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第十章 勝利

一年後。


王国軍の採用試験が変わった。


職業別の採用枠を撤廃。


筆記試験から魔法理論の比重を減らす。


実戦能力。


身体能力。


判断。


純粋な評価。


結果。


新規採用者。


物理職七十二パーセント。


翌年。


八十一パーセント。


「すげえな」


ロルフが新聞をテーブルへ置いた。


いつもの酒場。


久しぶりに四人が揃った。


レオン。


ガレス。


ロルフ。


エリス。


「何が?」


エリスが聞く。


「八割だぞ」


「数字読めるようになったんだ」


「お前は俺を何だと思ってる」


「槍」


「人間ですらねえ」


ガレスが笑う。


レオンは新聞を見る。


予想通り。


ゲーム後期。


物理職一強。


レベルが上がるほど。


装備が揃うほど。


差が出る。


冒険者ギルドも同じ。


高難度依頼。


募集条件。


**近接火力二名以上。**


**高レベル物理職推奨。**


一部。


**物理火力必須。**


ロルフが紙を指す。


「昔と逆だな」


「何が?」


「俺たち、魔術師同行必須で弾かれてただろ」


「ああ」


「今は物理必須」


笑う。


「ざまあみろって感じだな」


エリスが即答。


「性格悪い」


「お前、何とも思わない?」


「仕事増えた」


「それだけ?」


「お金増えた」


「他は?」


「ご飯美味しい」


「もういい」


レオンも笑った。


ただ。


ガレスは笑っていなかった。


「疲れてる?」


レオンが聞く。


「ああ」


「冒険?」


「会議」


「冒険者じゃなくなってる」


「誰のせいだ」


「俺?」


「半分くらい」


ガレスは物理職互助連盟の代表になっていた。


互助連盟。


名前は同じ。


中身は変わった。


会員。


数万人。


王都だけではない。


地方支部。


商人。


職人。


軍人。


政治家。


王国最大級の団体。


ロルフも幹部。


「お前も冒険してないの?」


「してるぞ」


ロルフ。


「週一」


「趣味じゃん」


「身体鈍るからな」


---


変わったものは多かった。


中央区の居住制限。


撤廃。


物理職の学校入学制限。


撤廃。


王国軍の職業制限。


撤廃。


冒険者ギルドの依頼制限。


撤廃。


同一労働に対する職業別賃金。


禁止。


負傷者補償。


遺族補償。


職業平等法。


議会で審議中。


レオンは連盟の資料を見る。


「すごいな」


ガレス。


「何が?」


「最初、宿代で揉めてたのに」


「それと何の関係がある」


「いや」


四人。


銀貨。


飯。


グレイウルフ。


遠い。


「勝ったな」


ロルフが言う。


「何に?」


「全部だよ」


グラスを上げる。


「俺たちは勝った」


ガレスが少し眉をひそめる。


「誰かに勝つためにやったわけじゃない」


「分かってる」


「なら」


「言い方だって」


ロルフは笑う。


「昔の俺たち見てみろよ」


笑いながら続ける。


「中央区にも入れない。危険な仕事。金なし。魔術師様の荷物持ち」


「ロルフ」


「分かってるって」


少し苛立つ。


「今日くらいいいだろ」


沈黙。


レオンがグラスを持つ。


「まあ」


ガレスを見る。


「今日はいいんじゃない?」


ガレスは息を吐く。


「そうだな」


乾杯。


勝った。


確かに。


物理職は不遇ではなくなった。


レオン自身も。


変わった。


レベル八十一。


ゲームなら高レベル。


でも。


それより。


人と話せる。


頼れる。


頼られても。


全部自分で背負わなくていい。


失敗。


怖い。


でも。


やれる。


この世界へ来た意味。


あった。


そう思う。


---


数日後。


事件。


魔術院研究施設襲撃。


夜。


窓。


破壊。


研究資料。


焼却。


壁。


**今までの報いだ。**


死者なし。


負傷者三名。


レオンはニュースを聞いて、連盟へ向かった。


ガレスの部屋。


「知ってる?」


「ああ」


疲れた顔。


「連盟の人間?」


「違う」


「本当に?」


「少なくとも組織としては関係ない」


「個人は?」


「調査中だ」


奥。


ロルフ。


腕を組んでいる。


「でも気持ちは分かるけどな」


レオンが見る。


「ロルフ」


「やった奴を庇ってるわけじゃねえ」


「なら」


「魔術院が今まで何してきた?」


「だからって襲っていいわけじゃない」


「分かってる」


「なら気持ち分かるとか言う必要ないだろ」


「分かってるって言ってんだろ!」


声。


強い。


部屋が静かになる。


ロルフも気づいた。


顔を逸らす。


ガレス。


「連盟として非難声明を出す」


ロルフは黙る。


「いいな」


「好きにしろ」


部屋を出る。


レオンは扉を見る。


「最近、あいつ」


「父親のこともある」


ガレス。


ロルフの父。


重戦士。


危険な仕事。


死亡。


補償なし。


遺族。


貧困。


「時間が必要だ」


「でも何年?」


「何?」


「俺が来てから」


「三年くらいだ」


三年。


長い?


短い?


