第50話 真白との水族館デート 中編
「俺のこと?」
突然のことに聞き返すと、真白は首を縦に振った。
「とー君は先輩の妹とは実際は付き合ってないんでしょ?」
「付き合ってないな、形だけだぞ? 今の理由は如何あれな。 それに元はといえばこのチョーカーが原因だし」
「心ちゃんのことも別に好きじゃないんだよね?」
「いやもちろん好きは好きだぞ? ただそれは幼馴染で親友だから好きなんだよ。それで言ったら真白もそうなる」
ふーん? とその言葉を聞き、嬉しそうな笑みを見せながらジト目で俺を睨む。
「じゃあもっと私にかまってよ」
「今まで塩対応だったのは誰だと思ってるんですか?」
「ならお願いだからこれからはもっとかまって」
「オーケー分かった了解した! とりあえずそのナイフを戻しなさい!?」
刃物を向けながらの要求とか、もはやそれは脅迫だからな? お願いじゃないからな?
先程よりも嬉しそうにしながらナイフを仕まう真白。もうそれ俺に預からせてくれない?
「駄目。これないと落ち着かないから」
ほー? 言ったな? ……なら、
「パンツ穿いてないのと、どっちが落ち着かない?」
「ナイフ無いと落ち着かない」
ちょ……お前マジか!? それは女子としてヤバいだろ! てか人として!!
「そんな事よりもまだ質問してるのは私だよ。じゃあ昨日会ってたけど杏理はどうなの? 好きなの?」
「いや特に、ただの友達」
「ただの女友達と手を繋いで買い物するんだぁ? ふーん? へぇー?」
「んだよ」
「別に? ……じゃあ東鐘先輩は?」
「“あれ”か? んー“あれ”はなんだろうな……よく分からん」
「どう言う事?」
状況がよく分かっていない真白に俺は「見てみるか?」と、スマホを取り出しメッセージアプリを開いて先輩とのやりとりを見せる。
他人にメッセージの内容を見せるのは駄目じゃないかと思ったが、まあ良いだろう。
そしてメッセージの内容を見た瞬間、真白の眉間に皺が寄る。
●
【ご主人様これはどうだろう。私に似合うだろうか?(犬耳を付けた天先輩の画像)】
【ジャガイモ 人参】
【こんな物も買ってみたんだご主人様(尻尾と首輪を付けた先輩の画像)】
【玉ねぎ 肉】
【良いよご主人様! その無視されてる感じ! 堪らないねぇ! 最高だよ!!】
【カレー粉】
【あ、肉じゃがだと思っていたけれどカレーだったんだね】
●
以降、先輩からのメッセージをほぼ既読スルーしている画面が続く。真白は自身の眉間を抑えながら口を開いた。
「とー君これは?」
「あぁ天先輩とのメッセージだよ」
ヤバい人だろこの人、と言うが真白は一度ため息をしてから一言。
「とー君のメッセージは何?」
「え? ……あーこれか、メモ帳代わりにしてたんだよ」
「……とー君もなかなか変だよ」
やめろ真白、この言葉は俺に効く……。
「そもそもいくら変でも女の子にそんな雑な扱いしちゃ……」
「待ってくれ。その正論を言う前にこれを見て?」
先輩とのメッセージ画面を見せながらそれを上へとスライドして過去の内容を見せる。____結果、
「先輩と最近連絡取るようになったけど毎日こんな変なの送られてくるんだよ……一日平均五十件以上……」
「東鐘先輩何してるの?」
「ほぼ半裸の画像も来た時あるからね?」
うっわ、と露骨に引く真白。
「ともかくこんな雑な扱いしてる先輩のことをどう思ってるかって?? ”関わり合いたくない残念な先輩”でしかないわ」
「と言いながらもかまっちゃう。とー君の優しいところだと思うよ? じゃああの生意気でムカつく後輩は?」
それって誰のこと言っとる? もしかして……
「景ちゃんのことか?」
「うんソイツ」
お前ら本当に仲悪いなぁ……全く、
「景ちゃん? 景ちゃんはなぁ……んーなんだろうか……」
「嫌いなの? 嫌いだよね? 嫌いだよきっと」
いやいや圧が、圧が強いからね?
「嫌い……じゃない。むしろ好き……てかただ気になるんだよ。景ちゃんって俺以外の奴といるのを見たことないし」
「心配で一緒にいる感じ?」
「あー……多分?」
「ふーん」
面白くないのかコチラをジト目で睨む真白に、俺は気まずくなり横にある館内マップを指差し告げた。
「な、なんか深海生物コーナーがあるらしいけど行くか?」
「……うん」
●
暗い通路を通って、さらに緩い階段を降る。そこには先程までいた大きな水槽の場所とは違い小型の水槽が複数あり、様々な深海の生き物達が薄暗い明かりでライトアップされていた。
「へー面白い形してる魚だね」
真白の言葉に俺は「本当だな」とシンプルな感想を答える。素っ気ないように思われるかもしれないが、それが俺が思った本心だ。
そこから深海魚や蟹、海月などを見て回っていると、ふと考えていた事が纏まり声を出した。
「此処にはいないけどさ」
「ん、なに?」
「いきなりだけど、大体の人ならすぐ思い浮かべることのできるチョウチンアンコウっているだろ? 深海の生き物の」
「うん知ってるよ? あの頭に付いてる触覚? で獲物をおびき寄せて食べる奴だよね?」
あぁそれだよそれ、と続ける。
「俺達の知ってるのは雌個体なんだよ。チョウチンアンコウの雄は凄く小さいんだ」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「でな? 雄は次はいつ会えるか分からない世界、暗くて広い深海で雌に出逢うと繁殖の為に雌の身体に噛み付くらしいぞ。そしてそのまま同化してしまうそうな」
「へー……まあそうだよね。それが彼らなりの生きる術なんだろうね」
面白いなぁ、と興味津々で話を聞いてくれた真白に俺は告げる。
「俺はそれ分かるなって、世界に何億人も色んな人がいて、その中で幼馴染は真白と心だけなんだよ」
「……」
「真白ことを助けたってのも正直覚えてないけど俺だったらすると思うし、せっかく出逢えた二人……真白や心とはこれからも仲良くしたいし、幸せになって欲しい」
「とー君……」
「そう言う気持ちを俺は____」
「ギャルゲーで学んだ」
「うっわ……台無しだよ……。死んでくれない?」
え、待って? 辛辣過ぎない??




