第6話:隠された依頼と、鑑定士の独壇場
猫探しの依頼をいとも簡単に達成した俺は、ギルド内で少しだけ注目される存在になっていた。「運のいい新人」というのが、もっぱらの評判らしい。俺はその評判を逆手にとり、毎日ギルドに通っては、鑑定スキルで「隠された情報」が筒抜けの、安全かつ確実に達成できる依頼だけを選んでこなしていった。
「失くした結婚指輪の捜索」→鑑定→『噴水広場の排水溝に引っかかっている』
「逃げ出した家畜のニワトリの捕獲」→鑑定→『隣の家の屋根裏に巣を作っている』
「倉庫のネズミ駆除」→鑑定→『親ネズミは北側の壁の穴の奥にいる。餌に弱い毒を混ぜれば一網打尽にできる』
どれも他の冒険者が匙を投げた面倒な依頼ばかりだったが、俺にとってはボーナスステージのようなものだ。依頼を次々と達成していく俺を見て、受付嬢のアイナさんの俺を見る目も、最初の侮蔑から、驚き、そして今では尊敬に近いものへと変わってきていた。
「ケンジ、あんた本当に何者なんだい……? もしかして、すごい探索系のスキルでも持ってるのかい?」
「さあ、どうでしょう。企業秘密です」
俺がそう言って悪戯っぽく笑うと、アイナさんは「ちぇっ、ケチ」と口を尖らせながらも、どこか楽しそうだった。
そんなある日、俺はいつものように依頼掲示板を鑑定していて、一枚の奇妙な依頼書に気づいた。それは、他の依頼書とは違い、羊皮紙の裏側に、肉眼では見えない特殊なインクで何かが書かれていたのだ。
『依頼内容:なし/依頼主:なし/報酬:なし』
表向きは、ただの書き損じの紙にしか見えない。だが、俺の鑑定は、その裏に隠された本当の依頼を映し出していた。
『【緊急依頼】錬金術師ギルドより/依頼内容:古代遺跡より発掘されし『呪われた宝珠』の回収/場所:アークライト下水道・第3区画/報酬:金貨10枚/隠された情報:宝珠は強力な呪いを放ち、周囲の生物を凶暴化させている。下水道のスライムが変異し、酸を吐く「アシッドスライム」と化しているため注意。宝珠の呪いは、清浄な魔力を帯びた布で包むことで一時的に中和可能』
「……金貨10枚!?」思わず声が出そうになるのを必死でこらえる。Fランクの依頼が銅貨数十枚の世界で、金貨10枚は破格中の破格だ。おそらく、正規の依頼としてギルドに出すと騒ぎが大きくなるため、腕利きの冒険者だけが気づけるように、こんな形で隠しているのだろう。
普通なら、Fランクの俺が手を出せる依頼ではない。だが、俺には鑑定スキルがある。敵の正体も、弱点も、対処法も、すべて分かっている。これは、俺のために用意されたような依頼じゃないか。
俺は誰にも気づかれないように、その書き損じの紙をそっと剥がした。そして、一度家に戻り、リオに事情を話すことにした。
「……というわけで、リオの力が必要なんだ。アシッドスライムは危険だが、火に弱いという特性がある。リオの魔法なら、安全に処理できるはずだ」
「師匠のお願いなら、僕、なんだってやります! それに、僕も実践で魔法を試してみたかったんです!」
リオは目を輝かせて快諾してくれた。彼女の師であるゼノンにも話を通し、「危険はない」と俺が鑑定結果を元に太鼓判を押すと、彼は「ケンジの『目』がそう言うなら、信じよう。だが、くれぐれも無理はするな」と、リオの同行を許可してくれた。さらに、彼は「呪いの中和に使えるかもしれん」と言って、聖印が押された清浄な布を一枚、俺に渡してくれた。これも鑑定すると、確かに高い魔力が込められているのが分かる。準備は万端だ。
俺とリオは、人目を忍んでアークライトの下水道へと足を踏み入れた。鼻を突く悪臭と、不気味な静寂。ここが、俺たちにとって初めての本格的な冒険の舞台となる。
「リオ、準備はいいか?」
「はい、師匠! いつでもいけます!」
俺は腰のミスリルの短剣を抜き、リオは小さな手のひらに魔力を集中させる。鑑定スキルという絶対的な情報アドバンテージを武器に、俺たちの初めての共同作業が、今、始まろうとしていた。




