第48話 真白の昔話
過去の話をしよう。
私、”琴凪真白”の昔のお話。
私の家は国で認められた代々の暗殺一家だった。お爺ちゃんからは「この家業は江戸時代の頃から____」と、長い話が始まってしまうが、とりあえず意外と長い歴史のある家らしい。
”らしい”という曖昧な言葉を使うのは仕方がないのだ。私は物心がついた時には日々の鍛錬や仕事に励んでいて、つまり私には暗殺家業が世界の常識。当たり前ものという認識でいたのだ。だから小学生になった時は周りの子達との違いに結構驚いたし、慣れるまで時間がかかった。
家では訓練と仕事、学校では常識の勉強と、忙しい日々の中で私はあの二人に出逢った。
”鍵咲心太郎”と”雨上透”
退屈そうにしていた私に彼らが話しかけてきてくれた。そこからの私の日々は最高になる。
一緒に色んな場所に遊びに行き、二人と一緒にいたおかげで常識も身に付いていったし、本当に楽しい毎日で楽しかった____けれど、四年生になって間もない頃、とー君の雰囲気が少し変わったのだ。
彼はいつも通り振る舞っているつもりだっただろうが、暗い顔をする事が多くなり、どこか少し人と距離を置いているように見えて……それが私達幼馴染にはすぐ分かった。
でも、分かっていても私達はどうする事も出来なかった。
そして中学生になった頃……。
◆
「ねぇ知ってる? あの話」
「えー何なんの話?」
下校しようと廊下を歩く生徒が小声で話している声が聞こえる。常人なら聞こえないであろう声だが様々な訓練を積んだ私にはその音がよく耳に響いた。
「一組の琴凪がまた告白されたらしいよ」
「今月だけで何回目?」
「五、六回じゃない? しかもまた振ったって」
「またー? 本当に何様?」
「ちょっと可愛いからって調子乗ってない?」
「分かるー」
「てかアイツウチらのこと下に見てるらしいよ?」
「マジ? うっざー」
チッ、思わず舌打ちが漏れる。
中学生になってから告白をさせる事が多くなった私は、同じクラスの女子に嫌われていた。その程度で何故嫌われたのかよく分からないけど、
「どうしてこうなったのかな……あまり目立ちたくないのに」
それにしてもこの女子特有のやつはなんだろう。本当にめんどくさい事この上ない。
始末して良いならいくらだってしたいが、これも我慢、人の噂も七十五日。
「……にしてもムカついてきたよ」
いつも警戒されないように笑顔でいるけれど、流石に限界が来ていた。
スカートに忍ばせたナイフに手を伸ばそうとした時、
「お、真白ー」
「……え、あ、しー君」
背後から聞こえてきた声に即反応し、手を引っ込め振り返ると、そこには幼馴染のしー君がいた。
「どうした? なんか元気ないけど」
「……ううん。別に気のせいじゃない?」
「そうかな?」
んー、と未だ唸るしー君に質問をして話を変える。
「そういえばとー君は?」
「透? あーなんか用事があるとかで先帰っちゃってさ」
「……そうなんだ」
二人の間に沈黙が流れる。別に嫌な沈黙ではなく、ただシンプルに話が途切れ不思議と二人で窓硝子の外を眺めていた。そんな時間が心地良くて、秘密にしていることは確かにあるけれど、私の事を知ってくれている幼馴染の大切さを実感したのだ。
あぁ、やっぱり私には幼馴染の二人がいれば何もいらない。
こんな時間がいつまでも続きますように……、そう思っていると、
「真白に聞いて欲しいことがあるんだ……」
真剣な眼差しを受け、声を発する事なく私はしー君の次の言葉を待った。
「俺……透のこと好きなんだよね」
「……そっか」
やっぱり変わらないものなんてないんだ。
●
「え、真白知ってたのか?」
「うん。ていうかバレバレだったよしー君?」
「嘘!? じゃあ透にもバレちゃったかな!?」
いやとー君は鈍感だから大丈夫な筈だ。まず間違いないだろう。
「しー君! 私応援してるからね!」
「真白……!! ありがとう! 俺透のところ行ってくる!」
元気良く廊下を駆け出すしー君を見送りながら、私は再び外の景色を眺め黄昏る。
言った通りしー君がとー君の事を好きなことは知っていた。しかも小学生の頃には知っていたし驚きはない。
でも幼馴染という絆の形に執着していた私には、応援はしたけどその関係が壊れてしまいそうで少し悲しくなってしまったのだ。全く私は面倒臭い性格をしている。
終わらない関係なんてないんだから……。
「とりあえず早く帰ろう」
