第12話:オークとの交渉と、遺跡の宝
俺の言葉は、洞窟内の空気を一変させた。
それまで遠巻きに見ていただけのオークたちが、武器を手にじりじりと距離を詰めてくる。玉座に座るオーク・ジェネラルの眼光も、先ほどまでの「興味」から、明確な「敵意」へと変わっていた。
「……貴様、どこでそれを知った」
地を這うような低い声。もし俺に鑑定スキルがなければ、その殺気に当てられて、腰を抜かしていたかもしれない。
「まあ、ちょっとした情報網があってね。あんたたちが守っているのは、ただの遺跡じゃない。古代の盟約――そうだろう?」
俺はハッタリをかます。鑑定で得た『古代の盟約』というキーワード。これが、交渉の突破口になるはずだ。
オーク・ジェネラルは、俺の言葉に目を見開いた。
「……盟約を知る者が、まだ生き残っていたとはな。そうだ。我ら一族は、遠い昔、この地の王と交わした盟約に従い、この先の『封印の間』を守護する者。貴様ら冒険者のように、物欲しさに遺跡を荒らす輩を排除するのが、我らの役目だ」
「なるほどな。だが、俺たちはその『封印の間』とやらに用はない。俺たちが興味あるのは、あんたたちがガラクタだと思って、そこに転がしてある宝箱だけだ」
俺はわざと挑発的な口調で言った。鑑定によれば、遺跡の内部には、オークたちが価値を理解できずに放置している宝物がいくつかある。彼らにとってはどうでもいい物でも、人間社会に持ち帰れば大金になるはずだ。
「宝だと? あんなものは、ただの古い箱やガラクタだろうが」
「あんたたちにとってはな。だが、俺たちにとっては価値がある。そこで提案だ。俺たちに、そのガラクタをいくつか譲ってくれないか? もちろん、ただとは言わない。見返りはこちらが用意する」
俺は懐から、一樽の酒を取り出した。これはアークライトで一番美味いと評判のドワーフ産のエールだ。事前にオークの好物を鑑定し、用意しておいた交渉材料だ。
「これは……酒か?」
「ああ。あんたたちが飲んでる泥水みたいな酒とは、比べ物にならない逸品だ。一口飲めば分かる」
オーク・ジェネラルは、疑わしげに樽を受け取ると、その封を豪快に引きちぎり、中身を呷った。
瞬間、彼の濁った目が、カッと見開かれる。
「ぐっ……うまいっ! なんだこの喉越しは!?」
周りのオークたちも、その匂いに誘われてそわそわし始めている。よし、食いついた。
「どうだ? 気に入ったなら、これを10樽提供しよう。その代わり、俺たちに遺跡の中の『ガラクタ』をいくつか譲ってもらう。悪い話じゃないだろう? 俺たちは『封印の間』には近づかない。あんたたちは役目を果たせるし、美味い酒も手に入る」
オーク・ジェネラルは、腕を組み、しばらく唸っていた。彼の頭の中では、一族の使命と、目の前の極上の酒とが、激しい天秤にかかっているのだろう。
やがて、彼は顔を上げ、決断したように言った。
「……よかろう。その取引、受けよう。ただし、条件がある。『封印の間』の扉には絶対に触れるな。そして、持ち出していい『ガラクタ』は、三つまでだ。それ以上を望むなら、この場が貴様らの墓場となると思え」
「交渉成立だな。感謝する」
こうして、俺は戦闘を一切行うことなく、オークたちとの交渉を成功させた。これも全て、鑑定スキルで相手の目的、性格、そして好物までも見抜いていたからこそ可能な芸当だ。
俺たちはオーク・ジェネラルに案内され、巣の奥にある隠し通路へと進んだ。そこは、明らかに人の手によって作られた石造りの通路で、壁には古代の文字がびっしりと刻まれている。
「す、すごい……。こんな場所が、森の奥にあったなんて……」
リリィが感嘆の声を上げる。
通路を抜けた先は、広大な地下空間になっていた。これが、古代遺跡か。
空間のあちこちに、オークたちが言っていた通り、いくつかの宝箱が無造作に転がっている。そして、一番奥には、巨大で厳重な封印が施された、禍々しい気配を放つ扉があった。あれが『封印の間』だろう。
「さて、お宝選びの時間だ」
俺は、三つまでという条件の中で、最も価値のある宝を見つけ出すべく、鑑定を開始した。
一つ目の宝箱を鑑定する。『中身:さびた鉄の剣(5本)』。ハズレだ。
二つ目の宝箱。『中身:古代金貨(30枚)』。当たりだが、もっといいものがあるはずだ。
そして、三つ目の、ひときわ装飾の美しい宝箱を鑑定した瞬間、俺は息を呑んだ。
『名称:転移の魔導具/等級:伝説級/価値:計測不能/詳細:古代文明の遺産。対となる魔導具の場所へ、瞬時に移動することができる。現在は魔力が枯渇しているが、高純度の魔石を動力源とすることで再起動が可能』
「……とんでもないお宝を引き当てちまったな」
これは、金に換えられるような代物じゃない。使い方次第では、この世界の常識すら覆しかねない、戦略級のアイテムだ。
俺は、この『転移の魔導具』と、先ほどの『古代金貨』、そしてもう一つ、鑑定で見つけた『魔力回復薬のレシピが書かれた石板』を、約束通り三つの「ガラクタ」として選び、オークたちに礼を言って巣を後にした。
帰り道、リオとリリィは興奮を隠しきれない様子だった。
「師匠、すごいです! 戦わずに、あんな怖いオークたちと取引しちゃうなんて!」
「ケンジさん、一体どうやったんですか……? まるで、相手の考えてることが全部わかってるみたいでした……」
「言っただろ? 俺たちなりのやり方があるってな」
俺はそう言って笑った。
鑑定と模倣、そして交渉術。俺の武器は、確実に増えている。
手に入れた『転移の魔導具』。これを起動させることができれば、俺たちの行動範囲は飛躍的に広がるだろう。
俺は、次なる目標を定め、アークライトの街への帰路を急ぐのだった。




