450.アベル君と行き場のない不満。
450.アベル君と行き場のない不満。
襲ってきたのは六から八人。
そのほとんどが当初の勢いを失くし、騎馬隊の六~七メートル前で衣服から煙を上げながら剣を抜いている。
もし、例の魔神崇拝者たちであるならば、殉教すら恐れていないのかもしれない。
俺のファイアーボールを食らっても立っているのがその証拠であろう。
でもさ、全員が固まって立ってくれてるって、俺に楽をしてくれって言ってるようなもんなんだわ。
そう、俺は警戒するように立っている賊の頭部をブロック的に魔法操作で覆い、酸素で満たす。
満たされた酸素は、そのブロックの中にあったあらゆる気体を追い出し、息も絶え絶えだった連中に、活力を与えたように見えた。
次の瞬間、俺が酸素を消すまでは。
俺もよくこんな残酷なことが出来るよね。
でも、一番被害が少なくて、且つ確実なんだもん。
と、思っている間に、賊は一人、また一人と喉を掻き毟りながら、声を発することの無い窒息の悲鳴を上げながら倒れて行った。
「全員殺したのかい?」
俺の魔法のあらましを知っているであろうアレクさんが騎乗から聞いてきた。
「いえ、窒息させて三十秒から一分で魔法は解きます。それくらいであれば死には至りません。気絶だけです。それより。」
そう言った途端に、道路脇の藪から人影が走って逃げ去ろうとしたのが見て取れた。
娼館でもバックアップ人員が、魔法でとらえた賊を殺して口封じをしていた。
今回も居るだろうなと思ったら、案の定。
俺は賊に向かってファイアーボールを放った。
しかしそのファイアーボールは賊の頭の上をすり抜け前方へと向かっていった。
その賊は振り返り笑ったかのように見えたその時、
「ドカンッッ!!!」
ファイアーボールが進んだ先の空間がいきなり爆発する。
その爆発は、灼熱の気体の塊となって賊を襲った。
爆風に包まれた賊は、ゴロゴロと道路を転がり黒い塊になった。
何をしたかって?
特別なことは何もしていない。
賊の行き先を確認、ファイアーボールを発射。
更にその先に酸素の塊を置いただけ。
怖いよね。
それだけであの爆発だよ。
あ、俺もそこまで鬼じゃないよ。
酸素の塊自体はごく小さいものにしたし、燃焼プラズマ云々が人体に触れるような近距離で燃やしていない。
一発で殺すつもりならそこまでやるけど、そんな爆発は俺らまで無事じゃないだろ?
無い頭絞って考えてんだっての。
「凄いな!あれか?アベル君がスラムの家を爆発させたって魔法は。」
アレクさんがまたも聞いてきた。
「よくもまあ、十年前の話を覚えていますね。」
「そりゃ、あの時のヴァレンタイン家はトラブル続きで面白い話ばかりだったからな。」
「スラムでは人さらいに会い、街に行けば馬車に爆弾を仕掛けられて散々だったんですけどね。」
「いや、そうだった、スマン」
ちっとも済まなそうな感じじゃなく、アレクさんは言った。
まあ、当時そんなこんなあって、敵対貴族にも足を引っ張られそうになったところを、ガウェインさんとアレクさんにバックアップしてもらった事もあるんで、この話はこれくらいで。
「あいつも生きているのか?」
転がって黒い塊になった賊の事をアレクさんは言っているのだろう。
「多分。あいつが一番痛い目を見ましたね。」
「わざとなんだろ?」
「ええ、まあ。隠れて企んでいる奴は嫌いなんで。」
「君もそういう部類じゃないのか?」
「嫌だなぁ、隠れて事は起こしませんよ。真面目なことも不真面目なことも正面からやりますよ。」
「ああ、そうかい。ふん。よし!下馬して転がっている奴らを捕縛。おい!城へ報告と投獄用の馬車と応援を呼んで来い。」
アレクさんはニヤリと笑っただけで、俺の返事を話半分で聞き、部下たちに指示を出した。
「アベル様、私も捕縛してまいります。」
アンディが義理堅く俺に言ってくる。
「はい、お願いしますね。」
俺はそう言ってアンディを送り出した。
そして馬車に俺はノックする。
「解決出来ましたか?」
ジェームズさんが一番に聞いてきた。
「賊が数名、襲い掛かってきましたが、すべて捕らえました。」
俺はジェームズさんに報告する。
「ご苦労様でございました、アベル様。」
そう言ってジェームズさんは頭を下げた。
「いえ、大したことは無いですよ…」
「おい!アベル!!この後行けるのであろうな!!」
綺麗な顔のおバカちゃんが、俺の謙遜の言葉を食い気味に消し去って欲望丸出しで聞いてきた。
「アホか!十人近くに襲われて、暢気に娼館なぞ行けるわけがないだろ?」
「なんだと!!!」
オスカーの行き場のない欲望が、怒声となって夜の道に響くのだった。
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本作は長編となっています。
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