↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/135

第90話 メッセージ

 アストは一人、大聖堂の外に佇んでいた。

 陽が落ち始めた空は赤く滲み、まるで彼の心を憂うように揺らめく夕日が浮かんでいる。


 「父さん……僕はどうすれば……」


 リリアがどういう人物かは、ミアから聞いて分かっている。

 そして、失ったはずの記憶の“感触”が、彼女を許せと告げている。

 アストは石壁に背を預けてしゃがみ込むと、弱々しく揺れる草木をただ眺めていた。


 そこへ、レオンがやってきた。

 そっと寄り添うように、彼の横へ歩み寄る。

 まるで父のような柔らかい笑みを浮かべ、少しかがむとアストの肩に手を添えた。


 「なぁ、アスト。

  リリアさんは、私にさえ弁明はしなかった。

  “過去の罪を全て背負う”と、はっきり告げていたよ。」


 レオンはアストの隣にしゃがんで座る。

 そのまま、ゆっくり沈む夕日を眺めながら続けた。


 「彼女は、初めから今までずっと……

  そして、これからもお前たちの味方だ。

  一度裏切ってしまった私とは違ってな……」


 眉間に皺を寄せ、瞳を揺らしながら俯くレオン。

 その姿は、忘れられない後悔を今も噛み締めている、彼の心の痛みを映していた。


 「レオンさん……

  それはもう、終わったことのはずです。」


 そう言って俯き、小石を拾い上げるアスト。

 レオンもそばにあった小石を拾うと、手の中に軽く握り込んだ。


 「お前は優しいな……

  それをリリアさんにも分けてあげてくれ。

  お前のためだけじゃない。ミアのためでもあるしな。」


 それを聞いたアストは俯きながら少し間を置くと、決意を固めてそっと立ち上がった。

 彼の表情には微かに迷いを残しつつも、どこか吹っ切れたような清々しさを宿す。


 「そうですね。心配かけてすみません。

  リリアさんのところに戻りましょう。

  滅んだはずの民の都を、探さないといけませんしね。」


 「ああ、その意気だ。」


 レオンは優しく微笑んで立ち上がると、アストの肩を軽く叩いた。

 二人は拳を合わせると、揃って大聖堂の中へ戻っていった。


 ◆◆◆


 中では、資料を睨みながら何か手伝えないかと模索するリリアの姿があった。

 古代文字や星法紋に精通していても、やはり遺跡や文献の情報を拾い上げるという作業は困難を極める。


 眉を寄せて額を押さえるリリア。

 そんな彼女に、戻ってきたアストがそっと声をかけた。


 「リリアさん……」


 「ああ、アスト。

  もう大丈夫なのか……?」


 リリアは彼の様子を気遣うように尋ねる。

 そこには、少し彼女らしくない“遠慮”のような感情が滲んでいた。


 「ええ、すみません。

  あなたに気を遣わせてしまって……」


 アストはそう言ってそっと頭を下げる。

 リリアはふわりと口元を緩め、優しい笑みを浮かべて言った。


 「お前が大丈夫ならそれで構わんさ。

  私こそ、辛い想いをさせてすまないな。」


 常に自分の気持ちを優先してくれるリリアの優しさが伝わる。

 そんな彼女の姿に、アストはどこか懐かしい感覚を思い出した。


 「とんでもないです。

  それ、僕にも手伝わせてください。」


 「ふふ、何を言う。手伝いは私だ。

  お前とレオン殿でなければ、この謎は解けまいよ。」


 そう言って席をあけ渡すとリリアは隣に座り直す。

 彼女は記憶を失って離れたその距離を憂いながら、アストの横顔をそっと見つめていた。


 アストは資料をじっと見つめ、レオンも向かいの席に座ると、二人で分担して一文字ずつ噛みしめるように読みふける。

 しかし、その横で遠目から資料を眺めていたリリアは、ふとあることに違和感を覚えた。


 「なあ、二人とも。

  資料の中にある古代文字なんだが……」


 「文字に何かありましたか?」


 首を傾げているリリアに、振り返ったアストが尋ねる。

 リリアは少し身を乗り出すと、資料の一部をいくつか指で示した。


 「この文字と……こちらもだな。

  わざと歪ませているように感じるんだが……」


 その言葉を聞いたアストとレオンは、椅子が倒れそうなほどの勢いで身を乗り出した。


 「ほんとだ……!」

 アストが目を見開く。


 「歪んだ文字を探すぞ……!」

 レオンは少し興奮気味に声を上げた。


 三人はそれぞれ、資料の文字の中から“歪んだもの”だけを探し出していく。


 そして、浮かび上がった二つの言葉──

 それは御伽話に登場する国の名である“シアータイル”と、“オリガ”という謎の古代語だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。