告白のせいで皆より帰りが遅れてしまった私は、いつの間にやら人のいなくなった廊下を進み自身の教室へと向かった。
扉を開き教室に入ると案の定誰もいない。
そこで私の視線は机に置かれた私の鞄と、机に貼られた何らかの白い紙に向けられた。
「ハァ……」
詳しく見てもいない状況に苛つきため息を溢す。恐る恐る近付きまたもため息、先程よりさらに深いため息をしてしまう。
書かれた字は私を貶す言葉の数々、その大量の紙を丸めて遠いゴミ箱へ投げ見事入れる。
さすが私だ。ナイフ使いとしてなかなかの腕前で完璧だ。
「それにしても本当に腹立つ……」
日増しに酷くなっている。いい加減我慢の限界を越えそうだ。
犯人は間違いなくこの一組のカースト上位の女子だろう。理由はシンプルに自分が好きだった先輩が私に告白してきたから、ただそれだけの理由……馬鹿らしくなってくる。
「いっそのこと……」
素早くナイフを構えて刀身を夕焼けに当てる。光は煌びやかに反射し辺りを照らす。
琴凪家に代々伝わるナイフに自分でアレンジを加え、頑丈でとんでもなく切れ味の凄いナイフを作り上げた。私の相棒。
自分の美しいナイフに見惚れていると廊下から聞こえる足音に気付き、即座にナイフを隠すと、教室の扉が勢いよく開け放たれた。
「琴凪さん!!?」
「え……先輩?」
いきなり現れたのは先程考えていた私が嫌がらせを受ける原因になった先輩、名前は忘れたけれど、
「琴凪さん許してください!! もう貴女に二度と近付きません!!」
「は、はぁ……?」
何故かその先輩はボコボコに殴られ、見るからに痛々しい姿で現れた。
「実は振られた腹いせに琴凪さんの有る事無い事噂を流してたのは俺なんだ! 本当にごめんなさい! もう二度と近付かないから許してくれ!!!」
「……」
今ちょっとカチンと来たが一回は我慢してやろう。
「他の女子にも辞めるように言う! 本当にすいませんでしたぁぁぁぁ!!!」
先輩は言うだけ言うと走り去って行った。
一体何があったのだろう? まぁ私としては終わってくれるならそれで良いが……、とその前に、
「とー君いるんでしょ? 出てきたら?」
「……」
私の言葉を聞くと、しばらく無反応だったが諦めたのかとー君が教室へと入ってきた。
その姿は先輩程じゃないけれど怪我をしていて、無愛想な態度でコチラへ歩いてくる。
「大丈夫とー君? 怪我してるけど」
「……転んだんだよ」
「殴られた跡に見えるけど?」
「……気のせいだろ」
「ふーん??」
んだよ、と相変わらず無愛想な幼馴染だが、間違いなく嘘だろう。全くとー君は……。
「暗くなってきたし家まで送るぞ」
「ありがと」
こうして私達は家に向かい、途中でしー君とも合流し幼馴染三人で帰った。
数日後には私への嫌がらせは無くなり普通に過ごせるようになる。本人は何も言わないがとー君が何かをしてくれたのだろう。
でも、
「そんな雨上君が嫌いなの……」
他人を助ける為ならなんでも出来てしまう。たとえ自分が傷付いてもとー君は誰かを助けようとする。
ここから数週間後に何らかのゲームに出会ったとかで、前以上に元気になったとー君だが、さらに自分よりも他人を優先する人になった。
そんなところが……嫌い。でも好き……。
●
私はとー君が好きだ。けれど幼馴染三人の関係も好き、この関係は壊したくない。でも心ちゃんの応援もしたい……。
私は我儘だ。自分の気持ちに嘘を付き、三人の関係を壊したくないと言っておきながら心ちゃんの事だけを優先した。とー君の事なんて考えてなかった。そんな私が嫌い。
しかし私は知った。どんなことよりも____
私達以外の女の子とイチャイチャしてるとー君が一番嫌い。
~おまけ~
※ルート15での事と関係あり
しー君が心ちゃんになって初めて二人で買い物に行った時のこと____
「真白ちゃんありがとうね! 今日は買い物に付き合ってくれて!」
「良いよ私も楽しいしね」
「そう言ってもらえて良かった! あ、真白ちゃんこれプレゼント!」
なんだろう、と笑顔で受け取った見る。
「熊のキーホルダー?」
「ほら僕とお揃いね」
「ほんとだ。色違いなんだね」
うん。これで……、と心ちゃんは言葉を続けた。
「ライバルだね」
「……え? ど、どういうことなの?」
「……分かってないなら良いよ。じゃあ帰ろ」
「う、うん」
この言葉の意味を私が理解したのは次の日になってからだった。




