目標
魔法適性を調べた日から数日が経った。
あの日、備品庫の奥で目にしたあの光が、どうにも頭から離れない。
黒く光るあの指輪、綺麗だった。考えれば考えるほど、胸の奥がざわつき、吸い込まれるような感覚が蘇ってくる。
「……ず……おい、ぼうず!」
「わぁっ!?」
突然、鼓膜を揺らすような怒声が響き、僕は跳ね起きるように弾け飛んだ。
視界が明瞭になると、すぐ目の前にブラドさんの厳めしいヒゲ面があった。極太の眉をひそめ、あきれたように吐息を漏らしている。
「まったく、またぼーっとしてやがったな。ここ数日ずっとそうだぞ。どこか体が悪いのか?」
「ううん、なんでもないよ。ごめんなさい、ブラドさん」
「ふん……まあいい。あの指輪の光が気になってるんだろ」
図星を突かれ、僕は小さく肩をすくめた。ブラドさんは自分の頭をガシガシと雑にかきむしると、僕の目の前にある木箱へどかと腰を下ろした。
「お前が気になる気持ちも分かる。だがな、ギルドの決まりだ。十五になって正式に入団するまでは自分の指輪を持つことはできん。今は使えないものを気にしてもしゃあないだろ」
「……うん、そうだよね」
「そうだ。だから今は、今できることを叩き込む。魔法が使えねぇなら、体を動かすまでだ」
ブラドさんは傍らに立てかけてあった練習用の木剣を拾い上げ、僕の胸元へぽんと放り投げてきた。慌てて受け止める。ずっしりとした木の重みが手に伝わる。
「いいかぼうず。魔法ってのは強力だが、万能じゃねぇ。詠唱の隙、魔力切れ、あるいは狭い場所での取り回し……土壇場で命を救うのは、結局のところ己の足腰と、叩き込んだ剣術だ」
「剣術……」
「そうだ。それにな、冒険者ってのは魔物を倒すだけの仕事じゃねぇぞ。薬草の採取から洞窟の探索、時には護衛や街のドブさらいまでやる。生き残るための知識と度胸、そしてどんな状況でも諦めねぇタフな心が一番必要なんだ」
ブラドさんの言葉には、幾多の死線を潜り抜けてきた本物の重みがあった。
いつまでも正体の分からないものを考えている自分が、少し恥ずかしくなる。
僕には、目指すべき場所がある。いつか強くなって、あの夕焼けの丘で交わした約束を果たすんだ。そのためなら、どんな厳しい訓練だって耐えてみせる。
「……うん! ブラドさん!今日こそは勝つからね!」
「ハッ、言ったなぼうず! なら今日からは手加減なしだぞ! 日暮れまで叩き直してやるから覚悟しろ!」
「望むところだよ!」
木剣を強く握り直し、僕はまっすぐに構えた。
頭の片隅に残る暗い影を振り払うように、激しく木剣がぶつかり合う音と掛け声が、訓練場に高く響き渡っていった。




