第40話 お人好しな透とたい焼き
ナイフを回避し、教室まで向かった俺だが、今現在近くに姫はいない。アイツは俺が靴を履き替えるや否や、
『おーここか学校か! 初めて来たのじゃ! 透よ儂は少し散策してくるからの! 儂がいない間に面白い事をせぬようにな!』
では行ってくるのじゃ、と言って姫は小走りで廊下を進んであっさりと姿を消した。
こうして俺は一人で教室へと着いたのだが、
「「あ」」
教室に入ろうとすると今最も会いたくない奴と遭遇してしまった。と言ってもコイツとは同じクラスなので嫌でも会ってしまうわけなのだが。
「お、おはようとー君」
「……おはよう真白」
さっきの罠を仕掛けたであろう真白と早速遭遇したので聞いてみる事にした。
「あのさ真白に言いたいことあんだけど」
「待ってとー君!? 仕掛けといてなんだけどまず私の話を聞いて欲しいの!」
「……良いよ。言ってみ」
あまりにも必死に頼む姿にため息を溢す。
仕方ない、とりあえず話を聞いてみる事にするか。
「確かに乱華ちゃんのことでムカついたのは本当だよ? 事実殺すつもりで仕掛けたし……」
「いやそれは分かる。今までで一番殺意を感じたわ。避けたから良いけど」
見てみこれ、と頬を指で刺し見せつける様に続ける。
「ザックリいったわ。無茶苦茶痛かったわ」
「絆創膏持ってたんだ……。でも消毒とかした?」
「罠仕掛けた本人が心配するとか、なかなか常軌を逸してるな」
「茶化さないで」
いや茶化してないからね? 割とマジで。
時間がなかったからとりあえず絆創膏で済ませただけだしな。保健室行く余裕なかったし。
でもどうやら俺を殺そうとしてる程怒っていると思ったがどうやら状況が変わっているらしい。事実先程から真白が凄く申し訳なさそうにしているのだ。多分これは良い方に話が進んでいるかもしれない。
そんな考えをしていると真白はゆっくりと口を開いた。
「心から聞いたよ乱華ちゃんと付き合ってるの演技なんでしょ?」
「え、あ、おう。そうだよ」
「ん? なんか反応悪くない?」
「き、気のせいだろ」
ふーんそっか……、と少し怪しむそぶりを見せたがそのまま会話が進む。
「……ストーカー対策なんだよね? 本当にとー君ってお人好しだよね。ほっとけば良いのに」
「そ、そういうわけにはいかないだろ。後輩が困ってんだからさ」
「いうてそんな乱華ちゃんと仲良かったっけ?」
「……まーそれなりだったんじゃないか?」
「ふーんそうなんだ」
嘘である。今も昔も嫌われている。
あの姉大好きな妹には困ったもんだ。チョーカー型爆弾まで付けやがって俺のことどんだけ嫌いなんだか……。
ハァ、と乱華のことを考えていると気が付けば目の前で真白が黙っていた。
「……」
「どうした真白? そろそろ時間も時間だから席に着きたいんだけど?」
時間が迫り良い加減教室に入ろうか、黙り続ける真白に提案すると、
「私、とー君のそのお人好しなところ本当嫌い……」
「はぁ? なんだよいきなり」
迫り来る時間で余裕もないというのに、いきなりディスられた事で思わず苛立ちが露わになるが、見ると真白も怒っている様に見えた。
「覚えてるとー君? なんで私ととー君がまともに話さなくなったか」
「……いや思春期的なやつかと」
「____ッ!!? とー君はまたそうやっていつも!!」
俺のその言葉をキッカケに表情が変わる。それは明らかに今までの殺意とは違く、ただ純粋に真白は怒っていた。
だがそんな怒りは俺にぶつかる事なく、突如隣から聞こえた声に止められる。
「おーい何やってんだお前らさっさと教室入れー。遅刻にすんぞー?」
「……ゆかりちゃん」
「紫先生だ。雨上も琴凪もこんなとこで痴話喧嘩すんなよ」
時間がだいぶ経ったらしく、教室までやってきた担任のゆかりちゃんから声がかかった。
明らかに怒っていた真白も先生の登場に少し冷静さを取り戻したらしく。
「別に痴話喧嘩なんかしてません」
そう言って教室へ戻ろうとする真白だが、その顔は凄く悲しそうで、気にしなければ良いものを俺は真白に声をかけた。
「真白!」
「……なに」
「……放課後俺に着いて来てくれ。話がある」
「……分かった」
素っ気ない返事ではあるが、一応反応してくれた真白は教室の中へ去って行く。
天先輩と決闘した時、既に真白は一緒に居たから今更内緒にする必要もないだろう。乱華との事を景ちゃんと真白に話す事にしよう。
というかこれ以上自分だけで抱えるには色々と辛過ぎる。
あの神様は役に立たないし……。
「なー雨上?」
隣にいて気を遣い黙っていたゆかりちゃんだが、真白が去ったことでようやく俺に話しかけて来た。
凄い意地の悪そうな顔をして、
「なんだお前告白でもするのか雨上ー?」
「しませんよ……ってゆかりちゃんその顔辞めてくれない? 教育者がしていい顔じゃないでしょ」
「気にしないでいいからいいから! で? 一体何があったんだ? お姉さんに言ってみろ雨上ー!」
ゆかりちゃんウザ絡み辞めてくれよ……。
◆
午前中の授業を乗り越え、昼の時間になると、いつも通り自販機のある階段へと向かう。
するとそこにお弁当袋を持った杏理が待っていた。
「あ、雨上」
「おう杏理。ミルクティーでいいか?」
「え、うん。ありがといつも」
気にすんな、と財布から小銭を取り出してミルクティーとココアを買う。
「ほら杏理」
「ありがとう」
ミルクティーを受け取ると、キャップを外し一口飲んでホッコリしている杏理の持っている弁当袋を指差し聞いてみた。
「今日のお昼はそれか?」
「え? えぇそう今日のは自信作なのよ。お腹空いたの?」
「無茶苦茶腹減った」
分かったわよ、と笑みを溢し嬉しそうな杏理は弁当袋の中身をコチラに手渡した。
「はい早く食べて」
「え、これ昼飯か?」
「そうよ。嫌だったかしら?」
「あ、いや……嫌ではないんだけれど」
何を躊躇っているのか。それは自分が手渡された物のせいだとしか言えない。
それは弁当箱に入っているわけではなく、茶色くて香ばしく、明らかに美味しそうにしていて、見覚えのある魚のフォルムが特徴の……、
「何故に”たい焼き”?」
そう。見るからに美味そうではあるが、それは誰がどう見たって“たい焼き”なのである。
「嘘……どうして昼飯にたい焼き? デザートではなくて?」
「頑張って作ったから食べてくれると嬉しいわね……」
「え、作った!? むっちゃ完成度高いけど!? たい焼きって個人で作れるもんなの!?」
でも何故にたい焼き……。




