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第3話:裏路地の賢者と、スマホの価値

「師匠、どこに行くんですか?」

「金策だ。お前の母親の薬代と、俺たちの生活費を稼ぐ」

 リオを連れて俺が向かったのは、アークライトの商業区だった。表通りには、武器屋や防具屋、立派なレストランが軒を連ねている。だが、俺の目当てはそんな場所にはない。

 俺の鑑定スキルは、人に対しても使える。その応用で、街ゆく人々を片っ端から鑑定し、「知識欲が強い」「珍しい物に目がない」「鑑定眼を持つ」といった特性を持つ人物を探していたのだ。

 そして、ついに見つけた。

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名前:ゼノン

種族:ヒューマン

職業:道具屋店主 [鑑定士兼]

レベル:25

HP:350/350

MP:280/280

スキル:

・鑑定 [B]

・錬金術 [C]

・商才 [B]

状態:退屈、知的好奇心

詳細:表通りを嫌い、裏路地でひっそりと道具屋を営む変わり者。真の価値を見抜く鑑定眼を持つが、その力を金儲けに使うことには興味がない。未知の道具や技術に目がなく、知的好奇心を満たすためなら大金を払うことも厭わない。

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「ビンゴだ」

 俺は人通りの少ない裏路地へと足を踏み入れた。その奥に、古びた木製の看板を掲げた一軒の店があった。『ゼノンの道具屋』。ここが目的の場所だ。

 店の中は薄暗く、得体の知れないガラクタ……いや、道具が所狭しと並べられていた。店の奥のカウンターで、白衣を着た白髪の老人が、気だるそうに頬杖をついている。彼がゼノンだろう。

「いらっしゃい。見ての通り、ろくな物は置いてないがね」

「探し物があって来ました。……鑑定をお願いしたい物が」

 俺がそう言うと、ゼノンの目がわずかに輝いた。

 俺はポケットから、バッテリーが切れて文鎮と化したスマートフォンを取り出し、カウンターに置いた。

「これは……?」

 ゼノンは奇妙な黒い板を手に取り、眉をひそめる。彼は自身の鑑定スキルを発動したようだが、首を傾げるばかりだ。彼のBランクの鑑定では、スマホの正体は掴めないらしい。

「わしの鑑定でも『未知の技術で作られた魔道具』としか分からん。小僧、お主、これが何だか分かるのか?」

「ええ。これは『スマートフォン』という名の、遠くの人間と話したり、様々な情報を記録、閲覧できる道具です。ただし、動かすには専用の『電気』という魔力が必要で……今は切れています」

 俺はスマホの基本的な機能を説明した。もちろん、俺の鑑定結果を元にした受け売りだ。

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名称:スマートフォン

種族:人工物

価値:計測不能

詳細:異世界「地球」の科学技術の結晶。通信、記録、演算など、多彩な機能を持つ超小型魔道具。この世界の技術レベルを数百年は超越している。構造を解析できれば、国家間のパワーバランスを覆すほどの技術革新をもたらす可能性がある。ただし、稼働には「電気」という特殊なエネルギーが必要。

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 俺の説明を聞き終えたゼノンは、興奮に打ち震えていた。

「通信……記録……演算……一つの道具でか!? 馬鹿な、そんなことが可能なのか!?」

「可能です。この世界にはない技術なので、信じられないかもしれませんが」

「信じよう。いや、信じたい! 小僧、いや、ケンジ殿! それを私に譲ってはくれんか!? もちろん、相応の対価は支払う! 金貨100枚……いや、200枚でどうだ!」

 金貨200枚。銅貨にして200万枚。ゴブリンの魔石が10枚だったことを考えると、まさに桁違いの金額だ。

「……いいでしょう。ただし、条件があります」

「な、なんだね!?」

「この子の母親の病気を治す、最高の薬を用意してください。それと、この子の魔法の才能を開花させるための指導もお願いしたい」

 俺はリオを前に押し出した。ゼノンは訝しげにリオを鑑定し、そして、スマホを見た時以上に目を見開いた。

「【魔導の寵児】だと……!? 馬鹿な、おとぎ話の中だけの存在ではなかったのか……!」

 ゼノンはしばらく天を仰いで何かを考え込んでいたが、やがて腹を括ったように大きく頷いた。

「……面白い! 実に面白い! よかろう、その条件、このゼノンが呑んだ! 薬は最高の物を用意しよう。この小娘……いや、お嬢ちゃんの才能、わしが責任を持って開花させてみせる!」

 こうして俺は、スマホ一台と引き換えに、リオの母親の治療薬と、最高の魔法の師匠、そして金貨200枚という大金を手に入れた。

 店の外に出ると、リオが不安そうな顔で俺の服の裾を掴んだ。

「師匠……よかったの? あんなに価値がある物だったのに、僕のために……」

「お前は俺の最初の弟子だからな。それに、あれは俺の世界じゃ大したものじゃない。それより、お前にはこれから厳しい修行が待ってるぞ。覚悟はいいか?」

 俺がニヤリと笑うと、リオは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに力強く頷いた。

「はい、師匠! 僕、頑張ります!」

 その笑顔は、少年のような快活さと、少女らしい可憐さが入り混じった、不思議な魅力を持っていた。

 鑑定スキルが繋いだ、最高の師と弟子。

 手に入れた大金と、無限の可能性を秘めた才能。俺の異世界生活は、ようやく本格的に軌道に乗り始めようとしていた。

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