第62話 修羅場突入!? 強者たちの争い 中編①
杏理の予想だにしていなかった発言に皆の目の色が変わる。明らかに周辺の空気や雰囲気が重たくなった感じを覚えた。そして、
「それどういう事かな?」
景ちゃんと真白には話をしているから二人は良いとして、最初に話を切り出したのは意外にも心では無く、刀で俺に襲い掛かって来る変態の称号を持つ天だが、その表情は最近見てきた色々な表情とは違った。
とても恐ろしく鋭い眼光に俺は生唾を飲み込み慎重に応える。
「い、嫌だな杏理……俺がそんな危険な物着けてるわけないだろう? 勘弁してくれよ全く、天も落ち着いてくれよ。そんな怖い顔したら可愛い顔が台無しだぞ」
脳を、思考をフル回転させて知らないフリをし、不審に思われない様に平然を装う。
が、この状況で既にそれは悪手であった。
「透には話してあるでしょ、私経験上分かるのよそういう危険物がね。それ見た感じ外そうとしたら爆破する系でしょ」
「え、いや」
「なんで誤魔化すのよ。私には教えたくないってこと?」
そういうわけじゃないけど、と戸惑いながらも言ってみたが杏理は右手をゆっくりとテーブルの下へと移動させた。
本能で分かる、杏理はきっと服の中に銃を隠し持っているのだろう。このままじゃデパートが事件現場になるかもしれない。
「ねぇ待ってよ」
ここまで静かにしていた心がようやく言葉を漏らしたと同時に、ゆっくりと乱華の方へ顔を向けて問いかける。
「確かそのチョーカーをあげたのって……」
ほんの少しの僅かな時間、けれどそれが今の俺にはとても長く感じてしまう。
心の言葉に対し乱華がどう応えるのか、その結果どうなってしまうのか。それを考えるだけで途方もなく時間が経過している様な錯覚に襲われる。
けれどその錯覚は破られ、アッサリとした乱華は“いつもの態度”で言葉を発した。
「それ透に無理矢理付けたのは私だけど? んだよ文句あっか?」
____それはほんの一瞬だった。
乱華の発言に三人が黒く濁った瞳を見せて素早い行動をした。
まずは天、乱華の隣に座る彼女は流石に出掛けるのに刀を持ち歩いていなかったからか、姫が食べていたハンバーグプレートに置かれたステーキナイフを奪い取り、妹の顔面目掛けて向ける。
次の杏理は先程の予想通り服の中に隠してあった銃を構えて引き金に指を掛けた。
そして最後に心だが、コイツがかなりヤバい、他もヤバいが一般人という枠内で考えてみると心が一番ヤバい。何故か、
可愛らしいショルダーバッグから刃が剥き出しになった包丁を取り出し、逆手でなんの躊躇いもなく後輩の乱華に振り下ろしたのだ。
つまりコイツは俺とさっきまでデートをしていた時から既にそれを持っていたという事になる。散々なことをした筈の俺にその刃が向かなかったことに安堵するべきか、それともそんな物を携帯していた親友に恐怖するべきなのか、なんて恐ろしい事だ。俺の周りにはヤバい奴しかいないのか?
だが、今そんなことを考えている暇はなかった。すぐに行動しないといけない。
「待て、心落ち着いてまず話し合おう!!?」
「杏理もだよ。場所考えて銃引っ込めて」
「……今の殺意、実の妹殺そうとするとか正気ですか変態“東鐘”先輩?」
上から順に状況を説明しよう。
最初に心を止めたのは俺だ。やった事といえば羽交締めして懇願しただけと至ってシンプル、一般ピーポーの俺にはこれが精一杯なのだ。
杏理を止めた真白がしたことは銃身を真白特製ナイフで斬り落とすというものだった。字に起こすとあっけないものだがそれは人間の限界に到達した暗殺者としての最速の動きである。ましてや金属で金属を両断するのは真白にしか出来ない芸当だろう。
そして天を止めた景ちゃんだが、ステーキナイフの刀身をデコピンでへし折った。
以上____
「あれ私だけ細かい描写が無くて雑じゃないですか?」
仕方ないだろ。景ちゃんを人間基準で測れないんだから流石サイボーグ景ちゃん。
「あぁ……儂のナイフがぁ……」
目の前から突然消えたナイフへの喪失感に悲しみを露わにする姫は僅かに涙を流している。
え、そこまでなの? お前はこの状況でどんだけ呑気に飯食べてんだよ。ナイフがそんなに大事か?
「これが無いと困るのじゃ」
「そんなにか? ハンバーグなら最悪箸で切れるだろ」
「ナイフとフォークで食べるのが夢だったのじゃ……」
「どんな夢だよ」
「箸を使わないだけでなんかこう”しゃれおつ”な感じがするじゃろ! そんなおしゃれな女子に憧れてたのじゃ!」
「あっそ」
まあ良いもうこの神様は駄目だ置いておこう。そんなことよりも今は、
「三人共一旦話を聞いてくれないか? 俺からもできれば乱華からもちゃんと話したいことがある」
「「「……」」」
「……だ、駄目か?」
気がつけば混み合っていたフードコートも先程よりも人が減っており、こんな非日常的な事をしていても周囲の者に不審がられない程には落ち着いていた。
でもどうしたものかと気まずい空気の中、俺は思考する。
このままじゃ乱華が可哀想だ。ただでさえ色々訳ありな感じがするのに、大好きな姉からも襲われそうになったとは彼女の精神的ショックは計りしてないだろう。
……なんとかしてあげたい。
『よく言ったのじゃ』
え、なんで姫の声がいきなり聞こえて? 横の姫を見ても目を瞑ってハンバーグを味わっているというのに……、
『儂の声が聞こえるかの透? 今儂はお主の脳内に直接語りかけているのじゃ』
コイツ!? 直接脳内に!?
