第21話 私の先輩に抱き着いてなにコイツ本当にあざとい
「もー遅いですよ先輩!」
「ごめんな景ちゃん? 心にバレないようにアパート出るのに苦戦してさ」
「む、それなら仕方ないですね。それに全然待ってないですよ! 今来たところです!」
「今遅いって言ってなかった?」
時間は二十時過ぎ、いつもの通学路を通って星空高校へと辿り着いた。
普段と違う街灯に照らされた道は少し神秘的に思え、いつもと違うことをしているという事でついテンションが上がってしまう。
と言っても今回こんな時間に学校に来たのは果たし状の所為なわけだが、
「さてどうする景ちゃん? もう行くか?」
「それよりちょっといいですか?」
そして一言、
「本当に来たんですね琴凪先輩」
「なに? 来ちゃ悪いのかな?」
はい来ちゃ悪いです、とハッキリと言い切る景ちゃんを俺は宥める。
俺の周りの女子達は何でこんな仲が悪いのか、本当に困ったもんだ。やれやれだぜ。
「とー君は私が狙っているの。何処の馬の骨か知らない奴に始末されたら嫌だから」
「だから付いて来ると?」
そう、と景ちゃんに素っ気なく言う真白は更に言葉を続け火に油を注ぐ。
「頑丈馬鹿な後輩は信用できないから」
「あっ? 聞こえなかったですなんて言いました?」
「身体が頑丈なだけで耳遠いなんて本当に残念岩女だよね。ねーとー君?」
「え、俺に振らないでくれない?」
「~~ッ!! むーーー!! 先輩ムカつく! この女ムカつく!!」
はいはい落ち着いてね景ちゃん可哀そうに可哀そうにねーよしよし。って、というか景ちゃん? 真白はもちろんだけど心とも会ってないのに険悪じゃなかった?
君俺以外に友達いる? 先輩心配だよ君の交友関係がさ……
「先輩!! 私手出さないように頑張りましたよ!? 偉い? 私偉いです?」
「おう偉いぞ景ちゃん」
擦り寄ってくる景ちゃんの頭についつい手を乗せ撫でると嬉しそうに目を細める。
なんだこれ犬かな? でもなんだろうこの懐かしい様な感じは……。
と、我に返ると横からの痛い視線が、
「……」
そこには真顔でコチラを見つめる真白の姿があった。恐る恐る俺は聞いてみる。
「ど、どうした真白?」
「……いや別に」
「おうそうか……」
「……」
真白の反応はなんか悪い。怒っているというよりは何か考えている様なそんな表情に見える。
どうしたのだろうか?
「……そろそろ行こうよ。武道場だよね?」
「お、おうそうだな」
そう言ってようやく俺達は夜中の学校に侵入した。
◆
「なんかワクワクしますね夜の学校って!」
「ワクワクはしないけど確かに普段じゃ絶対来ないから新鮮だよな」
「ですよね?」
俺と真白より三歩先を歩き、周りを眺めながら前に進む景ちゃんはとても嬉しそうだ。
その反面後ろの真白といえば、
「うー……うー……」
なぜか唸っている。それも俺の服の袖を摘んでだ。
しかもしっかりナイフを構えている。なんだったらまるで御守りの様に握りしめて、プロの暗殺者らしくない隙だらけの持ち方で震えている。って、
「いやガクブルじゃん!」
「ぴゃっ!? なにいきなり!? とー君驚かさないでよ殺すよ!?」
「それは困る」
てか『ぴゃっ』って何? 面白過ぎんだろ。
そこで背後にいた俺達の会話に気付いた景ちゃんが意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「あれれーもしかして琴凪先輩怖いんですかー? 暗殺者なのにー? うーわ雑魚。この女本当に雑魚暗殺者」
「言い過ぎだ景ちゃん。てか景ちゃん俺以外には結構口悪くね?」
「そんなことないですよ。私は嫌いな奴にならとんでもなく嫌なことを”言う”のも”やる”のもできるだけですよ」
「それ一番敵に回しちゃいけない奴じゃん……」
「基本は無害で大人しくて可愛い生き物ですよ♡」
そんな言葉を平然と言う奴を信用できるか? いいやできないよ景ちゃん?
呆れる俺を気にすることなくニコニコ顔の景ちゃんだが、真白はそんな景ちゃんに涙を浮かべて言い返す。
「……別に怖くないもん。ただ暗くて人気がなくてあまりにも静かで不気味な感じがする夜が好きじゃないだけだから」
「もう正直に怖いって言おうぜ真白? 聞いていて痛々しいよ……」
「どんだけ早口で言うんですか……ごめんなさい。私も言い過ぎました」
景ちゃんが謝った瞬間いきなり強風が吹き、その結果校舎内の何処かにある窓がガタついた。
すると____
「ぴゃぁぁぁぁ!!!!!」
「あーーー!!!」
悲鳴を上げて俺の腕に抱き着く真白を見て、その光景を見るや否や大声で叫ぶ景ちゃんは言葉を続ける。
「あざと! 私の先輩に抱き着いてなにコイツ本当にあざとい!!」
「それ景ちゃんが言う? あざとい化身なのに?」
「もう琴凪先輩なんの為に来たんですか!? ちょっとめんどうくさくなってきたんですけどー!? もう帰ってくださいよ割とマジで!!」
あ、景ちゃん心の声が漏れているぞ? いやでもこんなに困っている景ちゃんを見れるのも滅多に無いな。
記念に写真でも撮っておくか。
「ちょっと先輩なに写真撮っているんですか!? それといつまで抱き着いているんですか! 早く離れてください!!」
●
武道場に辿り着くと扉に手をかける。
中に誰もいないかのように見えた。が、暗闇の中で月の光に照らされて正座している何者かがおり、その者は瞳を閉じて精神統一をしていたが、俺達が来たのに気づくとゆっくり目を開いた。
「やあ遅かったね雨上君、待っていたよ今夜の月はとても綺麗だね」
「こんばんわ……東鐘先輩」
予想通りというか想定内というか、やはりそこにいたのは東鐘 天先輩が待っていた。
「じゃあ早速だけれどね____」
東鐘先輩はゆっくり立ち上がって自身の横に置いていた”刀”を持ち、鞘から抜き刃先を俺へと向けて言い放った。
「やり合おうか」
え、いや待って? えーと刃物はズルくね??




