第49話 真白との水族館デート 前編
ゴールデンウィーク二日目。
今日も待ち合わせをしていた俺はとある施設の前にいた。
昨日の待ち合わせ場所の駅前からバスに乗り、辿り着いた所はこの町の海寄りの方にある”星空水族館”だ。そこは休みの日なら家族やカップルで溢れる場所。
何故俺がそんなデートスポットの前で待っているかと言うと、
「ごめん! とー君待った!?」
小走りでコチラへ走ってくる可愛い生き物、この特徴的な名前の呼び方、そう俺は幼馴染の一人”琴凪真白”とこの水族館でデート? をすることになった。
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杏理の料理を食べ終え、家に帰宅した時に真白からメッセージが送られてた。
その内容は、
【手当たり次第女の子に手を出して取っ替え引っ替えしてるとー君元気?】
【待て待て待て! 言い方酷過ぎないか!?】
【事実でしょ】
【事実なわけっ! ____事実だったわ……】
時に真実とはどんな事よりも残酷なんだが? すると真白から【まぁそれは置いといてね】と前置きが入り、次のメッセージが送られてくる。
【明日は水族館に行きたいなって】
【へ、明日? なんかあったっけ?】
【……もしかして忘れたの?】
嫌な予感がしてメッセージを遡り真白とのやり取りを見つけた。その内容はゴールデンウィーク二日目に出掛けようというもの。
危なかったわ。完璧忘れてた。
【何言ってんだよ覚えてるに決まってんだろ?】
【嘘だ】
【いや、そんな唐突にアニメネタを放り込まれても……】
これはいいように誘導された感がある。クソやられた。
【ともかく明日は水族館待ち合わせだからね! 必ず来てねとー君!】
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そんなこんなで合流した俺達だが、
「……」
「何とー君? そんなまじまじと見て」
「あーいや、今日の真白可愛いな。その服無茶苦茶似合ってるぞ」
「へ? ……あ、あれかな。わ、私が可愛いのは今日だけなんだぁ〜?」
「いや? いつも可愛いと思ってたけど? 今日はいつも以上にって感じ」
「……本当にとー君のそういうところ嫌い」
「なにその理不尽」
褒めたはずが何故か頬を膨らまし文句を言う真白。何故そう言われたのかよく分からないが、いつまでもここにいる訳にもいかないだろう。
「真白とりあえず入らないか? ここでずっといるのも邪魔になるしな」
「……それもそうだね」
じゃあ行こうか、と歩き出した瞬間に真白が言った。
「ねぇとー君? 手は繋がないの?」
「へ?」
いきなりの言葉に一瞬困ったが直ぐに返答してみる。
「なんでわざわざ手を繋ぐ必要があるのかよく分から____なんでもないです」
俺の返答は最後まで言い終わることなく、首に添えられたある物によって止められてしまった。ある物とは? もはや真白といえば”コレ”しか考えられない物。そう、頑丈で立派なナイフだ。
そんな危険物が俺の首に向けられている。こんな人がいる所でよくやるなコイツ。
「え? なになに? よく聞こえないんだけどー? ちゃんと言い返してくれないかな?」
「いえ気のせいだったわ! 何言ってんだよ俺が真白に何か言うとかあるわけないじゃん!」
「だよねー? とー君は私に絶対服従だもんねー?」
「えー? 初耳かもなー?」
あははー気のせいだよー、と棒読みで笑う真白だが目が笑ってない。
「杏理とは手を繋いだくせに私とは手を繋げないとか意味分かんないもんねー」
「そ、その通りですだよ……」
「ですだよ姉ちゃんかな? ……それじゃとー君? 昨日のこと色々教えて欲しいな。勿論嘘ついたら分かるよね……?」
そうだった。昨日の説明しないといけないじゃん……。
こうして何を話そうか、要点をまとめている間に俺達は水族館へと入った。
◆
「凄い! 見て綺麗だねとー君!」
「おっそうだな」
「特にこの鮫可愛いね! とー君餌やり体験してみたら? ほらほら」
「それ餌が俺になっちゃうからね?」
冷静に言い返すと、
「嫌だな冗談冗談。とー君は鮫なんかに渡さないよ? なんてったって私の獲物だからね」
「海では鮫、陸では真白とか何コレ? 俺色々とハードモード過ぎないか?」
「そんなことないよ?」
あるわ。ムッチャあるわ。てか俺、陸だと真白以外にも命の危機に陥りやすいのだが? これは海の方が安全なまであるな。
うんうん、と俺は一人納得して小さく頷く。
水族館へと入場した俺達は薄暗い雰囲気の中で様々な魚を見て周り、現在は大きな水槽の設置された広い空間で魚達を眺めていた。
そこで真白は一匹の鮫を指差し、
「凄いよね。水槽に鮫も一緒に入れてるなんて他の魚食べられないのかな?」
「鮫は餌を与えられて腹が膨れてるから食わないらしいぞ」
「え、凄いとー君知ってるんだね。物知りだ」
「いや、今高速でスマホで調べた」
「……そっか」
流石スマホだ。持ち運びできるパソコンは本当有能過ぎる。
俺が一人スマホの有能性について考えていると、真白は水槽を眺めながら呟く様に、だがハッキリと聞こえる声で言葉を溢した。
「やっぱり皆と一緒が良いもんね。他と違うかもしれない。危害を加えるかもしれない……」
だけれど、
「ひとりぼっちは寂しいもん」
「……真白」
「好き好んで鮫に生まれてきたわけじゃないかもしれない。もしかしたら普通に皆と同じ人生があったかも……そう考えたことだってあったよ。きっと……」
「……」
上の方を優雅に泳ぐ鮫を見つめて真白は何処か寂しそうにしている。彼女にとって何か思う所があったのだろう。
しばらく静かに鮫を見ていた真白は、やがて俺の方を向き口を開いた。
「とー君は覚えてる? 私がとー君にあまり話さなくなった時のこと」
「なんだ急に? ……そりゃ覚えてるわ。前日まで普通に話してた幼馴染が翌日には愛称じゃなくて『雨上君』だぞ? 流石に驚くって」
今でもよく覚えている。中学生の頃、普通に学校から帰って真白を家まで送った次の日には態度が変わっていたのだ。嫌でも忘れない。
「あの時、私嫌がらせとかされてたんだけど……なんか覚えてる?」
嫌がらせ? はて、なんだろうか。
残念ながら昔の事をすぐ忘れちゃう俺は全く覚えがない。
もしかして俺が嫌がらせしてたとか?
そう言った俺に対し、真白は首を振り否定する。
「そんなわけない。寧ろ私が助けてもらったんだよ?」
「誰に」
「とー君」
「えー?」
嘘でしょ……全く覚えてないのだが?
「本当に覚えてないの?」
「全く」
「……本当にとー君のそういうとこ嫌い!」
「えー……」
何故に怒られるのかこれがわからん。
ただいつもの真白の態度とは少し違うように見える。顔を真っ赤にして怒るというよりも不満が爆発した様な、そんな感じ。
でもとりあえずこれだけは言おうか。
「真白さん水族館ではお静かにね?」
「あ、ごめん。そうだった」
感情的になったが、ちゃんと謝る真白はゆっくり言葉を続けた。
「ねぇとー君? ……私、とー君の気持ちがちゃんと知りたいよ……」