凄いこんなこと出来るなんて! まるで神様みたいじゃないか!!
『いや神様じゃから』
あ、そういえばそうでしたね。
それでなんのようだよ姫、声に出して話さないって皆には言えない話なわけか?
『そうじゃこれは神様からのお告げ……いや報告? あーいや警告? ……違うの』
とにかく聞くのじゃ、と言われたが一気に聞きたく無くなったんだけど、
『お主の自分のことよりも乱華《小娘》の事を第一に考えた優しさに免じてここで発表と神託をしてやるのじゃ』
発表? 一体なんの発表だよ。どうでもいい事は今聞く余裕がないのだけど?
『儂が透にかけた呪いの内容についてじゃ』
なにそれ超気になるやつじゃん。
『お主は今現在とても強力な”女難の呪い”が付いておる。これはお主の産まれた時からあるもので儂のせいではない』
マジかよ……俺そんな呪い掛かってたのか。でもその呪い今の方がしんどいんだけど? 昔より遥かに女性絡みで今の方がえげつないよ?
『それは”女難の呪い”の最も呪力が強まる時期が今年だからなのじゃ。分かり易く強さで言えば今までが”レベル五”で____』
今が”レベル百”じゃな。
「アホかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うぇぇ!? 先輩どうしたんですか!?」
「え、あ、いやごめんちょっと動揺しちゃってな」
危ない戸惑い過ぎて叫んでしまった。嘘だろなんでそんな恐ろしい事になってんだ?
”女難の呪い”ってだけでもヤバいのに”レベル百”とかキ●ガイ過ぎるだろ。
『まあその気持ちも分かる。そして! ここで儂の呪いの発表じゃ! 儂が与えた呪いはなんと!!』
なんと?
『”女難の呪い”の強化と”真実の呪い”じゃ』
お前は馬鹿か??(震え声)
女難の強化とかイカれてんのか?
『それが儂をロリばばあと言った罰じゃ……次ハナイゾ……』
あ、これはあれだ。一生忘れてくれないやつだ。これからは死んでも言わないと誓います。だから許してください。
『ならぬ、ただ元が強い呪いだからの儂は僅かにしか強化しておらぬのじゃ』
そ、そうなのか……?
「レベル百がレベル百二十になった感じなのじゃ」
いや結構違うじゃねぇか。ふざけんな駄神。
『そんなことよりもお主が気をつけないといけないのは”真実の呪い”の方じゃ』
そういえばさっきそんな事を言っていたな、どんな呪いなのだろう。
『この呪いを持った者は偽証ができなくなるのじゃ』
……え?
『一日の中でランダムでじゃが嘘を口にできなくなる。ただそれだけの呪いじゃがお主にはこれが一番効くじゃろうな』
もし運が悪ければ……?
『丸一日真実しか言えなくなるの』
あ、終わった。
何故にそんな酷い呪いをかけたんだ? 女難だけで十分だろ? これは理不尽過ぎない?
そんな俺の悲しみが溢れた疑問に姫は純粋で綺麗な瞳で俺を見つめながら告げた。
『透が将来悪事に手を染めぬよう、お主のことを想ってやったのじゃが……迷惑じゃったかの??』
「ぐふっ……」
まさかの俺のためを想ってなのか? マジかこの神様……後でクレープ買ってやるからな? 三つ買ってあげよう。
『あとロリばばあって言ったからなのじゃ』
それが本音では?
まあしかしいい迷惑だったとしても、やはり自分の為を想ってやってくれたことはなんだかんだ嬉しいものだ。ヤバいでも洒落にならない程迷惑だわ……。
『じゃからここからが神託じゃ透……”嘘を言ってはならぬのじゃ”嘘をつくつもりが呪いの影響でそれが真実に変わってしまうと”包み隠さず直接伝わってしまう”のじゃ』
なるほど確かにそれは困る。
ならどうするこの状況……、色々考えてみたがここで俺の天才的頭脳が答えを導き出した。
まあでもランダムならいけるだろ。今ぐらい回避できる。俺運良い方だしな、いけるやろ。
根拠のない自信、この自信がこの後恐ろしい悲劇を生み出してしまった。
「実は俺、景ちゃんと心以外の四人に超嫌われてて殺されかけてるんだよねぇー、一先ず皆の正体と状況を説明するから話し合わないか?」
これっぽっちも嘘が言えないどころかまさかの恐ろしいカミングアウトをしてるわ。
『じゃから言ったのじゃが……』
~おまけ~
ちなみになんでレベル百二十にしたんだ?
『儂が好きな数字じゃから、キリがいい数字じゃろ?』
死☆ね。