「今まで押さえつけられてきた人間が、三年で全部忘れられるわけじゃない」


「まあ」


レオンにも分かる。


現実の会社。


思い出す。


今でも腹が立つ。


「でもガレスがいるなら大丈夫か」


「俺?」


「お前まともだから」


ガレスが苦笑する。


「買いかぶるな」


「買ってない」


「どっちだ」


笑う。


そのときは。


本当にそう思った。


---


翌週。


セレスティアと会う。


魔術院。


以前より人が少ない。


「減った?」


レオンが聞く。


「何が?」


「人」


「研究費が削減されたから」


「例の?」


「そう」


「大丈夫?」


「今のところは」


セレスティアは書類を閉じる。


「襲撃の件、連盟が非難声明を出したわね」


「ガレスが」


「知っている」


「ロルフも反対してない」


正確には。


反対していない。


「そう」


セレスティアは窓を見る。


「レオン」


「何?」


「あなたは、この先どうなると思う?」


簡単。


ゲームなら。


物理職一強。


魔法職はほとんど使われない。


でも。


彼女が聞いているのは違う。


「分からない」


初めて。


そう答えた。


セレスティアが少し笑った。


「やっとまともな答えをしたわね」


「ひどい」


「以前なら、全部知っているような顔をしていた」


「してない」


「してた」


たぶん。


していた。


「分からないけど」


レオンは言う。


「良くなるんじゃない?」


「根拠は?」


「ガレスいるし」


「またそれ?」


「あとセレスティアも」


彼女が少し驚く。


「私?」


「おかしくなったら言うだろ」


「言っているつもりだけど」


「もっと強く」


「あなたが聞かないのよ」


「それは」


否定できない。


セレスティアが笑った。


久しぶりだった。


---


一か月後。


王国議会。


職業平等法。


成立。


出生職による法的差別。


全面禁止。


中央広場。


式典。


人。


物理職。


魔法職。


混ざっている。


壇上。


ガレス。


以前。


盾を持っていた男。


今。


王国中が聞いている。


「私たちは、特別な権利を求めているのではありません」


歓声。


「生まれた職業によって、人の価値が決まらない社会を求めています」


レオンは後ろで聞く。


ロルフ。


エリス。


セレスティア。


「魔法職も、物理職も」


ガレス。


「同じ人間です」


大きな拍手。


セレスティアが隣で小さく頷いた。


レオンは聞く。


「これで終わり?」


「始まりでしょうね」


「また難しいこと言う」


「制度を作るより、制度通りに社会を動かす方が難しいの」


「政治向いてないな俺」


「知ってる」


「ひどい」


「その方がいいかもしれないわ」


式典。


終了。


広場。


子供。


剣を腰に下げた少年。


杖を持った少女。


一緒に走る。


レオンは見る。


これでいい。


たぶん。


「レオン!」


ロルフ。


「飲みに行くぞ!」


「昼だけど」


「今日は祝勝会だ!」


「何に勝ったの?」


ロルフは笑う。


「古い世界に」


その言葉。


セレスティアの表情が。


ほんの少し。


曇った。


レオンは気づかなかった。


---


夜。


四人。


いつもの酒場。


久しぶり。


昔話。


「ガレスの盾」


ロルフ。


「まだ言うのか」


「盾捨てろって言われたときの顔」


「お前も槍変えるの嫌がってただろ」


「親父の形見だったからな」


少しだけ静かになる。


ロルフが笑う。


「今も持ってるよ」


エリス。


「私、最初の頃木の根で転んだよね」


三人が見る。


「自分から言う?」


「先に言えばダメージ減る」


「何の戦術だよ」


笑う。


酒。


料理。


レオンも笑う。


本当に。


楽しかった。


最後にこんな時間を過ごしたのは。


いつ。


違う。


今だ。


今。


過ごしている。


「レオン」


ガレス。


「何?」


「お前、最近よく笑うな」


「そう?」


「最初、全然笑わなかった」


ロルフ。


「暗かったな」


エリス。


「今も暗いけど」


「ひどくない?」


また笑う。


この世界へ来て。


良かった。


心から。


そう思った。


翌朝。


目を覚ます。


宿。


窓。


朝日。


視界の端。


文字。


最初。


ステータス表示だと思った。


違う。


---


**治療評価基準を満たしました。**


---


レオンは瞬きをする。


消えない。


次。


---


**社会適応指標:基準値到達**


**自己効力感:改善**


**対人回避傾向:改善**


**治療フェーズを終了します。**


---


「……え?」


心臓。


速くなる。


忘れていた。


ここへ来た理由。


ゲームではない。


治療。


自分。


患者。


現実。


身体。


病院。


アンナ。


文字が続く。


---


**現実環境への復帰準備を開始します。**


**予定接続終了:72時間後**


---


三日。


レオンはベッドに座ったまま動けなかった。


三日後。


帰る。


現実へ。


ずっと。


帰りたかった。


最初は。


それなのに。


最初に浮かんだのは。


現実の家族でも。


病院でも。


仕事でもなかった。


ガレス。


ロルフ。


エリス。


セレスティア。


どう説明する。


何と言う。


そして。


自分がいなくなった後。


この世界は。


どうなる。


レオンは窓の外を見る。


王都。


朝。


人。


剣士。


魔術師。


商人。


子供。


いつもと同じ。


視界。


最後の表示。


---


**治療結果:暫定成功**


---


成功。


レオンはその文字を長く見た。


「そうか」


小さく言った。


自分は。


治ったのか。


嬉しいはずだった。


なのに。


胸の中にあるのは。


喜びとは少し違うものだった。


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