第41話 杏理は何気に可愛い
持っているたい焼きを眺める。
かなりの完成度だ。とても一般女子高生が作ってきたとは思えないクオリティ。
「なあ杏理質問していいか?」
「何よいきなり? ま、良いわよ答えてあげる」
「いやさ何故に昼飯がたい焼きなのかなと?」
「……アンタたい焼き嫌いなの?」
いやむしろ好きな方だけど、と俺の言葉に杏理が続ける。
「そうよね。昨日も美味しそうに食べていたものね。彼女と」
「え、あぁ、確かに昨日乱華と行ったけど食べると言ってもほぼ吹き飛んだんだけど……」
あれ? って待てよ? なんで杏理がそれを知ってんだ?
「食べてみなさいよ……。私がアンタの為にわざわざ作ったんだから」
「え、お、おう……分かった」
言われた通り一口食べてみる。もちろん俺は尻尾から派ではないので頭から齧り付いた。
「美味!」
外はカリッと香ばしく、中の生地はしっとりとしている。そして何よりも驚いたのはこの餡子、豆の存在感がある粒餡なのだが驚く程滑らかでこんなに美味しいたい焼きは初めてだ。
「驚いた。無茶苦茶美味しいぞこれ」
「そ、そぉ? なら良かったわね! 別に全然作るの難しくなかったわよ!? 余裕ね余裕! ア、アンタの為じゃないけどね!?」
さっき俺の為に作ったって言っていたが、ひとまずその矛盾は飲み込んでやろう。
少し頬を染め、そっぽを向いて腕を組み教科書通りのツンデレを披露する杏理を見て思わず笑みが溢れる。可愛いな杏理。
「な、何よいきなり笑って……ち、因みにだけどリクエストとかないかしら? もっとこうして欲しいとか」
「あぁじゃあさ____」
これも練習の為だ。ハッキリと思ったことを告げた。
「俺、餡子嫌いなんだよ。クリームにしてくれクリーム。それと俺たい焼きの生地はしっとり派だからさ、美味しいけどこれあんま好きじゃない」
言い終わった瞬間、額に何かを押し付けられた。
廊下の隅にある階段だから多少周りが薄暗いのだが、別に見えないわけではない。
顔を少し上に傾けて見たが、押し付けられた物の正体が分からなかった。だが俺にそれを突き付けているのはこの場で一人しかいない。
「……な、なんの真似だよ杏理」
「……」
「とりあえず落ち着いて話をしようじゃないか」
「雨上」
「はい」
「うるさいわよ」
「あ、はい」
「全く私がせっかく作って来てあげたのに、アンタと来たら、よくもまあそんな文句言えるわね。それは普通に”美味しい”で良くない? 私がどれだけ頑張って作ったと思……もういい。全くその神経の図太さ尊敬するわ」
「……どういたしまして?」
褒めてんじゃないわよ全く、と呆れた様に言った杏理からゆっくり離れ、その得物の正体を確認した。
「え____」
黒色だが光沢の無いそれはナイフとはまた違う恐怖感を覚え、頬を汗が流れて状況を着実に脳に認識させる。
杏理は離れた俺に再度“銃口”を向け言い放った。
「動くんじゃないわよ。撃ち殺されたいの?」
ナイフと刀、爆弾の次は銃かよ!! マジで俺は呪われてんのか!? 助けてくれ景ちゃん!!
口には出していないが、強く助けを求めると階段の下から人の気配を感じた。
助かった! 景ちゃんに俺の心からの叫びが届いたのか____
「あぁーー!! 透何やっとるんじゃ!! 儂がおらぬ間に面白いことになってあるではないか!! 何があってそうなった! 過程を言うのじゃ過程を!」
学校を散策し終えて帰って来た姫は地団駄を踏み訴えかける。
いやお前他人に見えないんだから今言えるわけないだろ。こんな銃突き付けられてる状態で誰もいない空間に向かって唐突に一部始終を説明し出したらいよいよ間違いなく変人扱いされるだろ。
●
「雨上……アンタあの先輩の妹と付き合い始めたらしいじゃない」
「そうだけどあれ? 心から何か聞いてないのか?」
「……なにがよ」
なるほど、どうやら杏理は心から俺が付き合っているフリをしているのを聞いていないらしい。ここは正直に説明した方が良さそうだがその前に……、
「杏理一つ聞いていいか?」
「なによ」
相変わらず自分に向けられたままのハンドガンが視界映り込み、動悸を激しくさせるが呼吸を整え聞いてみた。
「その銃にたい焼き……、もしかしなくても昨日俺の買ったたい焼きを吹き飛ばしたのって……」
「今更過ぎない? 私しかいないでしょ」
やっぱりお前かい!!
