520.アベル君と妾の品格。
520.アベル君と妾の品格。
「アンネちゃんがうっとりした顔をしていましたね。」
ローズは踊りに入る前の俺の右手を握りなおして言ってきた。
「そうだね。僕と踊れて嬉しかったみたいだ。それに四年後に迎え入れる話もしたからだろう。」
「お決めになったんですね。」
「決めた。爺ちゃんのお陰で既定路線ぽくなっていたしね。二人きりで話す機会もなかなかないから、話せるうちにってやつかな。」
「一言も仰って下さいませんでしたね。」
「不服?けど、ローズも賛成だろう?」
「そうですけど。子供のころから知っていましたし。」
「ごめんな、この流れで言っちゃおうと決めたんだよ。誰かさん、落ち込んでいたし。言う暇もなかったけど。」
「落ち込んでいた?どなたがです?」
「あなたがです。」
「私は落ち込んでなどおりませんでしたが?」
「さようですか。それは見誤りました。失礼致しましたね。」
「いえ、別に。」
「ならいいさ。」
そう言いながら、ローズと息を合わせたステップを踏む。
ヴァレンティアでのダンスレッスンの相手は、ロッティー、リサ、ローズの誰かだった。
ローズは長年のパートナーともいえる。
「ウィリアム爺ちゃんとも息が合っていたね。」
「宰相閣下がお上手なのです。私は合わせるだけで精一杯で。ご覧になっていたんですね。」
「まあ、自分の奥さんは気になるからね。姉さんと踊りながら、目の端で捉えてはいたよ。」
「シャーロット様とはどんなお話をしたんですか?」
「世間話さ。貴族がする噂話とかね。」
「アベル様とシャーロット様の話題のようには聞こえませんが。」
「意外かい。君の亭主は案外下世話なんだぜ。」
「それは知っております。シャーロット様が。」
「姉さんもなんだかんだ言って大学の教授ともなれば、そこは政治の世界だからね。おとなしくしてれば自分の研究予算が削られるしね。」
「そういうものなんですか?」
「うん、学校の先生同士も競争があるんだ。だからいい生徒を育てなきゃならないし、有用な研究もしなければならない。先生同士のディベートにも勝たなきゃならないからね。」
「学校の先生は、生徒を教えればいいだけじゃないんですね。」
「大学校だけが特殊なのかもね。うちの学校はそうでもないし。」
「シャーロット様も大変。」
「最近苛ついてんのも、そういう部分があるのかもしれないね。たまにはリサも含めた女性たちで遊んであげなよ、ローズ。」
「そうですね、考えてみます。その間、ご主人様は娼館ですか?」
「穿った目で見ていらっしゃる。けど、それもいいなぁ。」
「アベル様!」
「なんてお気楽にしていられるのも、ローズが支えてくれているお陰だよ。いつもありがとう。」
「いえ、私は今まで通りのことをしているだけですから。」
そう、四歳のころから、変わらず俺の面倒を見てきてくれた。
その感謝の気持ちを表すために、俺はローズを妾にしたといっても過言ではない。
「そう続けられる人は少ないし、他人のためにできることじゃないさ。」
「私は、アベル様のお役に立ちたいだけです。」
「うん、その気持ちに礼を言ったのさ。愛しているよ、ローズ。」
「アベル様。」
そう言ってローズは自然と目を閉じる。
こうなってはやることは一つ。
俺がローズの唇に自分の唇を重ねる。
すると、俺たちのブースのほうから、
「「あー!!」」
などと絶叫が聞こえた。
「どなたでしょうか?」
ローズが気になったのか俺に聞く。
「気にすることではないが、今のはカミラとオリビィだな。」
「カミラ様と王女殿下?」
「まあ、積極性の塊みたいな二人だから、放っておこう。今は二人の時間を楽しもうよ。ね?」
俺がそう言うと、ローズは幾分頬を朱色に染め、
「はい。」
とだけ言って、俺とのステップに興じるのだった。
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