第52話 心と景の絶え間ない争い
「ただいまーー……あれ」
真白を家に送り、アパートの自分の部屋へと辿り着いた。
それでいつもならポケットから鍵を取り出して開けるのだが、俺はなんとなくドアノブを捻ってみた。
感覚でいえば家を出る際に「そういえばちゃんと鍵閉めたっけ?」と、確認をするようなその程度の感覚だ。
朝はちゃんと鍵を閉めた。なのに____鍵は空いていた。
「マジか……また心か? アイツいくら親友とはいえ不法侵入はどうかと思うぞ?」
呆れてため息を溢す。
全く困ったものだ。ここはガツンと言ってやるとしよう。
俺は勢いよく扉を開け言い放った。
「心お前いい加減に不法侵入は辞めろよな。合鍵取り上げるぞー」
このアパートは扉を開けてすぐに台所があり、自分を待ち構えているであろう心に言った。
そのつもりだったのだが、
「あ、透おかえりー」
「おかえりなさい先輩! 待っててください! もうすぐご飯が出来ますからね! 景ちゃん特製手料理!」
「僕も作っているんだけど?」
「あーはい。心先輩もいましたね」
「うざっ」
「そっちの方がウザいですよ?」
景ちゃんと心が共に台所に立ち、調理をしている。相変わらず仲悪そうだ……けれど待って? とりあえずこれだけは言わせてくれないか?
「なんでいんだよ……」
●
「はーい先輩お待たせいたしましたー!」
景ちゃんが完成した料理をリビングにあるテーブルへ運んで来た。見たところ今日はカレーのようだ。
「おー美味そうだな」
「絶対美味しいですよ! カレー粉より愛情多めに入れました!!」
「あ、いや。カレーなんだから規定量のカレー粉入れてくんない?」
と言ってみたが無茶苦茶美味しそうだ。景ちゃんのことだからちゃんと作ってくれているだろう。
では早速、とスプーンを持ち食べようとすると、
「はい透! お待たせ僕も作ったよ!」
「え?」
突如やって来た心が俺の前にカレーを置く。さり気なく景ちゃんのカレーを横に退かすようにしてだ。
「……これは?」
「カレーだよ」
「んなもん見たら分かるわ。何故に同じカレーを二つ置くし……」
「「同じじゃないですよ!!」」
疑問を告げた俺に対し、心と景ちゃんはテーブルに勢いよく手を置き、身を乗り出して言った。
「私のが”ビーフカレー”ですよ!」
「僕のが”ポークカレー”だよ!」
「こんな先輩が作ったやつより私の方が百倍美味しいですよ!!」
「それはこっちの台詞だから! 透の好きなのは僕が作った料理なんだよ!!」
知らんがな。どんなことで張り合ってるだよ。ただとりあえず、
「大家さんに怒られるから静かにしてくれ……」
「「あ、ごめんなさい」」
「分かればよろしい。てか食べる前になんで二人がいるのか話してくれ」
あぁそれは、と景ちゃんが心に目配せをすると心が喋りだした。
「あのね透? 僕が透のこと好きなの分かってるよね?」
「私も先輩のこと好きですけどね?」
「……うざコイツ」
「だから喧嘩すんなって……、知ってるけどそれが?」
心の質問に応えると、お互いに睨み合いながら声を揃えて言い放つ。
「私達協定を結ぶことにしました」
「僕達協定を結ぶことにしたんだよ」
「はぁ?」
どういうことだ? と二人の言ったことに思考が追い付かず理解出来ないでいると、
「ムカつくことに私達はお互いに先輩のことが好きです。ですからお互いに厳しいルールを設けることで抜け駆けしないようにしたんです」
厳しいルール? 例えば?
「”一緒に寝ない”、”一緒にお風呂に入らない”とかです」
「ルール以前の問題だわ!! 倫理観狂ってんのか!?」
「でも僕達昔は一緒に寝たし、一緒にお風呂に入ってたよね?」
「それは心が男だったからだろうが!!」
同性だったから一緒に風呂も入ったことあるし、家にも泊まりに来たことはあった。
今の心とそんな事したことない。ストーカー景ちゃんの前でアホなこと言わないでくれ。
「いくら男だったからといってもフェアじゃないですね」
「なんでだよ!?」
「先輩後でお風呂入りましょう。一緒に寝ましょう」
「景ちゃん思考バグってんのか!? 無理に決まってんだろ!?」
本当に……? と景ちゃんの発言を聞いて心が俺に対して鬼の様な形相を向けている。
いやお前の言ったことが原因だからね? 機嫌悪くならないでくんない?
「ともかく私達はこれからは公平でいきます。例えば……先輩この男女先輩の頭を撫でてみてください」
「? こうか?」
「ふにゃぁ〜」
言われた通り心の頭を撫でてみる。すると心はまるで犬の様に目を細めて喜び出した。が、すぐさま景ちゃんが止めに入って、
「はいはいはい終了です!!ズルいです酷いです先輩最低です!」
「えぇぇ……景ちゃんにやれって言われたのに……」
「公平にです!! 私にもやってください! 優しく愛情を込めて!」
「分かった分かった」
喧しかったので仕方なく景ちゃんの頭に手を置き優しく撫でる。
「ん……」
嬉しそうではあるだろうが、どこか色っぽい声を出す景ちゃん。
辞めろおい。なんか変な事してる気分になるだろ。
この状況に思わず俺も恥ずかしくなってしまう。そんな時景ちゃんは潤んだ瞳で小さく呟いた。
「先輩……好きぃぃ♡」
「……あ、そっすか」
あのさー? 破壊力あり過ぎんだよなー? マジで辞めてくんない?
「僕ももっと撫でてよ! その女ばっかりズルいよ!!」
「二人とも早速公平って言っておきながらそれじゃ終わらないからな?」
「べー! 今は私の番ですぅー! 邪魔しないでくださいぃー!」
「……お前マジで死ねよ」
「いや本当に喧嘩すんなって! お前らどんだけ仲悪いんだよ!? 犬と猿の方がまだ仲良いまだあるぞおい!?」
片目を閉じ舌を出して挑発する景ちゃん、心はその姿に青筋を立てて怒りを露わにしている。
あまりの状況にいい加減止めに入ろうとしていると、スマホが静かに震えたので確認してみた。
そこには____
【ご主人様ー!! 今日私と散歩をしようじゃないか! 公園で待ち合わせだぞ! 必ず来てくれ待っているからね!】
雌豚先輩から送られたメッセージが一つ。
「……もう嫌だコイツら」
あ、とりあえずカレーはどっちも美味しかったですはい。
あ? どっちが美味しかったって? 言えるわけないだろ……それ言ったら俺の家が事件現場になるわ……。




