第11話:三人での初仕事と、オークの巣
翌日、俺たちは三人揃って冒険者ギルドへと向かった。
司令塔の俺、ケンジ。斥候の猫獣人、リリィ。そして後衛魔法使いのリオ。昨日結成されたばかりの、俺たちのパーティー『鑑定士の目』(今、俺が即興で考えた)の初陣だ。
ギルドに入ると、案の定、リリィに向けられる好奇と侮蔑の視線が突き刺さる。獣人というだけで、この街ではまだ差別的な扱いを受けることが多い。リリィは俯き、小さく身を縮こまらせた。
「リリィ、顔を上げろ。お前は俺のパーティーの、誇るべき仲間だ。堂々としていればいい」
「……はいっ!」
俺が力強く言うと、リリィはきゅっと唇を結び、前を向いた。その隣で、リオが「そうだそうだー!」とリリィの手を握る。この二人、本当に仲良くなるのが早くて助かる。
俺は依頼掲示板の前に立ち、いつものように鑑定を開始する。今日の目的は、三人での連携を確認するための、適度な難易度の依頼だ。戦闘は避けたいが、斥候であるリリィの能力が試されるような、探索系の依頼がいい。
何枚かの依頼書を鑑定していく中で、俺は一つの依頼に目を留めた。
『依頼内容:アークライト東の森・オークの巣の調査/依頼主:冒険者ギルド/報酬:金貨1枚/詳細:最近、東の森でオークの目撃情報が多発している。巣の規模と、リーダー格の個体の有無を調査されたし。戦闘は推奨しない』
オーク。ゴブリンよりも一回り大きく、知能も高い亜人だ。Fランクパーティーが手を出すには少し早い相手だが、今回の目的にはちょうどいい。なにより、この依頼には興味深い「隠された情報」があった。
『隠された情報:巣の奥には、古代遺跡へと続く隠し通路が存在する。遺跡内部には、オークたちが価値を理解できずに放置している宝箱が複数あり。巣のリーダーは「オーク・ジェネラル」。通常のオークより遥かに強力だが、知性が高く、交渉の余地あり』
「……これだ」
戦闘を避けつつ、斥候の能力が活かせる。そして、奥にはお宝の匂い。まさに俺たちのためにあるような依頼じゃないか。
俺はその依頼書を剥がし、受付嬢のアイナさんの元へ持っていく。
「ケンジ! あんた、正気かい!? オークの巣の調査なんて、Fランクパーティーが手を出す依頼じゃないよ! しかも、その子……獣人を連れてるのかい。悪いことは言わない、やめておきな」
アイナさんは心底心配そうな顔で俺を止めようとする。彼女の鑑定結果は『心配、老婆心、ケンジへの好意(微)』。どうやら、すっかり俺のことを気にかけてくれるようになったらしい。
「大丈夫ですよ、アイナさん。俺たちなりのやり方がありますから。それに、このリリィは、誰よりも優秀な斥候です」
「むぅ……。あんたがそこまで言うなら、もう止めないけど……。絶対に無茶はするんじゃないよ!」
アイナさんから依頼の正式な受注書を受け取り、俺たちはギルドを後にした。
◇
アークライトの東門から森へ入り、歩くこと一時間。
リリィは、まるで森の一部であるかのように、音もなく木々の間を駆け抜けていく。彼女の猫のような瞳は、地面の些細な痕跡も見逃さない。
「ケンジさん! こっちです! オークの足跡が続いています。数は……5体以上。重さから見て、かなり大柄な個体です」
リリィの報告と、俺の鑑定による未来予測を組み合わせることで、俺たちの索敵能力は、そこらの高ランクパーティーを遥かに凌駕していた。
「よし、その方向で間違いない。だが、50メートル先に罠がある。地面に偽装された落とし穴だ。鑑定によれば、深さは3メートル。底には尖った杭が仕掛けられている。左に5メートル迂回して進んでくれ」
「りょ、了解です!」
リリィは俺の的確すぎる指示に驚きながらも、完璧にこなしていく。彼女の斥候術は、俺の鑑定という「答え」を知ることで、その真価を最大限に発揮できるのだ。
その後も、俺は鑑定で吊り天井の罠や、毒矢の発射装置を次々に見抜き、リリィがその情報を元に安全なルートを確保していく。リオは後ろで、「すごい……二人とも、まるで未来が見えてるみたい……」と感嘆の声を漏らしていた。
やがて、俺たちは森の奥深く、巨大な洞窟の入り口にたどり着いた。ここがオークの巣で間違いない。入り口には、見張りのオークが二体、巨大な棍棒を手に立っている。
「どうしますか、ケンジさん? 私が注意を引きますか?」
「いや、その必要はない」
俺はリリィを制し、おもむろに茂みから姿を現した。
「な、何をするんですか、師匠!?」
リオが慌てるが、俺は落ち着いてオークたちに話しかける。もちろん、事前に鑑定したオークの言語スキルを【模倣】してだ。
「グルァ……(待て)」
「「グガッ!?(人間!?)」」
オークたちは驚き、棍棒を構える。だが、俺が彼らの言葉を話したことに、それ以上の戸惑いを見せていた。
「俺は、お前たちのボスに話がある。争うつもりはない。道を開けてもらえないか」
俺の流暢なオーク語に、見張りの二体は顔を見合わせる。そして、片方が巣の奥へと走っていった。しばらくして、そのオークが戻ってきて、俺に「中へ」と手招きをした。
俺はリオとリリィに目配せし、オークの巣の中へと足を踏み入れた。
洞窟の内部は広く、松明の火があちこちで燃えている。十数体のオークが、警戒しながらも俺たちを遠巻きに見ていた。
洞窟の最奥。そこには、他のオークたちよりも一回りも二回りも大きな体躯を持つ、威厳に満ちたオークが、石の玉座に腰掛けていた。全身を傷だらけの鎧で固め、手には巨大な戦斧を握っている。あれが、この巣のリーダー、『オーク・ジェネラル』だ。
『名称:オーク・ジェネラル/種族:オーク/スキル:斧術(上級), 指揮(中級), 古代語理解/状態:警戒, 興味/隠された情報:古代の盟約に従い、この先の遺跡を守護している。侵入者には容赦しないが、理知的な対話には応じる』
やはり、ただの魔物ではない。
オーク・ジェネラルは、その濁った瞳で俺をじっと見据え、地響きのような声で言った。
「……人間よ。何の用だ。我らの縄張りに、死にに来たか」
その圧倒的な威圧感に、リオとリリィが息を呑む。だが、俺は臆さなかった。鑑定で、彼が対話を求めていることが分かっているからだ。
「あんたたちの巣を調査しに来た、ただの冒険者だ。だが、面白いものを見つけた。あんたたち、この奥にある遺跡を守っているんだろう?」
俺の言葉に、オーク・ジェネラルの目の色が変わった。
俺たちの、初めての「交渉」が始まろうとしていた。




