第14話 先輩成分とは??
「悪い子ですね先輩……勝手に女の子の部屋に入るなんて」
笑ってはいるけれど、どことなく怪しい笑みを見せる景ちゃんは一歩、また一歩と前へ出る。
俺はその行動毎に一歩ずつ後ろに下がる。
すると景ちゃんは困った顔をして言う。
「なんで逃げるんですか先輩?」
「あ、いやこれは違う。逃げてるんじゃなくて後ろに進んでんだよ」
「先輩ってよく分からない言い訳しますよね。ま、そんなところも好きなんですけど」
「お、おう。そうか……」
心からも好きと言われていたが、なんだろう。やはりハッキリと好意を伝えられるのは少し照れくさいな……って、そんな状況じゃない!
そう何か行動しようと思った時だった。
「あっ」
後退りしていると何かが足に当たり、そのままよろけて重力に従い身体が柔らかい物の上へと落ちる。
この体を包む柔らかな温もりは____
「なんだベッドか、ビックリした」
良い香りのするベッドを堪能する暇もなく、すかさず景ちゃんは倒れた俺の上に乗っかり動けないよう拘束した。
「やっと捕まえました♡」
可愛くは言っているが第三者から見れば肉食動物に襲われた可哀想な獲物である。
とりあえずこんな時はこの言葉だろう。
「い、命だけは助けてください」
「先輩は私のことなんだと思っているんですか」
え、人の皮を被った狼と思ったわ。
●
あれから三十分、何をされるわけでもなくただ拘束された俺は呆然と見慣れない天井を眺めていた。
あ、いや何かされていたわ。物理的に手を出されたわけじゃないが、
「フー……フー……」
景ちゃんは俺の服、箇所で言うと胸の部位にずっと顔を埋め呼吸している。
さてとりあえず声をかけてみようか。
「あの〜? 景ちゃん?」
「|ふぁい。わんでふはふぇんはい?《はい。なんですか先輩?》」
あ、顔を埋めるだけじゃないわ。俺の服バリバリ咥えてるじゃん。
「じゃなくて、えっとさ? 服が汚れる……てか、汚れてるから離してもらっていいか? 何処にも逃げないから」
「むむむ、ひははありまへんね」
「なんて?」
さっきのシリアスな空気もあっという間に吹き飛び景ちゃんの可愛さ全開である。
ようやく俺の服を離した景ちゃんは相変わらず俺に乗っかったまま、
「先輩成分も補給しましたし、どれどれ話を聞きましょうか」
話を聞く姿勢ではないのだが? と言いたいがそれを飲み込み聞いてみる。
「この部屋は一体なんだ景ちゃん」
「聞かないと分かりませんか? 私の知ってる先輩ならこの状況見て分かると思うんですけど?」
「……いやまあ分かるけど……景ちゃんってあれなのか?」
その後の言葉を続けて言った。
「ストーカーって奴なのか?」
「そんな言い方しないでください! 私はただ先輩のことが大好き過ぎて先輩の行動が気になり過ぎちゃうだけです!」
「お、そうか……」
「先輩今何やってるかな? とか家まで見に行ったり、望遠鏡で確認したりしたいだけなんです」
「あれ待って? 色々おかしい気がする」
「これも大好きだからです」
「大好きって言ったら何でも許されるとか無いからな?」
よく見てみると、部屋の壁に貼られた写真には家のベッドで寝ている俺の写真がある。
景ちゃんもしかしなくても不法侵入しているな? それに待って今さ望遠鏡って言った?
ヤバいなこの後輩……
あまりのストーカーレベルに驚いていると景ちゃんは語りだす。
「先輩は覚えていますか? 私達昔会ったことあるんですよ?」
「え、そうなのか?」
「そうですよ? 一緒に遊んだりしましたし」
「悪い……全然覚えてない」
「気にしてないですよ。それに先輩のおかげで私は研究所を離れることができたんです。だから先輩は私の全てなんです」
そして、
「先輩は何としても助けます。先輩を始末するなんて私が許しません。……先輩は死にませんよ? 私が守りますから」
「そんな思い出したかのようにアニメネタをぶっ込まないでくれないか?」
景ちゃんのネタのレパートリーに驚いていると、俺はとあることを思い出し景ちゃんに告げる。
「ところで景ちゃん?」
「なんですか?」
「お腹空いて死にそうだから夕飯食べながら話をしよう」
◆
「先輩出来ましたよ! はいあーん」
「いらんいらん。自分で食えるから」
「む、釣れないですね。反抗期かな?」
「喧しいわ」
ホットプレートで焼かれたお好み焼きを貰い、東鐘先輩に斬られかなり量が減っていたソースの残っていた分を入れたタッパーからスプーンを使いソースをかける。
その後にマヨネーズをかけ、上に鰹節を乗せて完成。待ちに待ったお好み焼きである。
「ではいただきます!」
俺は一口サイズにお好み焼きを切り分け口へ運ぶ。
「く〜! 美味い!」
「それは良かったです」
「いや本当に美味しいぞ景ちゃん? 特にこの四角に切った山芋が良いアクセントになって____って待って?」
「どうしました先輩? ……もしかして美味しくなかったですか?」
そう悲しそうな表情になる景ちゃんに俺は答える。
「美味しいよビックリするくらいね? そこじゃなくて俺よくこんな呑気に飯食えるなってさ……、ここ数日で色々起こり過ぎて脳がバグってたわ。ストーカーが可愛く思えるくらいに」
「だからストーカーじゃありませんってば」
まだ言うか、と俺は景ちゃんの態度に呆れるが、すぐにとある袋を見せた。
「これはなんだ?」
「お箸ですね」
そう袋の中には箸が入っているのだが、俺はそんなことを聞いているのではない。
「俺はこの箸がなんで袋に入って飾ってあったか聞いているんだよ。この箸見覚えあるぞお弁当の時の箸だよな?」
カラフルな花の模様が描かれた橋の入った袋を見せ問い詰めると、景ちゃんはあっさりゲロった。
「先輩が使ったお箸を保存しているだけですよ!」
「汚い捨てろ」
「酷い!」
いや正論である。
「そういえば先輩使い終わったらそのお箸くださいね」
「……なんで?」
「保存しますので」
「そうか、じゃあ洗うわ」
「酷い!」
思わず呆れてしまう。心並みに……いや病んでない分コッチの方がまだマシだが景ちゃんからもかなりの好意を感じる。
好意を向けられるのは嬉しいが、色々拗らせ過ぎだろ。
最近は殺意ばっかりだったから新鮮ではあるけれど____
「そうだ!!」
「え!? どうした景ちゃんいきなり」
突如、景ちゃんは椅子から飛び上がると、俺の側までやってくると肩を掴み言い放った。
「先輩の好きなゲームみたいにやれば良いんですよ!」
「なにがだ?」
「だから琴凪先輩とかですよ! 始末されるくらいならやってしまいましょう! ”惚れさせましょう”先輩が口説き落とせば良いんですよゲームみたいに」
「ッ!?」
あまりの衝撃に言葉を失ってしまう。確かにいつまで続くか分からない状況を終わるまで待つよりも、賭けに出るのも良いかもしれない。
なら試しにやってみよう。俺のこのギャルゲー脳を使って____
こうして作戦が決まった。
「待ってこれバレたらマジで俺ヤバくない?」




