遠のく声
お久しぶりです。
意欲って急に湧きますよね。
設定忘れました…( ᐛ )
ガタゴトと一定の周期で揺れる馬車の中。早朝に起こされて無理やり連れ出された私は、重い瞼に抗えず、薄暗い車内でうとうとと意識を微睡ませていた。
車輪が石畳を叩く音に混じって、向かいに座る両親の低い話し声が耳に届く。
「……やっと帝国に戻れるわね」
「そうだな。長かった」
「もとはと言えば、あなたがミスなんてしてこんな辺境に飛ばされるからでしょう」
「何度もすまないと言っているだろう。だが、これで帳消しだ」
うつろな頭の中で、思い出すのは彼のことばかりだ。
茜色に染まる丘の上。照れくさそうに笑う彼の顔。小指を絡め合わせたときの、あの温かい感触。
そっと右手の小指を握りしめると、胸の奥がじんわりと熱くなる。私たちは契りを交わした。だから、離れていても大丈夫。そんな幼い確信だけが、まどろみの中で私の心を支えていた。
「まあいいわ。それよりも、本当に大丈夫なんでしょうね」
「何がだ」
「婚約の話よ。お相手はあの帝国の王子様なのよ」
「大丈夫に決まっているだろう。数か月前、視察でここを訪れた際にご子息が見初められたのだ。十五歳にして騎士団の部隊長を務めるようなお方だ。向こうからの強いご所望なのだから、断られるはずがない」
「あの子一人で王家と繋がりが持てるなら安いものだわ。これで我が家も安泰ね」
「ああ。跡継ぎの心配もいらなくなる」
……こんやく……?おうじ……?
会話の意味を脳が拒絶するように、思考がうまく繋がらない。2人は一体、誰の話をしているのだろう。
何か恐ろしいことが自分の身に起きているような気がして、必死に目を開けようと試みる。けれど、強烈な眠気と疲労が容赦なく全身の自由を奪っていく。
問い詰めたいのに、指一本動かない。声も出ない。
「……帝都に着く頃には、あの子も覚悟を決めるだろう……」
「そうね……フフ、楽しみだわ……」
2人の冷ややかな笑い声が、遠くの方でぼやけていく。
車窓の外を過ぎ去っていく景色を見ることも叶わないまま、私の意識は深い闇の中へと沈んでいった。




