第46話 なんでも両断ナイフいかがですかぁ?
「ねぇ見て雨上この食器かなりおしゃれじゃない?」
「おー確かにな、この感じなら色んな料理に合いそうだな」
「それにこの小鉢も良いわね! あっこれもいい!! このワイングラスも素敵ね!!」
「未成年だけど何に使うんだ?」
煩いわね気分よ気分、と応えて再度食器を見るのに戻る杏理。
現在、俺達は駅から少し離れたデパートに来ていた。
そこは、この街の者なら誰でも来たことがあるデパートで、基本何でも売っている。そしてエスカレーターを上り二階にある百円均一の店に入り商品を見ていた。
「ふと思ったけど今のこういう店って凄いな」
「え、なにがよ」
「いや便利な物が増えたなってな? ここだけじゃなくて色々な店にもあるし、安い値段で品質の良い物が買いやすくなったっていうかさ?」
「そうなの? 私はあんまりお店に来たことないからよく分からないわ」
「へー杏理はこういう店あんま来ないのか。海外では無い的な?」
「いいえ。この店だけじゃないわ」
俺の言葉を否定した杏理は、どこか寂しそうな表情で食器を眺めながら静かに語る。
「私ね、私用で家から殆ど出たことなかったのよ。そりゃ多少はあるわよ? でも買い物は全くしたことないわ」
「そうなのか? ……杏理って実は結構なお嬢様とかなのか? そういうのメイドに任せてたとか」
「……そんなんじゃないわよ」
「?」
「私別のも見て来ていいかしら? 他にどんな物が売ってるか気になるわ」
「ん? あ、あぁ分かった。俺はもうちょいここで見とく」
じゃあまたあとでね、と杏理は笑顔を向けてきたが、それがどこかぎこちなく感じた。
どうしたのだろう……アイツ。
「本当になんだろうね。あんな顔の杏理見たことないよ」
「なんか言っちゃいけないこと言ったかな俺……」
「いや? とー君は別に変なこと言ってないと思うよ? 本人が話したくないならしょうがないかもよ? 話してくれるタイミング待つのが一番だよ」
確かにその通りだ。それに杏理は話してくれると言ってくれたし、それを大人しく待つとしよう。
「……そうだよな。ありがとな話聞いてくれて____真白」
「良いんだよ。私が勝手に聞いてただけだしね」
「あはは、なんだそうだったのか」
「うん」
あー……、あぁー……、あぁー? あれぇ??
「真白ぉぉぉぉ!!?」
「そう私だよとー君。たまたま見つけたけど何しているのかな?」
「えーと、それはですねぇー?」
やばいぞ。ただ買い物をしてるだけだが、傍から見たらこの状況はデートの様に見えるのではないだろうか?
「なんでとー君は杏理とデートしてるの?」
「あばばばば」
ガッツリデートしてるように見えているようだ。
不味い非常に不味い! よりにもよって真白に見られるとは……いや誰に見られても困るんだけどね!?
……ここは嘘で乗り切るしかない。
「デート? おいおいなに言ってんだよ真白そんなことある訳ないだろ? 俺と杏理は偶々会ったんだ。ついさっきな」
「へーそうなんだー」
「おう。そうなんだよー」
「でもさっき駅前で待ち合わせしてたような?」
あー……
「しかも手を繋ぎながらこのデパートまでやって来てたようなぁー?」
あぁー……
「しかもしかも楽しそうに話しながら買い物してたようなぁぁーー??」
あぁぁぁぁぁ!?
「すいません人違いです!! あっ私用事があるのでここで失礼しますねぇぇぇ!!?」
真白に背を向けて足を一歩前に、全力疾走一秒前____
「まぁまぁまぁまぁ、待ってよとー君」
「うぉーー!? 離せぇ抱きつくなぁーー!!」
「如何ですかお客様ぁぁ? 今ならこのナイフがオススメですよぉ? 硬い南瓜どころか硬いまな板までサクッと両断できる最高の商品だよ? どう凄くない? 味わってみる? ねぇ味わってみる??」
「まな板もセットで切るってそれはもはや欠陥品だからな!? 辞めろ俺にそれを向けるな! お前のナイフの切れ味はよく知ってんだよ! てかさっさと俺から離れろぉぉぉ!」
「とー君うるさいよ。他のお客様のご迷惑になるからね?」
ぐぬぬ……正論過ぎて腹立つ……。
でも言われた通りなので、とりあえず深呼吸してから冷静に話す事にしよう。
可愛い女子が抱きついてきて通常なら胸踊る状況のはずが、喉元に添えられたナイフのせいで別の意味で動悸が激しくなってるわ。
この状況で冷静になれる俺もなかなかヤバい奴な気がする……。
「で? どういうことなのとー君? なんで嘘つくの内容によっては……」
「な、なんだよ。心にチクるのか……」
「いや殺す」
「ちょっと待って極論過ぎる!?」
「小説タイトル風にするなら『百円均一殺人事件』だね」
「あぁー? ぽ、ぽいかも?」
てか何故に小説タイトル風?
「そして犯人は見つからずに未解決だね」
「いや杏理と一緒でお前も逃げる気満々かよ。小説なのに未解決はどうなんだそれ……」
それに杏理もそうだけどお前らのその逃げれる自信はなんなんだ? と軽く言ったつもりだった。だが俺のそんな何気ない一言に真白はナイフの握る力を強め、いつものゆるふわ系の目とは違う鋭い目つきで言った。
「『杏理と一緒で』って何?」
「え……」
「今の言い方だと杏理にも言われたみたいだよね。ねぇどういうこと?」
そ、それは……、と動揺のあまり咄嗟に嘘がつけず言葉を詰まらせてしまった。
どうしよう……正直に言うべきか? しかし言ったところで信じるかも分からないし、俺自身もまだ杏理から話を聞いてないから本当の事を知らない。
どうしたものか、と悩んでいると、
「そのナイフを下ろしなさい。さもないと貴女の頭空気の通り良くなるわよ」
真白の後ろから響く聞き覚えのある声、忘れるわけがない本当についさっきまで一緒にいた、俺にできた数少ない友達の声だ。
「あ、杏理……なにしてるの?」
「聞こえなかったかしら真白? ナイフを下ろすの三度目はないわよ」
「……」
真白は潔くナイフを下ろす。
そりゃそうだ。自分の頭に銃を向けられたら誰だって素直に従うしかない……いやそうじゃなくて、
「杏理も銃を隠せって、お前らここ店の中だからな? 誰かにバレたらどうすんだよ?」
「……それもそうね」
「……うん。分かった」
珍しく俺の意見が通り大人しく二人は凶器を収める。ふと思ったがこれ防犯カメラとかに写ってるんじゃないか? と思ったが杏理はともかく真白のことだからカメラの死角を狙ってやった筈だ。
「当たり前だよ」
さすが真白さん……、と思わず苦笑していると杏理が口を開いた。
「真白なら私がこんなに近付く事なんて無理な筈でしょ。雨上に気取られ過ぎよ」
「……」
「今日は帰ってくれないかしら? 雨上と楽しくお買い物してるのよ私」
「分かったよ。今は引くから……とー君理由聞かせてね?」
「お、おう分かった」
そうだったわ。真白とも出掛ける約束してるんだった……俺死ぬかもしれない。
「じゃあ雨上そろそろ私の家に行くわよ。買いたい物も買ったしね。私の手料理楽しみなんでしょ? ほら早く」
そんな事よりも真白の顔が無茶苦茶怖かったんだけど?? え、待って? 冗談抜きで俺の命が心配なんだが??




