の口角を少し上げ頷いた。
まあ、アンネ自体が秘密てんこ盛りなんですけどね。
言えねぇよ、トレーサの巫女であり聖女、全身魔素タンク化された死者蘇生魔法までも使いこなす十五歳のクォーターエルフ少女なんてさ。
そのアンネを守るようにトレーサから神託受けたとか、とても、とても。
そのアンネも平穏に学生生活を過ごしている。
傍にカミラと姉さんが居てくれるのが心強いね。
カミラは自分の聖女なんだから、ちゃんと守れよと切に願いたい。
ほんとさ。
「あと二人、噂がありますね。」
おいおい、王妃め、探っているのを隠さなくなったよ。
しかし、一人はカミラが確定。
もう一人は誰だ?
「一人は決めていますが、もう一人の噂は僕自身知りませんよ。」
「あら、私の勇み足だったかしら?でも決めた一人はどなた?」
あれ?俺嵌められちゃった?
もう、単純な罠にコロッと嵌っちゃったのかよ
「もう一人は、カレッド伯爵の息女であられる、カミラ嬢です。」
「あら、アベル。内務大臣を義理の父に持つの?なかなかの胆力ね。」
嫌なんだよ!
本当は、そんな縁組したくないの!
だけど、カミラはこちらで抱えておく必要があるの。
神様なんだからさ!
色々バレるとアンネのこともあって支障が出るの!
嫌なんだよ、本当はさ。
ああ…
「あら、アベル、目から生気が失われているけれど大丈夫?」
そりゃ、生気ぐらい失われるでしょうさ。
こんな事実を突きつけられれば。
突きつけたのは俺自身だけども、
だけども!
気分的に項垂れながら、なおも王妃と踊らねばならぬアベルなのだった。
だった!
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本作は長編となっています。
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