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第7話 猛る戦神

 帝国軍の軍議から数日後──


 ハンスは地方都市の裏路地を歩いていた。

 帝国から放たれた追手の影を探し出すためである。

 彼の巨躯は夜の闇に溶け込むことはなく、むしろ異様な存在感を放っていた。


 大将としての立場を利用し、立ち寄る地域で有力者の元へ赴き、変わった人物の来訪や普段見かけない人物についての情報を集める。

 また、人望の厚い彼は帝国軍内にも協力者がおり、そこから得る情報も彼を後押しした。


 やがて、彼は一人の男を見つけた。


 軍服を纏っていないその姿は、明らかに帝国軍の人間ではなかった。

 仄暗い外套に身を包み、目だけが異様に鋭い光を放つ。

 腰には魔力を帯びた短刀を忍ばせ、静音に優れた弓型の毒弾銃を背に掛けている。


 ──裏の世界に生きる者の典型だった。


 「帝国軍大将の名において命じる。

  ……任務を中止して、大人しく去れ。」

 ハンスの声は低く、しかし揺るぎない威圧を帯びていた。


 男は冷笑を浮かべ、肩をすくめた。

 「これはこれは……戦神と名高いハンス殿。

  だがなぁ、いくらあんたの命令でもねえ。」


 少し間を空け、男は険しい表情を浮かべた。

 「元帥殿から金を受け取っている以上……

  こちらも、退くわけにはいかんのだ。

  ──邪魔をするなら、お前も殺す。」


 この機械まみれの巨躯を前に、一切怯まず嘲笑すら浮かべる。

 そんな目の前の男に、ハンスはある種の敬意すら覚えた。


 帝国軍元帥ともあろう者が、金で暗殺者を雇い少女を追わせている──

 誇り高き帝国軍の名が、裏社会の血で汚されていることに、彼は深い失望と憤りを覚えた。

 その眉間には、静かに深く皺が刻まれていく。


 ──次の瞬間。


 短刀の鋭い光が夜気を切り裂き、暗殺者は獣のように襲いかかってきた。

 ハンスは眉間の皺を深めると、億劫だと言わんばかりの溜息を吐いた。

 それが避けられぬ戦いだと悟ったのだ。


 表情を引き締めたハンスは、その巨躯に似合わぬ俊敏さで身を翻す。

 鋼鉄の義肢が威嚇するように軋み、地面を踏み砕く音が響く。


 彼の膂力は常人の比ではなく、武装義肢で底上げされたその力は、己の肉体のみで戦車の砲台を曲げ折るほどの力を秘めていた。

 暗殺者の刃は空を切り、次の瞬間にはその身体が砕けた地に埋もれ、ハンスが掴んだ背の武器は握り潰されていた。


 ──勝負は一瞬だった。


 「……少女を追うことは俺が許さん。

  この金は報酬代わりだ。治療費にでも使え。」


 ハンスは低く呟き、金の詰まった袋を倒れた男の元へと投げた。

 冷酷なその瞳には怒りではなく、静かな決意が宿っていた。


 戦いの余韻を感じながらハンスは思った。


 守るべき国民──しかも少女を、執拗に追い詰めるその行いは、どんな理由であっても許されていいはずがない。

 その巨躯で数多の戦場を駆け抜け、数えきれない程の命を屠ってきた彼だからこそ、無垢な命を守ることの意味を知っていた。


 その後、帝国による刺客の影は大きく後退した。


 戦神ハンスの活躍によって、アストとミアを取り巻く追っ手の影は激減したのである。

 二人は、夜ごと怯えることなく眠りにつけるようになり、その顔にはわずかな安堵の表情が戻っていた。


 だが同時に、帝国の中でハンスの立場は危うくなりつつあった──


 帝国の意に背き、少女を守る道を選んだ強い信念。

 しかしそれは、その巨躯と膂力を持ってしても背負いきれない程に、彼の身に重くのしかかるのかもしれない。



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