第10話:斥候の才能と、パーティーへの誘い
チンピラを撃退した後、俺はリリィを近くの食堂に連れて行き、温かいスープを奢ってやった。彼女はよほどお腹が空いていたのか、夢中でスープを啜っている。その姿は、リオと初めて会った時を思い出させた。
「ごちそうさまです……。生き返りました」
「どういたしまして。さっきは大変だったな。何かトラブルかい?」
俺が尋ねると、リリィは少し俯きながら、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
彼女は、少し離れた村の出身で、冒険者になることを夢見てアークライトに出てきたらしい。しかし、獣人であるというだけで差別を受け、まともなパーティーに入れてもらえない。日銭を稼ぐために賭け事に手を出してしまい、さっきのチンピラたちにイカサマで負わされた借金を押し付けられていた、というわけだ。
「私……斥候の腕には自信があるんです。誰よりも早く危険を察知して、どんな罠でも見つけられます。でも、誰も信じてくれなくて……」
悔しそうに唇を噛むリリィ。俺の鑑定は、彼女の言葉が真実であることを示している。彼女の持つ『斥候術(中級)』と『軽業(上級)』は、パーティーの生存率を格段に上げる、非常に優秀なスキルだ。こんな才能が、埋もれているなんてもったいない。
「……リリィ。もし、お前さえよければ、俺たちのパーティーに来ないか?」
「え……?」
俺の突然の誘いに、リリィは猫のように大きな瞳を、さらに大きく見開いた。
「で、でも、私は獣人ですし……足手まといになるだけです……」
「足手まといかどうかは、俺が決める。それに、俺のパーティーには、お前のような斥候の才能が必要なんだ」
俺のパーティー、と言っても、現状は俺とリオの二人だけだが。
俺は、俺たちのパーティーが、普通のパーティーとは少し違うことを説明した。俺がリーダー兼司令塔で、戦闘は主に後衛の魔法使いが担当する、と。
「だから、前衛で敵の攻撃を防ぐタンク役はいない。その代わり、敵に先んじて危険を察知し、安全なルートを確保してくれる斥候が、どうしても必要なんだ」
俺の真剣な言葉に、リリィの瞳が揺れる。彼女はずっと、自分の力を必要としてくれる場所を探していたのだろう。
「……私で、いいんですか?」
「お前がいいんだ。どうかな?」
俺が手を差し出すと、リリィは一瞬ためらった後、その小さな手で、俺の手を力強く握り返した。
「……はいっ! 私、ケンジさんのパーティーに入ります! 絶対に、あなたの役に立ってみせます!」
こうして、猫獣人の少女、リリィが俺たちのパーティーに加わることになった。
◇
その日の夕方、俺はリリィを連れて、新居へと戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさい、師匠! ……と、そちらの方は?」
出迎えてくれたリオが、俺の後ろにいるリリィを見て、不思議そうな顔をする。
「紹介するよ。今日から俺たちの仲間になる、リリィだ。斥候として、俺たちを助けてくれる」
「リリィです! よろしくお願いします!」
リリィが緊張した面持ちで頭を下げる。リオは最初、少しだけ警戒したような目つきをしたが、すぐにふわりと微笑んだ。
「リオです! よろしくね、リリィちゃん! 私、年が近い仲間ができて嬉しいな!」
「は、はいっ! リオさん!」
どうやら、二人の相性は悪くなさそうだ。サラさんもリリィを温かく迎え入れてくれ、その日の食卓は、昨日までよりもずっと賑やかになった。
食事の後、俺はリオとリリィを地下の工房に集めた。今後の俺たちの戦い方について、認識を共有しておく必要がある。
「まず、俺たちのパーティーの基本方針だ。第一に、絶対に無理はしない。第二に、危険な戦いは徹底的に避ける。そして第三に、俺の指示には絶対に従ってもらう」
俺は、自分の鑑定スキルについて、その詳細までは伏せつつも、「俺には、他の人には見えないものが見える」と説明した。危険な罠の位置、敵の弱点、隠された通路。そういった情報を、俺は正確に把握できる、と。
「だから、俺が『進め』と言ったら、そこは絶対に安全だ。逆に、俺が『止まれ』と言ったら、その先には必ず危険がある。それを信じてもらうことが、このパーティーの絶対条件だ」
次に、それぞれの役割分担を明確にする。
「リリィは斥候として、俺の前を進んでくれ。お前の『軽業』スキルは、万が一の時の回避にも役立つ。俺の鑑定と、お前の斥候術。二つの『目』があれば、どんなダンジョンでも安全に踏破できるはずだ」
「はいっ!」
「リオは、俺とリリィの後方、パーティーの最後尾に位置してくれ。そして、俺の合図があるまで、絶対に魔法を使うな。だが、いざという時は、お前の最大火力で、敵を殲滅してもらう」
「分かりました、師匠!」
司令塔の俺、斥候のリリィ、そして切り札のリオ。
タンク役がいない、いびつな構成。だが、俺の頭の中では、この三人が完璧に連携し、どんな困難な依頼もスマートにこなしていく未来が、はっきりと見えていた。
「よし、じゃあ、明日は早速、三人での初仕事だ。ギルドに行って、少し骨のありそうな依頼を受けてこよう」
俺の言葉に、リオとリリィは、期待に満ちた輝く瞳で、力強く頷いた。
鑑定士、魔法使い、そして斥候。
俺たちの、本当の冒険が、いよいよここから始まる。俺は、新たな仲間と共に歩む未来に、胸の高鳴りを抑えきれなかった。




