521.アベル君と王女の時間。
521.アベル君と王女の時間。
俺はまたフロア中央に立っていた。
今までは他のゲストたちも踊っていたが、なぜかフロアには俺ともう一人、手をつないだパートナーだけ。
はい、オリビィです。
そういう気づかいというか、手心というか、一切いらないんだけどね。
どうしてそういうところだけ、気を回す連中なんだろう。
貴族ってさ。
「どうかなさいまして?」
オリビィは不思議そうな顔で俺に聞いて来る。
「フロアが広いなぁってね。」
「ああ、そうですわね。皆さん気を使ってくれたのでしょう。旦那様と私が悠々と踊れるようにと。」
「うん、それは分かっているんだけど。オリビィと踊るのは初めてだっけ?」
「そうです!夢に見ていました。この場で旦那様と踊る日を、一日千秋の思いでずっと。」
「あ、ああ、そうなんだ。」
俺の顔は引きつっていることだろう。
そこへ、楽団ブースから一音、零れ始める。
俺は心を無にして、オリビィの腰に回し添えていただけの手に力を込め、オリビィを引き寄せた。
そして、一歩、オリビィをリードしながらステップを踏み始めた。
「うわぁ。」
フロアを囲む各ブースから俺たちを見る人たちの歓声とも言えない声が聞こえた。
相変わらずのワルツだが、俺はリズムを外さぬようステップを刻む。
オリビィは吸い付くように俺のリードから外れない。
まあ、外さないようにこちらも気を付けているが、やはり王女殿下ともなると踊りなれているんだろうな。
「うれしい…」
オリビィが一言漏らす。
「そう?良かった。」
俺はそれだけ返した。
「ええ、夢のよう。あの日の小さな天使様が、今立派になられて私を抱きながら踊って下さっている。ずっと夢が続いているように思えます。」
さすがBL小説を書き上げただけのことはある。
何とも言えないモノローグを語り続けるオリビィ。
創作者はすごいなぁ(棒)
「旦那様。先程、ローズさんとキスをなさっておりましたね。」
いきなり目が覚めたが如く、ローズとのことをオリビィは言及し始める。
「はい、なさいましたが?」
「では、私ともなさいますか?」
「なさいません。」
「なんでですの!?」
「オリビィとはまだ婚姻しておりません。ですから、出来るのはダンスまででしょうか。」
「そんな、殺生な。」
お前は時代劇俳優か。
「このままこの二人が何事もなく過ごせていたら、四年後には甘い日々が送れることでしょう。それまでの辛抱です。」
「あう。」
そう言って、オリビィは俯いた。
今現在、俺が童貞のままで許嫁にこんなお預け食らったら、いろんな意味で猿になるよな。
オリビィ、スマヌ。
しかし、乙女の性欲処理はどうなっているんだろう?
前世日本なら、ネットがあれば何でもし放題なんだが。
薄い本も、張型も、健康器具もなんでも通販で手に入り、そういったもので自らに備わった膜を除する強者がいると聞く。
肉体的には女性のほうが早熟なら、そっちの方も早熟なはず。
いや、相当早い大強者も。
三歳、五歳で机の角とか、登り棒とか。
ハッ!?俺はダンスしながら何を考えているんだ!
「だから、四年後には甘々ですよ。」
俺はオリビィの耳に囁いた。
途端にオリビィの耳が真っ赤に染まった。
「あ、あま、甘ですか?」
「甘やかしますよ。ヴァレンティアで。」
「まあ、ヴァレンティアで甘やかしてくださると。でも先ほど聞こえましてよ。カレッド伯爵令嬢と、旦那様の乳兄弟を四年後に側室として迎え入れると。」
オリビィはキッと眼光鋭く、聞いてきた。
「ええ、そうですね。」
俺が答えると、さらに続けて、
「旦那様の中では既定事項の決定事項なわけですね。」
「はい、これはもう決まっていました。」
「私は聞いておりませんが。」
「今、話しました。」
俺は素知らぬ顔で答えた。
続けてオリビィは、
「いいです。彼方は側室としてのお約束なのでしょう?」
「勿論です。正室はオリビィ以外、考えられない。」
「まあ、うれしい。」
オリビィはそこだけ花が咲いたような笑顔を向ける。
そこで、曲が終わった。
一斉に拍手の音が上がった。
そんな大した踊りしていないのに、下世話なことを考えていたし。
だが、俺とオリビィは観客と化したゲストたちにお辞儀をした。
するとゾロゾロ各ブースから人が雪崩れ込んで来るのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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