第18話 料理の毒味役なの?俺?
翌日、心と共に学校に向かうと、早速というか作戦の成果と言うべきなのか。真白が俺の側までやってきた。
なにやらぎこちない笑顔ではあるが、今までにない行動だ。
「あ、あのさとー君」
「なんだ真白?」
「……おはよ」
おうおはよう、と挨拶を返すが少し頬の赤い真白が少し心配になり、
「なんか顔赤いけど大丈夫か真白」
「……別に赤くないよ」
「本当か? あんま無理するなよ?」
……うん、ありがとね、と答える真白だが、更にその顔が赤く染まる。
そんな姿に思わず笑みを溢した瞬間、俺の右足に強烈な痛みが走った。
横を見るとそこには真顔の心が俺の足を踏みながら、俺の表情を覗き込むようにして立っている。
俺は恐る恐る声をかけた。
「ど、どうしたんだ心……痛いんだけど」
「……あ、ごめん間違えてた。僕ったらドジだね」
「どう考えてもわざとだろ」
「親友の僕が言ってる事なのに信じてくれないの?」
喧しいわ。
「二人共あれ呼び方戻ったんだね。もう何年も二人仲悪そうだったから良かったよ」
「仲悪かった訳じゃないよ心ちゃん。とー君が思春期的なので照れ臭かったみたいなんだよ」
「俺が原因だったっけか? ……まあいいや。それで心はなんで俺の足踏んでんだよ」
現在も変わらず俺の足を踏み続ける心に聞いてみる。すると心は悪びれもせずケロッとした顔で言い切った。
「なんかムカついたから」
「何その理不尽……」
「……」
全く相変わらずうちの親友は嫉妬深いな。
呆れてため息を溢すと真白が俺の耳元に近付き静かに囁く。
なんだろう。やはり真白もだが言動は怖いが見た目だけなら美少女。こう近寄られると少なからずドキドキしてしまう。
「……とー君のことを狙うのは辞めるつもりはないから、背中には気をつけてよね」
「……マジですか」
別の意味でドキドキするわ。
と言っても誰にも気付かれず首にナイフを添えられ、笑顔を向けてくる真白からは今までとは違い明らかな敵意が感じられない。
ひとまず作戦は上手くいったようだが、まだまだ油断はできないな。
「なんか二人共仲良くなり過ぎじゃない? ……透鼻の下伸びてるし、女なら誰でも良いんだぁ? ふーん」
なんだか隣で心がハイライトを失った真っ黒な目をしているけど、何をどう見たら俺の鼻の下が伸びてることになるのだろう。
いくら美少女が近くにいるとはいえナイフの所為で冷や汗しか出てこない。
とりあえず怖いからナイフは退かしてくれない?
◆
「さて何を買おうか」
昼休みになってお弁当を用意してくれていた景ちゃんと昼飯を取るため教室を出たが、そのタイミングで景ちゃんから、
【飲み物を忘れちゃいました……先輩ごめんなさい】
そんなメッセージを受け取った俺はいつもお弁当を作ってくれる景ちゃんに御礼の意味も含めて学校内に設置された自動販売機までやって来た。
すると、いくつかのペットボトルのゴミが捨てられずに落ちており、俺はそれを呆れて片付けることにした。
「全く誰だよ一体……」
そうしてゴミの片付けを済ませ、自販の前に立って悩んでいると横から声が響く。それは見覚えのある金髪ツインテールの女子生徒。
「あら雨上じゃない。アンタも飲み物買いに来たの?」
「ん? あ〜杏理か」
昼飯のドリンク用にな、と隣まで来た杏理にそう答え、
「何が飲みたい? よかったら買うぞ」
「いいの? じゃ前回と同じやつかしらね」
「あいよ」
俺はミルクティーのボタンを押し、出てきた物を杏理へと渡す。
ありがと、と受け取り礼を言った杏理は一口飲むと俺向け首を傾げて言った。
「雨上は何にしたの?」
「俺はココア」
「あ〜ココアも良いわね。って前もこんなこと言った気がするわね」
そう言って微笑む杏理は金髪碧眼という日本人にない姿もあってとても魅力的に見え、自分の顔が赤くなるのが感じられた。
杏理はそんな俺の変化に気付き、
「どうしたのよ雨上大丈夫?」
「ん? あ、あぁ大丈夫だよ大丈夫……」
「ふーんそう。あ、そうよ雨上いつも写真ありがとね!」
「中学の頃の心の写真もあるけどいるか?」
「欲しい!」
この喜びようである。こう素直に喜ばれると嫌な想いはしない。
「ほら送ったぞ」
「ありがと、どれどれ……きゃー! この頃の心太郎は幼い感じがあって可愛いわねー!」
「だろ? さすが俺の親友だよ」
「こんなに色々写真持っててアンタ心太郎のこと好きよね」
「あぁ好きだよ。本当に大切な親友だからな」
……そう、と杏理は自身のスマホで心太郎の写真を眺めていると、そっと静かに語り出した。
「……アンタは受け入れるの早いわね」
言いたいのはきっと心のことだろう。やはり杏理は受け入れてはいないらしい。
「アンタだけじゃないわ皆よ。姉妹だって真白だってなんであんな普通に接する事ができるのかしら……」
杏理のそう思う気持ちも分からなくないが、たった数日で皆が皆納得してるとは思えない。でも____
「アイツは変わらない。性別が変わっても心は誰にでも親切で凄く優しいからな、それは杏理も分かるだろ?」
「……うん」
「杏理も皆も慣れるまでどうしても時間が掛かるさ、ゆっくりでいいから心と仲良くなって欲しいなって俺は親友として思う」
そっか、と小さく返事をした杏理は俯いている。表情は見えない。
杏理には少し酷だったろうか。真白と違い杏理は相当心のことで悩んでいる。
これから仲良くなってくれるのを祈る限りなのだが、
「ねぇ雨上お願いがあるんだけど」
「ん、どうした?」
「いやね私料理の練習してるのね? それで明日からアンタにお弁当作ってくるから食べてよ」
何故に俺が? そう答えると杏理は言う。
「私の料理をいつか“心”に食べて欲しいのよ。アンタの親友のことなのよ? 手伝ってくれても良いじゃない」
「いや食べさせてもらえるなら俺は嬉しいけど良いのか?」
「私が良いって言ってるんだから良いのよ。じゃ明日から楽しみにしてなさいよね! あとミルクティーありがと」
そう言って杏理は去って行く。
ありがたいな、毎度毎度景ちゃんに昼飯を貰ってて悪い気がしていたところだ。
とりあえずしばらくお弁当は要らない、と伝え景ちゃんにメッセージを送ると、一瞬で既読が付き返事が送られてきた。
【なんでですか? 私のご飯飽きちゃいました? 私とご飯食べるの楽しくないですか? 何処いますか先輩お話ししたいです。電話しても良いですか? 返事して欲しいです。先輩私のこと嫌いになっちゃいました?】
「……うっわ」
俺はそっと静かにスマホをポケットに戻した。
景ちゃん……ヤンデレは心の分野なのよ……。




