第10話 タワーマンションだ!すごーい!
『……か、神様に女の子にしてもらったらしいです』
『……神様?』
『らしいですよ。アイツ自身嘘つくような奴じゃないですし、本当のことかと……』
『……なるほど、真実のようだね』
そして、
『すまないが私は急な用事があるから失礼するよ』
東鐘先輩は竹刀を喉元から離すと、俺への詫びも無く武道場を後にした。
あまりの呆気なさに緊張の糸が切れてしまい俺はその場に倒れ込む。何故先輩があんな行動したか分からぬまま、しばらくして俺は学校の授業を終え下校した。
もちろん心と一緒である。
「ねえ透聞いてる?」
「ん? あーごめん少し考え事しててな、もう一回教えてくれ」
「もーちゃんと聞いてよね。この後に真白ちゃんと一緒に買い物行く約束しててね? 透もどうかなって」
満面の笑みで心が言い放った言葉を聞き、俺は困惑しながら言い返す。
「? いや俺はこの後すぐ準備して友達の家に行くぞ? ……えっと、言ってたよな?」
「……そうなんだ。今日からしばらく会えないのに僕と一緒にいたくないんだ? ふーん?」
え、俺の親友マジでめんどくさいな。
と言いたいが、そんなこと言ったら更にめんどくさい事になる。だがここでメンヘラに優しくするのは選択肢としては間違いだろう。だから、
「会えないって言っても学校じゃ会うだろうが、友達は真剣に勉強したいんだよ我儘言わないでくれ」
「……もういい。真白ちゃんと一緒に楽しんでくるから」
そう言うと心はそっぽを向き膨れっ面になる。明らかに機嫌悪い態度なのにそんな姿でも可愛らしく見えるのは女子だからこそなのだろう。
相手がいくら元男とはいえども流石に可愛く思える。
心のそんな姿を見て微笑んでいると、制服の胸ポケットに入れていたスマホから連絡アプリ独自の通知音が鳴り、手に取り確認するとそこには”杏理”からのメッセージが来ていた。
【この時の心太郎かっこいい!!】
そんな何の脈絡もないメッセージと共に送られてきた画像には、何ヶ月か前に体育の授業でバスケをした時の心太郎の画像だった。
そこには汗をかき走る心太郎が写っており、親友の俺から見てもかっこよく見える。
俺はスマホの画像を遡り、昔スマホに移したとある画像を杏理に送った。
【これは子供の頃の心太郎の写真だ。其方に授けよう】
文章と共に送ったのは心太郎が小学生の頃、遠足に行った時の写真だ。喜んでくれると嬉しいが、
そう思っていると即座に既読になり、
【あ! ありがたき幸せ!! 雨上アンタ分かってるじゃない!】
顔文字付きで文章が送られてきた。良かった喜んでくれているようだ。
そんな平和なやりとりをしていると、心が俺のスマホを覗き込んできた。
「なに楽しそうにしてるの?」
「こらこら人のスマホ画面を勝手に見るな」
「見せられないものが映ってるの?」
「ちげーよ常識だろ常識、杏理からのメッセージが来たんだよ」
「杏理ちゃんから? ……え、ちょっと待って透って杏理ちゃんと仲良かったっけ?」
「……」
「おい」
いつの間にやら家に着いたが、いつまでも疑いの目を向けてくる心を無視して俺はソッと家の扉を閉めた。
この時の扉の隙間から見えた心の真っ黒な瞳は忘れられない。
◆
家に帰った後、支度を済ませ家を出た俺は景ちゃんの家へ向かっていた。
景ちゃんとはそれなりに付き合いは長いが彼女の家は知らない。
そこで連絡アプリで住所を教えてもらい、スマホを使って地図アプリで住所検索をして向かっているわけだが、
「……え、あれ?」
顔を上げて眼前の景色に目を向ける。
目線は斜め上、ずっと見ていると首を痛めてしまいそうな、そのあまりにも大きな建物に驚きを隠さずにいた。
「おいおい、マジで”ここ”なのかよ」
そこに見える大きな”タワーマンション”こそが景ちゃんから教えてもらった住所の場所であった。
一応着いたと思う、と震える指で曖昧なメッセージを送る。すると一瞬で既読になった。
【待っててください! 今すぐ下降りますね!】
そんな連絡を聞きしばらく待つ。
景ちゃんを待つ間、エントランスに続く自動ドア前で部屋番号が分からないので、大人しくジッとしていると、管理人さんらしき人と目が合った。
お互いに軽い会釈をしたが、自分の場違い感に途轍もない居心地の悪さを感じる。
そんなことを考えていると、
「先輩お待たせしましたー!」
エレベーター到着し、中から景ちゃんが降りてきた。そして景ちゃんはエントランスを小走りで進み自動ドアを開けてくれた。
「あ、ちょっと待ってください」
せっかく来てくれた景ちゃんは何かあったのか、そう言うとエレベーターの方まで戻ると再度コチラへ走り出し、
「ごめんなさーい先輩! ……待ちましたぁ?」
そんなあざとい態度をとったので俺はあっさり告げた。
「待った」
「……あ、はい。遅くなりました……」
●
「どうぞどうぞ! 入ってください!」
お邪魔します、と景ちゃんに招かれ部屋に入る。
俺は思わず部屋のおしゃれさに驚きの声を上げ、景ちゃんに語りかけた。
「凄く良い部屋だな。なんだろう広過ぎてなんか緊張する」
「なんですかそれ? ささ、部屋を用意してあるんで荷物置きましょうよ先輩」
「お、おうそうだな」
そうしたら、と景ちゃんが言葉を溜めて言い放った。
「作戦会議ですよ。作戦会議」
「やけに楽しそうだな景ちゃん」
一旦部屋に荷物を置いてリビングのソファへ座ると、俺の横に景ちゃんが座った。
「何故に隣?」
「私いつもここに座っているんですよ」
「あ〜そういうことか理解した。話しづらいだろ? 対面に座るわ」
気を利かせソファを立とうとすると、突如左腕が錘でも付いているかのような重さに襲われ立ち上がることができない。
「……?」
何も言わずに横に視線を向けると、無言で俺の腕に抱き付く景ちゃん。
え、嘘……。
「……景ちゃんってどんだけ重いん____」
「力入れてるんですよ先輩。ぶっ飛ばしますよ?」
「あ、なるほどね」
笑顔ではいるがその笑顔が怖い。
さすがに女性には禁句だった。気をつけなければ……
そうして少し反省していると、景ちゃんは語り出す。
「さて、琴凪先輩の作戦会議を始めます」
「おう分かった」
……
…………
………………
「それとこの家にいる限り先輩の隣が私の席です」
「お、おう? 分かった」




