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第81話 それは敵か味方か

 ゼルドアとアローナによる聖王国急襲から数日が経った。

 その短い期間に、帝国と聖王国はこれまでにない大きな動きを見せていた。


 帝国側では、ゼルドアだと思われ監視されていた影武者のティアドイデア教信者が、突如自害。

 なぜかその遺体からは、ゼルドア及びアローナと暗部による急襲の痕跡や、イデアリンドが帝国と聖王国双方に暗躍していた証拠が次々と発見された。


 帝国はこの事態を重く受け止め、すぐさま聖王国との協議を開始。

 聖王国も、国内で起きた襲撃事件に対する不安があったことから、協議は即時締結される。


 エリオットは元帥としてハンスを呼び戻すと、宗教国家イデアリンドの打倒を掲げ、歴史上初となる二大国の連合軍が結成された。


 連合軍は即座に侵攻を開始。

 イデアリンドは先の一件から不可思議なほど戦力が減退しており、さらに鬼神ゼルドアを失ったことで、連合軍の進撃に瞬く間に圧倒されていった。


 そして、最後に残る場所──

 そこは教皇がいるとされる神殿の奥。


 その制圧を任されたのは、帝国軍を中心としたイルガ大佐率いる精鋭部隊。

 しかし、彼らが突入した時にはすでに、信じられない異様な光景が広がっていた。


 「な、んだ……これは……」

 言葉を失うイルガ。


 無数の亡骸と、薄く床に広がる血。

 中央に置かれたカテドラには──

 首を落とされた教皇と思われる遺体が静かに座している。


 そして、その横に立っていたのは──

 幾つもの影を従え、鮮血を吸い上げた赤い水流を身に纏い、光を閉ざす死闇の鎌を携えた“死神”。


 イルガたちに視線を向けたその死神は、不気味に口角を上げると、影たちを率いて暗闇へ溶けるように姿を消した。


 「まてッ!!──くそ……

  お前たち、急いで周辺の捜索にあたれ!」


 連合軍はすぐさま周囲の捜索を行ったが、ついにその姿を捉えることはできなかった。


 こうして──

 大陸を揺るがす歴史的事件は、多くの謎を残したまま一応の終結を迎えることになる。


 ◆◆◆


 イデアリンド崩壊から間もなく。


 レイナードは先の一件から、自身への戒めのように国防に力を入れ、騎士たちとともに国中の防衛体制の見直しに追われていた。


 その頃──


 聖王国の騎士庁舎執務室には、その報を受けたリリアとシルベリアの姿があった。

 シルベリアは、優麗な佇まいでソファに腰掛け、リリアはその向かいにある机に肘をつき、口元の前で両手を組んで座っている。


 「イデアリンドの教皇は……

  連合軍の突入に先んじて、首を落とされていたそうだ。」


 そう言って眉間に皺を寄せるリリア。

 シルベリアはソファから少し身を起こすと、首を傾げ、怪訝な表情を浮かべて呟く。


 「そうらしいわねぇ。

  誰かの恨みでも買っていたのかしらぁ。」


 リリアは、微かな疑念を宿した瞳で彼女を見据えて言った。


 「恨みなら、いくらでも買っていそうだがな……

  死闇の鎌を携えた、水流を纏う死神だそうだぞ、シルベリア。」


 「そうなのぉ?怖いわねぇ……」


 その声は柔らかく響きながらも、どこか底知れない気配を宿していた。


 「これ以上の詮索は……

  私の首も、危ういかもしれんな。」


 「……そうかもしれないわねぇ。」


 シルベリアは薄く笑みを浮かべた。

 その笑みは、彼女の身を案じているようで、しかしどこか冷ややかでもある。


 「重傷を負ったエラルドも、無事だったようだが……

  シルベリア……一つだけ意見を聞かせてくれないか?」


 「ふふ。私にわかることならどうぞぉ?」


 リリアは、彼女の反応を伺うように少し間を置き、息を整えて問いかけた。


 「“死神”とやらは、味方だと思うか?」


 シルベリアは目を細め、まるで、可愛がる子どもに秘密を教えるような声を響かせる。


 「あらぁ、難しい質問ねぇ……

  “あなたたちがあなたたちのままである限り”、味方なんじゃないかしらぁ?」


 「……そうか。」

 そう静かに呟くリリア。


 シルベリアはそっとソファから立ち上がると、リリアを見据えてふわりと微笑む。

 そしてそれ以上は何も語らず、背を向けたまま手を振り、その場を後にした。


 残されたリリアは、そっと視線を落とす。

 彼女は、机の上で握る両手を見つめて呟いた。


 「“我々である限り”、か……」


 誰に聞かせるわけでもないその言葉は、執務室を包む静寂の中へと、溶けるように静かに消えた──



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