第26話 今日の放課後、命の危機
「よーしじゃあ連絡事項もないしこれで終わりな、みんな気をつけて帰れよー」
やる気のない態度で話を終え紫先生は教室を去っていく。帰りのホームが終了すると皆続々と席を立ち、帰り支度を始めだす。
待ちに待った放課後、俺は呼び出された屋上に向かおうと席を立った。すると、
「透一緒に帰ろー!」
いつも通り心が俺の席まで寄ってくる。けれど今回に関してはタイミング悪いな心、今日は運悪く用事があるのだ。
「おう心、あー悪いな今日も一緒に帰れそうにないわ」
「……またなの?」
「悪いな心用事がな?」
「……」
断ると心の雰囲気が変わり、周りの空気が一瞬で数度下がったような錯覚を覚える。それが何故かいつも病みモードと違うような気がしたのだ。
「____と思ったけどやっぱ帰るか一緒に!」
「え、本当に!? 嘘じゃないよね!?」
「嘘じゃないぞ。俺が心に嘘ついたことあるか?」
「ない!」
この信用である。そこで突如聞こえる心の背後からの声、
「良かったね心ちゃん一緒に帰れて。とー君は必ず約束守る人だからねー」
「うん! 真白ちゃんが言った通りにお願いしたおかげだよ! ありがと!」
真白の言った通りとはどういう事だ?
「いいんだよ心ちゃん。私はとー君の後ろで大人しくしてただけだよ。ねぇ? とー君?」
「お、おう。そうだな……」
確信した。さっきの嫌な気配はコイツだわ。心が寂しそうな顔していたのと、俺が嘘ばっかりついているって言ったから早速行動に移してきたんだわ。恐ろしいな真白……それにしても、
「なぁ真白さん?」
「どうしたのとー君?」
「当たってんだけど……」
何か背中に硬い何かが……、それもきっと鋭利そうなやつな気が……。
すると真白は俺の耳元でソッと一言____
「当ててんのよ♡」
いや待ってそれ使い方間違えてるわ。全然ときめかないわ……。
「というか真白さん? 君さ心のことで色々言ってきたり、殺ろうとしてきたりするけどさ……」
「その”やろう”ってのが私にはなんのことだか分からないけど、それがどうしたのかな?」
「いやさ、いくら心のこと思っての事でも俺にそんな近づかない方がいいぞ」
なんで? と真白が言おうとした時、目の前の心と目が合ったらしく、それを見て真白もようやく理解したようだ。
「ふーん、二人とも本当にかなり仲良くなったよねー。いや良いと思うよ? 幼馴染だし仲悪いよりは全然良いと思うよ? でもなんだか距離近くないかな? 僕あんまりそういうの気にしないけどクラスの皆は違うんじゃないかな。そういうので二人の“良くない噂”とか出たら駄目なんじゃないかな?」
「う、うん。分かったよ心ちゃん……」
「真白ちゃんが透のこと別に何とも思ってないのは知ってるよ? でもさ誤解っていうのはいつ何処で生まれるかなんて誰にも分からないんだよね。そういう経験って誰にでも少なからずあるじゃない? 真白ちゃん可愛いんだからもっと自分を大切にしないと____」
とりあえずさ、と真顔の心は一呼吸入れる。まぁ長々と言っているけど何が言いたいのか俺には分かるぞ心。
「透から離れてくれないかな真白ちゃん?」
「あ、はい……」
俺はこの日、普段からニコニコ笑顔を絶えさない真白から笑みが消え、本気でドン引きしていたのを一瞬忘れない。
◆
一先ず心と帰る約束を済ませた俺は校舎を歩き約束の屋上へ向かっていると、またしてもこういう日に限って妨害してくる輩が一人、
「やあ雨上君まだ居てくれて助かったよ。実は折り入って話があるのだけれどね」
そんなタイミングで昨夜の決闘相手、”完璧超人”東鐘先輩と遭遇してしまったようだ。
俺はラブレターのこともあるが、正直昨日の今日でこの人と関わり合いたくなかったのでハッキリ告げることにした。
「あ、いや用事あるんで無理ですね。また後日で良いですか?」
うん、模範的な対応だ。昨日刀で斬りつけてきた相手にかなり大人な対応ができたな俺、偉いぞ俺。
「そうか用事か……分かった。なら明日は如何だろうか?」
「明日も無理ですね」
「明日もかい? じゃあ明後日はどうかな?」
「明後日も無理ですね」
「じゃあ明々後日……」
「明々後日も無理ですね」
「……いつなら良いかな?」
「先輩の卒業した後ですかね。なんだったらもう一生会いたくなかったです」
「くうぅぅッ!」
俺の一言を受けて傷ついたかと思いきや、頬を赤く染め明らかに善がっている。いやまぁ素直に思うわ。
「きっしょ」
「〜〜ッ! そ、その言葉は大体の一般高校生には暴力と同じだよ……。流石私が認めたご主人様だ……最高だよ」
「あーはいはいそうで……」
え、ちょっと待って? 今先輩なんか変なこと言ってなかった?
「先輩質問いいですか?」
「先輩? 水臭い|あんなこと“尻を叩いたり踏んだり”までした仲じゃないか。親しみを込めて私のことは”雌豚”と呼んでくれ」
「どの辺が親しみ?」
「もしくは”天”と呼んでくれないか? 妥協案だけれどね」
皆の憧れの先輩を名前で呼ぶとかこれはある意味究極の二択では?
ふとスマホを確認すると地味に時間が経っていた。そろそろ屋上に向かわないといけないな。
俺は即座にこの場を離れる案を考え出した。
「そ、天さんとりあえず後日話聞きますから行っていいですか? トイレにも行きたくて……」
「ん? ……あーなるほど分かったよ。漏れたら困るだろうしね」
「あ、ありがとうございます。じゃあまた……」
先輩との話を切り抜けた俺は近くのトイレに駆け込み扉を閉めて便座へ座る。もちろん用を足す訳ではない。こうしてトイレに籠っていればあんなのでも女子の先輩は離れていくだろう。屋上で待つ子には悪いが恐らくこれが最適解だろう。
そうして自分の見事な作戦に内心自画自賛していると、
「____え?」
何に驚いているか、それはシンプルにトイレの扉の隙間から突如現れた“ある物”を見たからだ。
見覚えのある美しい刃紋、どんな物でも両断する絶対の切れ味、昨日嫌って程に見た。
その”刀”はスゥーーっと、まるで紙でも切るようにトイレの鍵を両断し、ゆっくりと隙間に消え静かに扉が開く。
そしてそこにはしゃがんでモジモジと恥ずかしそうにする天先輩が、
「ご主人様は凄いな……。まさか早速こんなプレイをするなんて……少し恥ずかしいけど頑張ろう。さあ私はいつでも良いよ始めようか」
「……な、何をですか?」
俺は恐る恐る聞いてみると、先輩はハッキリ答えた。
「何って____飲尿だろ?」
「この雌豚が十八禁にする気かボケがぁぁぁぁ!!! 蹴っ飛ばしてやるから尻出せやおらぁぁぁぁ!!」
俺の怒りは限界を超えた。