「俺あのたい焼き尻尾しか食べられなかったんだぞ!?」
「だから作って来てあげたじゃない」
「……このたい焼きはお詫び的なやつだったのか?」
なんだ杏理も流石に悪いと思ってくれてたのか。
「違うに決まってんじゃない」
どうやら違うらしい。
「アンタ言ってたわよね? 私のお弁当作る練習に手伝ってくれるって、なのになんでアンタ付き合い出しちゃうのよ。どうせ恋人とお昼食べるとかお弁当作って貰うとかでどっか行っちゃうでしょ。約束したくせに……」
「いやそんなことしないってちゃんと協力するし」
「嘘。アンタだけどうせ彼女とラブラブになるんでしょ! 他にもあれよ……い、イチャイチャしたりとか!」
「しないしない! てか描写がふわふわし過ぎだわ! 今時小学生でももっと具体的に言えるぞ! 思春期かっての!」
「う、うるさいわよ!! 何よアンタもプレゼントされたやつかチョーカー着けて! まるで犬の首輪みたいじゃないデレデレしちゃって!! ていうか銃向けられてて冷静過ぎないアンタ!?」
「チョーカーはあれ……深い事情があんだよ。冷静なのもあれ……深い事情があんだよ……」
「深い事情しかないじゃない」
し、仕方ないだろ。マジで深い事情しかないんだから……。
まさか既に色んな女子に襲われているから慣れてるとか、首に付いている物が爆弾だと言っても信じてくれないだろう。はてさてどうしたものか。
答えが見つからないまま、ひとまず話題を変える為に行動した。
「杏理は結局どうしたいんだ……? 俺を撃つ気か?」
そんな俺の言葉に杏理は銃口を向けたまま考える様に目を閉じ、やがて銃を下ろしゆっくり口を開いた。
「……別にどうもしないわよ。雨上が約束を破るかもと思ってムカついただけだから……」
「そ、そうなのか。でも約束はちゃんと守るぞ。杏理が心に向き合えるように応援しているし」
「……本当?」
「信じろよ。こう見えても俺は友達を大事にする奴だからさ」
「ふ、ふーんそっか、友達なんだ私達……あ、ありがとね透」
なんだなんか言ったか? と小さく声を発した杏理に聞こえず、なんと言ったか聞き返してみたが、
「うっさい。こっち見んな……」
「え、何その理不尽」
顔を背ける杏理だが、おそらく照れているのだろう。耳までを真っ赤なのを見れば分かる。
心とのことでも考えて恥ずかしくなったのだろう。全くこれだからツンデレは可愛くてしょうがない。益々応援したくなるじゃないか。
「じゃあ杏理さ、一般人が銃なんか持ってるわけないんだ。お前の正体を教えてもらえないか?」
「……なら明日私の家に来て」
「家に?」
「明日からゴールデンウィークでしょ? 一日くらい彼女じゃなくて私に予定空けなさいよ。料理練習の味見もして欲しいから来なさい。そこで私の事話すから……と、友達のお願いよ聞いてくれるんでしょ?」
ゴールデンウィーク、特に予定は入ってない。それに特に断る理由はない。心と杏理のことを考えれば選択肢は決まっている。
「おうもちろん良いぞ。明日何時くらいに行けばいい?」
「朝」
「え? 朝に杏理の家に行けばいいのか?」
「違うわよ。駅で待ち合わせしましょう。そこから私の家に案内するわよ」
「あーなるほどそういうことか」
一人納得していると鐘の音が鳴る。気がつけば昼休みが終わってしまったようだ。
正直、たい焼き一つじゃ空腹のままだが、そんなことよりも杏理に友達と呼んでもらえて、更には明日の約束をしたのが無茶苦茶嬉しい。物理的により気持ち的に満たされた。
「じゃあ戻るか授業サボるわけにはいかないしな」
「……あ、あのさ嫌だった? 嫌なら断ってもいいけど……」
「いや無茶苦茶嬉しいぞ。杏理の料理美味いしな、練習いらないだろって思うレベルだぞマジで」
「そ、そう? なら良かったわ。べ、別に雨上に褒められたって全然嬉しくないんだからねっ!? 私は心に褒められたいんだから!」
「知ってるよ。俺も微力ながら手伝うから頑張ろうぜ」
うん、と優しい笑顔を見せる杏理。その笑顔があまりにも眩しくて俺も釣られて笑みを溢してしまう。
いきなりのツンデレだったが、可愛いなおい。
色々なことがあり過ぎてもはや銃じゃ動じない俺はなかなかおかしいだろう。でもとりあえずは今日景ちゃん達に相談すること、それと明日の杏理の料理が楽しみだ。
「じゃ、私は先戻ってるわ! 雨上も早く来なさいよね!」
鼻歌を歌いながら杏理は廊下を走り去って行く。ニコニコその後ろ姿を見届けると、横にいる姫にようやく声をかける。
「遅くなったな姫、過程を話すんだっけか。悪いけどもう授業だから後で良いか?」
「……」
「姫?」
声をかけたが返事の無かった姫は顎に手を置き考えながら言った。
「まーなんじゃ、少し考え方をしておったのじゃ。と言ってももう決まった事なのじゃが」
「なんだよその含みのある言い方は」
「ふっふっふ! まあ楽しみにしておるのじゃ透! 時期に儂の凄さに驚く事になるじゃろう!!」
「あっそ」
「冷たい!! 反応が冷たいのじゃ透!! 儂は寂しいと死んでしまうのじゃもっとかまってくれぬと嫌なのじゃ!!」
めんどくさコイツ。
こうして昼を終え、あっという間に景ちゃんとの約束の放課後を迎えたのだった。




