第13話 なんだこの部屋!?
「君は確か図書委員の……海野君?」
「はい。こんばんは生徒会長」
景ちゃんは真剣な面持ちで俺の前に立つと先輩を睨みつけた。
二人が睨みあっている姿を見て、こんな状況を景ちゃん一人に任せるわけにはいけないと立ち上がろうとするが、ガクンと足から力が抜けて立ち上がるどころかそのままよろけてしまった。
が、それを景ちゃんが受け止める。
「先輩そんな恰好で無理しちゃ駄目ですよ。おとなしくジッとしててください」
「ごめんな景ちゃんなんかうまく立てなくてさ……」
「……? もしかして先輩分かってないんですか?」
「どういうことだ?」
「……身体見てください。身体」
身体? と自分に目を向けると、
「うおっ!? なんだこれ傷だらけじゃん!」
そう、俺の身体には無数の切り傷が出来ていた。さらにスーパーで買った袋は破れ、中のソースは漏れている。
俺の目から涙が溢れた。
「避けてたと思ったのに……俺のソースが……お好み焼きが……」
「そっちですか? 全く、そもそも素人がそんな上手く避けれるわけないじゃないですか。先輩馬鹿ですか」
景ちゃん辛辣過ぎる……。
そう考えるとさっきまで『逃げに徹していればそうそう当たることはない』とか言っていた過去の自分を殴りにいきたい。ホント恥ずかしいぞこれ。
「あ、でも致命傷はうまく避けていますね。偉いです。頭撫でてあげます」
「景ちゃん!!」
「それもこれも反射神経鍛える為にナイフを投げてきてくれた琴凪先輩に感謝ですね」
いやそれはないだろ、わりとマジで。
「さて、とりあえず生徒会長どうしますか? このまま戦いますか? それとも帰ってもらえますか?」
そんな景ちゃんの問いに天先輩は何も言わず俺と景ちゃんを交互に見ると、小さなため息を漏らし、
「いやなんだ、私も雨上君に忠告をしに来ただけでね。少しカッとなってしまったがもう帰るとするよ。失礼したね」
「え……忠告どころか刀で斬ろうして来て____痛ッ!?」
「先輩は黙っててください」
「いきなり叩くのは酷いだろ景ちゃん!?」
俺が言おうとした言葉を止めるように後頭部を叩かれる。地味に傷つき疲労しきった身体にはなかなかキツイが、結局その後先輩はコチラに振り向くこともなく去っていった。
その後ろ姿はどこか寂しそうというか、我が親友は本当に凄く好かれていたんだなと、殺そうとしてくる琴凪や涙を流す杏理を思い出し改めて思った。そして、
これ東鐘後輩が知ったらどうなるのだろう……。考えただけで恐ろしいぞ……
◆
「痛い痛い……」
「先輩ジッとしててください」
もうちょっと優しくしてくれない? と傷のせいで湯舟に入らずシャワーで済ませた俺は景ちゃんに消毒してもらっているわけだが、結構痛い。
それを『我慢ですよ我慢』と景ちゃんは冷たく答える。そこで思ったことをつい口にしてしまう。
「景ちゃんさ、なんか機嫌悪くないか?」
「……いや別にそんなことないですよ。ただ先輩って人気者だなって思ってですね」
「殺されそうになってるのにどう見たら人気者なんだ!? てか痛い痛い絆創膏グリグリ押すな!」
「ふーん。痛いですかふーん」
頬を膨らまして突っついてくる景ちゃんはしばらく俺に攻撃をしていると、『さてと』と立ち上がり、
「じゃあ私もお風呂に入ってきますね。先輩は大人しくしててくださいね? 私がお風呂から出たら一緒に映画見ましょう」
と、景ちゃんはお風呂に入る準備をして、ササッと脱衣所へと入っていった。
残された俺はテレビのチャンネルを変えて色々な番組を見るが、どうにも先輩の言っていた言葉が気になってしまい、深く考える為にテレビの電源を切った。
『心君が女の子になったのは神様の所為ではあるけどね____君のせいでもあるんだよ』
確かに先輩はそう言っていたが、思い当たる節がない。それが本音だ。
「これは帰ってから心に聞いてみないとな____ってヤバいトイレ行きたくなってきた」
急な尿意を催しトイレに行こうと思ったが、そういえば場所を知らない。
ここは景ちゃんに聞いた方が良いか? いやでも風呂に入っている女性に聞くのは良くない。それに人の家、ましてや女の子の住む家の扉でいくらトイレを探すためとはいえ扉を開けまくるの色々駄目だろう。
運が良ければと軽く脱衣所の扉をノックするが返事はない。聞こえてくるのは景ちゃんの嬉しそうな鼻歌のみ。
「これはどうしたもんか……」
状況を見て、自分の身体と相談してもそんな待てる状態ではない。一刻も早い決断が必要だ。
風呂場に突入し『いや~悪い景ちゃん。トイレ行きたいんだけど教えてくれない? あ、それに産まれたままの姿の景ちゃんも可愛いぜっ』とまるで開けて聞くのが当たり前かのように、それでいてスタイリッシュにセクハラもする。男ならそれぐらい決めてもいいんじゃぁないか?
「……って駄目だろ俺」
そんなの俺が許しても世間が許さない。俺は許すけど。
ただでさえ親友に病む程愛されて、幼馴染や先輩に狙われているのにこれ以上敵を作るのは本当にヤバい。
でももう我慢は限界だった。俺は意を決し自分の運を信じて《《二つ》》の扉の取っ手に手を伸ばし、なんの躊躇いもなく扉を開けた。そしてその眼前の光景に笑みを溢した。
「……ふっ、勝った」
今の俺の運を例えるなら宝くじで一等を引けるだろう。それ程までに俺の感は冴えていた。
こうして俺は目の前に鎮座する白い陶器で作られた天使と出逢った。
●
「ふーなんとかなった……」
トイレを済ませると俺は右手で開けた扉を静かに閉めた。我ながら素晴らしい運だ。一応保険でもう一部屋開けたが杞憂だったな。
とりあえず閉めるか、と先程左手で開けた扉を閉めようとした時、
「ん? なんだこれ?」
と、その部屋の床になにやら手のひらサイズの物が転がっているのに気づき、俺は中に入ってそれを手に取った。
暗がりではあったがそれはどう見てもそれは”ぬいぐるみ”であった。
そのぬいぐるみが何やら気になった俺は、確認をしようと部屋の電気に手を伸ばした。
そして明るくなったその部屋を見て、俺は手に持ったぬいぐるみを床へ落とすことになった。
「……え」
壁一面に飾られた写真、保存パックに入れられ様々な物、大切に置かれた写真がプリントされた抱き枕、そしてとある特定の人物に似せて作られたぬいぐるみ。
そこには”俺”がいた。
壁には俺、”雨上 透”の写真で埋め尽くされていた。
そして背後から一声____
「あぁ~? 先輩見つけちゃったんですねぇ♡」
俺はあまりの恐怖で後ろから聞こえてきた声に振り向くことができなかった。




